宙音と水音

虎徹こてつになんて任せてよろしかったのですか? 主様あるじさま」いつの間にやら横に来て、白狐びゃっこが話しかけてきた。白狐の美しい銀髪が、夜風にあおられ、キラキラと妖しい光を放ち、ふわりと微かな花の香りが流れてくる。


「虎徹は状態異常に強いから、大概たいがいの事に対応できるし、いざとなったら逃げてくるだろ」


「尻尾巻いて逃げてきたら、私にののしらせて下さい、完璧にその職務を遂行すいこうさせて頂きます」白狐がニヤリと笑う。


「白狐はそういうの好きなんだな、ただこのアルスミラに虎徹に勝てるような奴はいないさ、だから虎徹のはじめてのおつかいってやつかなこれは、こうやってお前達に指示を出して、その指示をこなしてきて貰うことに俺自身が慣れていかないといけない」


 NPC達が、現実の配下になったことで、彼らがどう行動していくかも、今後、色々と動いていくうえで重要になってくる。『トライセラトリス』のアジトを潰すことなんて、三角が居なくなった今、簡単にこなして来てもらわなければいけない指示だ。


「そういえば、赤狐しゃっこは、まだ水着のままだったか」


「そうですね、まだ水着のままです、あそこはまだ守護していたほうがいいんでしょうか? 主様」


「残っていた少女達は今どこに?」


「魔導医務室という部屋に、エルタ様のお力添えで連れていけました、今はそちらに」


「そうか、ならあそこは、罠スキルだけ仕掛けて戻ってくればいいか、ハクルとシャザの死体を保管して、そうだな……赤狐が水着のままだと色々目立ちすぎるから、服の外装だけ、白狐のメイド服と合わせて来てくれ、メイド服はこっちの世界でも、そこまで違和感ないしな」


「かしこまりました、主様、ではそのように取り計らいます、ただ赤狐は布面積が多くなるの嫌がるんですよね」


「え、そういう設定だったか……ま、まあ、そこは無理やりにでも着せて来てくれ……」


「かしこまりました、主様、では」そう言うと、白狐も、虎徹と同様に窓から、軽やかに飛び出していった。


 配下NPC達がそれぞれの指示を受けて動き出し、千景はエルタのベッドルームで、一人になった。エルタとミレアの護衛を強化するために、もう少し配下NPCを呼ぶ必要がある、虎徹が二、三日寝ないでも平気とか言っていたが、それは裏を返せば人間の体を持ったことで、配下NPC達も睡眠を必要とするということだった。寝ないで二人を護衛するわけにもいかない、女の子を護衛するんだから、呼ぶのは、残る女性の配下NPCのどれか、宙音そらね水音みずね山音やまねか、山音は、戦闘特化型で更に特殊なタイプだから、こういう任務にはあっていない、消去法で、宙音と水音か。


さて……宙音と水音を呼び出すか。特殊上位スキル『配下招来宙音』『配下招来水音』


「御館様! 宙音登場です!」シャキーンと音が出そうなくらい、切れのあるポーズを取った。それに負けじと水音も「み、み、水音も、と、登場で、でふ!」とポーズを取ろうとしたが、ちらちら宙音の方を見るだけで、全然ポーズは決まっていなかった。


「水音、そんな宙音に無理やりあわせることないぞ……」


「はい、すいません、本当すいません、御館様……」


「またまたー、水音ちゃんをいじめちゃだめだよ、おっやっかった!」


「テンション高いな宙音……」踊りだって踊っちゃいますと言って、宙音が飛び上がりながら踊りだした。千景と水音は揃ってその様子を見ていると、自作の歌まで歌いだしたが、それを隣からの部屋から様子を見に来た天音に頭を軽くはたかれて、大人しくなった。


「あ、天音ねえちゃん……」


「天音ねえさん、そ、宙音ちゃんも、わ、わるぎがあったわけじゃないですう、御館様に呼ばれてテンションがあがちゃって……」水音が宙音を庇う。


「まったく宙音は……まあいいです」


「天音、エルタとミレアは?」


「言われた通りしておきました、御館様、宙音と水音も呼ばれたのですね」


「ミレアとエルタの護衛に必要だろ、いつまでも天音にだけ二人を見てもらうわけにもいかないし、今後はここにいる三人と白狐と赤狐も併せて、五人でローテーションを組んで、二人の護衛についてもらう」


「かしこまりました、御館様、では宙音と水音、準備して隣の部屋に来なさい、今後私達が護衛する対象を教えます」


「はーい、わかりましたー」


「は、はい」


「とりあえず、天音、服装から整えてやってくれないか」


 宙音は着物をアレンジした服装をしていて、水音は巫女服を着ていた。天音と虎徹は、職種が忍者ベースだったが、宙音は、職種『開眼道士かいがんどうし』がベースで呪術特化型、水音は『光華巫女こうかみこ』がベースで補助回復特化型の配下NPCであった。二人は天音の胸くらいの位置までの身長で、こうやってみると本当に姉妹のようであった。服装を、こちらの世界でも違和感のないものに変えた後、天音は二人を引き連れて、隣の部屋にいった。

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