狐ノ鼠狩り

「やだやだやだーこんなの動きづらいー」赤狐しゃっこが、おもちゃを買ってもらえない子供が床でじたばた暴れるように、のたうち回っている。


「赤狐、さっさと立ちなさい、着せたばっかりなのに、もう汚れてしまったじゃないの」


「そんなこと言っったってえええ、いやあーなものは、いやあああー」


「わがまま言ってないで、主様あるじさまに迷惑がかかりますよ、赤狐」


「水着の方が楽でいいのにいー」


「水着じゃ目立つから駄目だって言ってるの、妖狐たるものしゃきっとしなさい、しゃきっと、人がいない時はその服、脱いでもいいから」


「じゃあ、今は白狐姉びゃっこねえしかいないから脱いでいーい?」


「だめに決まってるでしょ、今からここ、出るんだから」


「ふぁーい、ふぁーい、ふぁーい」


 不貞腐ふてくされている赤狐を置いて、白狐は、千景ちかげに言われた通り、ハクルとシャザの死体を、入り口近くの部屋まで持ってきて、寝かせた。


「下にも罠をかけ終わったし、後は、ここだけね、先に出ていなさい、赤狐」


「はーい」


 白狐は、鉄格子てつごうしわなを張り、外に出て錠前をめなおした。これでこの倉庫は、ちょっとした砦くらいの防衛ぼうえいがなされた。自分の仕事の出来栄えを確かめるように、満足気まんぞくげな表情で扉をコンコンっと軽くノックした後、白狐と赤狐は城に向かおうとした、その時に、ゴルビスの屋敷の中に飛び込む影の群れが目に入ってきた。


「んーーあれ? あの屋敷になんか変なの入っていったよね? 白狐姉」


「天音様に聞いたところによると、あそこはゴルビスの屋敷だったところね、そうですね、捕まえておきましょうか」


「赤狐が一番に捕まえちゃうよー」


 音もなく二人は、影達が乗り込んでいった部屋に近づく、ベランダの手すりに捕まり、暗闇に浮かび上がった、四つのギラついた目が、獲物を探す。白狐はその姿をすぐに捉え


「四人ですか、先に名前を伺ってもよろしいですか? 無茶なことはしないようにと主様からおおせつかっているので、黙って捕まってくれるとありがたいんですけど」


 その言葉を聞いた影の中に居る者達が、白狐と赤狐と距離を取っていく、そしてその中から白狐に向かって何か放り投げられた。しかし、白狐に届く前に弾かれ、カンカランと床に力なく落ちた、それは刀身に黒い塗装とそうほどこされた、肉厚なナイフであった。影にうごめくものたち。


妖狐術ようこうじゅつ破邪爪撃はじゃそうげき』影の中に勢いよく飛び込んだ、白狐の爪が、影の中にいた二人の体を串刺くしざしにした。


「そちらがやったことをこちらもやらせていただきました。もう一度聞きます、名前をうかがってもよろしいですか?」


「ねえ白狐姉びゃっこねえ、食っちゃっていい? いいよね?」


「もうこんな時にも、はしたない、主様に止められているでしょ、食べたら何も聞けなくなるじゃない」


「あっ逃げた」串刺しにされていない二人が扉から勢いよく出て行った。


「まあいいでしょう……残った二人に聞くとしましょう……」


「赤狐、あの二人を固めますよ」


「ほいきたー」


双狐術そうこじゅつ鋼砂鉄環こうさてっかん』 二人の四肢ししに鉄の手錠がはめ込まれ、体の首だけ残して、黒い砂に埋められ固めれていく。


 白狐は、固められている二人に近寄って、頭に被っている黒い頭巾をぎ取った。口からは血が垂れ流れ、目を合わせようとしない、額には、爪で刺された痛みか、砂でおおわれているための痛みかわからないが、脂汗あぶらあせが浮き出ている。


「さて、これで三回目です。そして最後です。お名前を伺いたいのですが?」


「ア、アタルだ」アタルは、意を決したように白狐の目を見据えた。その目を見た時に、アタルは絶望した。その闇夜に光るギラついた目から、目の前にいるのは、人の服を着ているが、人の皮を被った人間ではないものだと、確信したからだ。人を見下した冷たい目。


「そうですか、どちらからいらっしゃったのですか?」


「エンデラからだ」固められている二人の呼吸が荒くなる。


「赤狐、先に城に行って、主様のところへ行きさない、場所はわかるはね?」


「大通りををおーー、左折! だよね! 白狐姉」


「そうですね、お行きなさい」赤狐がベランダの手すりから跳ね上がった。それを見届けた後「さて、これで貴方方あなたがたが食べられる心配はなくなりました、ただ大分痛そうですけれど」固められている二人の口からフーッフーッフーッと、荒い呼吸が漏もれ、それで白狐に返事をしているようであった。


「少々お待ちを」白狐がグループヴォイスチャットを開き、千景を呼び出した。


「どうした、白狐、こちらはちょっと今、宙音そらねが……」


「なにやら楽しそうですね主様、私も混ぜて頂きたいです」


「宙音がはしゃいで天音あまねに怒られているだけだ、珍しい物を見た時の、沸点ふってんが低すぎるんだよ宙音は、それでどうした? なにかあったか?」


「ゴルビスの屋敷に、エンデラからの不審者ふしんしゃが、侵入してきたのですが、どうします? 名前はアタルだそうです」


「一人できたのか? そのアタルって言うのは」


「いえ、私が発見した時には四人でした、捕えているのは二人です、残り二人は、どこかに行ってしまいました」


「そうか……」


「殺してもよろしいですか?」固められている二人を見つめ、わかりやすい大きな声で言った。


「いや、情報がほしい、まだ生かしておいてくれ、そうか……赤狐と行き違いになりそうだが、今からそっちに向かう、じゃあ切るぞ」


「かしこまりました、主様、お待ちしております、場所は二階の、倉庫から見えるベランダ付きの部屋です」白狐は千景との会話が終わると、アタルともう一人男の頭を、順番にでて、よかったですねと言いながら軽い回復術をかけてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る