白夜ノ断罪者

 千景ちかげがまた夜風を浴びながら、窓の外を見るともなく見ていると、赤い閃光せんこうがこちらに向かって物凄ものすごいいスピードで向かってきた。それが窓の近くまでくると、勢いよく飛び上がり「ごっしゅっじーんーー!」と言いながら、千景に向かって飛びかかってきた。それを横にかわすと、宙音そらねがタックルを食らわすように「しゃっこちゃーーーん」と抱き着いた。


「宙音ちゃん!」


天音あまね、後は任せた、ゴルビスの屋敷やしきにエンデラの者が来たということだから、ここにも来るかもしれない、もし来たのなら、捕まえておいてくれ、俺は白狐びゃっこが捕らえているやつに会いに行ってくる」


「かしこまりました、御館様、あ、あと申し上げにくいことがあるのですか」


「どうした? こいつらの面倒を見るのが嫌とかか……?」


「ち、違います! あ、あのですね……お腹がですね……」


「空いたということか……」天音が恥ずかしそうにコクリと頷いた。


「そ、そうか、あの時、結構食べてたと思ったけど、時間経ってるしな、どうしようか……ミレアの護衛は、水音みずねと宙音と赤狐がいれば大丈夫か」


「大丈夫でーす! まっかせといてください、水音ちゃんと赤狐ちゃんもいるから飽きないしダイジョブ、宙音ダイジョブ」


きる飽きないで、護衛ごえいをしてくれるなよ……この三人だと、まとめるやつがいなくて若干不安があるが、今後はそれでもやっていかないといけないんだから、お願いするか。まあ少しの間だけだ、じきに虎徹も戻ってくるし、大丈夫だろう、そういうことだ天音、エルタを連れてなにか食べられるもの貰ってくるといい、女王を連れて行けばなにか貰えるだろ」


「あ、ありがとうございます! 御館様おやかたさま、ではそのように致します」


「わたしもお腹空いてたんだよねえー、色々食べそこなちゃってさあ、ご主人に止められてえー」


「人間は食うなよ、しかしなんか一気ににぎやかになったな……いいか人数が増えたからって、気をゆるめないで、絶対エルタとミレアだけは守り抜けよ! おそってくるやつは捕まえること、ただ自分達の身が危なければ殺してしまって構わない」


「おっけぇーい、いえぇーい、ふぅー」宙音と赤狐がわかってるんだかどうだかわからない感じでベッドで弾んでいる。水音は、黙って正座で座っているが、二人がはずんでいるのでそれに合わせて奇妙きみょうに弾んでいた。


「もういいや……行ってくる」


「いってらっしゃいませ、御館様」という天音の言葉を背中に受け、千景はゴルビスの屋敷に向かった。


 ゴルビスの屋敷は、騒動そうどうの後、人払ひとばらいがされていたらしく、昼間に見た、執事しつじや、メイドの姿は見られなかった。暗い夜の中で見るゴルビスの屋敷は、どこかの遊園地のお化け屋敷のようであった。絵の中の人物が、しゃべりだしたり、どこからともなくピアノが鳴ったとしてもなにも不思議なことはない、そんな雰囲気ふんいきだった。


 さくを越え、屋敷の外側をぐるりと回り、裏側の湖に面している方に出た、白狐の話からすると、捕まっているやつは、たぶんゴルビスの自室にいる。千景は、飛び上がり、ベランダの手すりの上に音もなく乗った。そこから部屋の中を覗くと、夜の闇の中でも、するどく光る白狐の目と目が合った。その後ろには、四角い砂のひつぎに納まっている、男が二人。


「主様、お待ちしておりました、意外に早かったですね」


「すぐに来たからな、丁度赤狐も行違うことなく合流できたよ」


「そうですか、赤狐は、ちょっとアホなところがありますけど、馬鹿じゃないので言ったことはわかりますよ」


「俺はそこまでは言ってないよ、白狐、で、この二人か」


「ええそうです、回復の術も使って延命してますので、お話しも出来ますよ、主様」そうかと返事をしながら千景は近づく。回復の術を使っているとはいえ、徐々に体力が奪われる砂の棺は、体にこたえるらしく、顔中から汗がしたたっていた。


「お前たちは、ビマと同じエンデラの暗殺者の『白夜びゃくや断罪者だんざいしゃ』の一員か?」


「そ、そうだ」


「そうか……何をしにここへ来た?」


「ゴルビスはああなったが、一芝居うってるかもしれないということも考えられるのでその確認だ」


「残りのメンバーは、エルタを殺しに?」


「ち、違う、一つはっきりさせておくが、エンデラ国王も言うなれば、ゴルビスの被害者だ、我が国が不死族の侵攻を食い止めるために必要な、魔晶石ましょうせきの輸出を止めたんだ、やつが、だから我が国王はあいつに従うしかなかった、アヴァルシス国王を殺したのは我々の本意ではない!」


「そうか、そういうことか……不死族とか言ったな、今日式典には顔を見せてはいなかったよなそいつらは、お前たち姿は見たが」


「そ、そうだ、あいつらは魔族だ、こんなところに来るわけがないだろ、来るとしたら侵略のためだ、そんなことも知らないのか、この国の暗殺者は」


「主様にそのような口を聞いたのなら、死んでもいいということですね」


「待て白狐びゃっこ


「どうせ俺達はもう、国に戻ったとしても、あいつらに殺される、魔晶石の光がきてしまう……」


「それは今から持って行っても、間に合わないのか?」


「かなりの量を必要とするからな、両手で抱えて持っていくというものでもないし、採掘さいくつも止められていたから、採掘作業から始めないといけない……」


「そうか……話からすると、もうお前達はアヴァルシスやエルタと争う意思はないんだな?」


「ああ、というか、争うもなにも、俺達には、そこのメイド服の女を倒すのは無理だ、なんなんだ……魔族とも人間とも違うなにか……」白狐が無言の笑みで答える。


「白狐、双狐術そうこじゅつを解いてやってくれ、これ以上苦しめる必要はない」


「かしこまりました、主様」白狐が砂の棺に触れると亀裂きれつが入り、そこから瓦解がかいした。ただ、四肢ししに取りつけられている、手錠てじょうは付けられたままだった。


「エルタには、すぐにエンデラに魔晶石を輸出するように手配して貰う、とりあえずはそれでいいか? そうエンデラの国王にも伝えてくれ」


「ああわかった、あ、ありがとう……後は時間との勝負だ……」


「残りのメンバーも残らず連れて帰ってくれよ」


「わ、わかった……」大分息が荒い、もう一人の男もぐったりしている。


「白狐、手錠も外してやれ、あと回復術も」


「かしこまりました、主様」


 二人の男は体がいやされるとすぐに千景と白狐に別れを告げ、窓から出て行った。

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