宣言ノ章

 もうすぐだ、ゴルビスを忍術『傀儡操針くぐつそうしんの術』で操って指定した時間まで五分切った。そんな時に、ふいにこちらを見ている視線を感じた。そちらに千景が視線を走らせると、貴賓席きひんせきらしき、上部のほうに作られた、豪華な椅子と日の光を遮さえぎるための小さな屋根が設置せっちされている席が多数設たすうもうけられたところがあった。その中の一人がこちらに鋭い視線を向けている。


 こちらの透明化が見破られているのか? そう思ったが、視線がかち合うことはなく、どうやら、視線は虎徹に注がれていた。こちらの世界にも、ステータスを覗ける、魔法があるのか? それでも見られることはないはず、そういうたぐいのものを無効化する、防御結界を張っている。なにせ虎徹は、ありとあらゆる面で鉄壁だ。ただ逆にその鉄壁さが、注意すべき人物だと、見られているのか、この群衆や兵士達の中で、防御障壁を張ることが出来る人物として。


 こちらからも覗いてやる、忍術『天稟千里眼てんぴんせんりがんの術』……なるほど、種族エルフ、こちらからはステータスを確認できる、向こうに張られている結界は対したことはなかった。


 エルフ、こちらに来てから初めて見た亜人種、その横には竜人、獣人、エルタからこの世界には存在していることは聞いていたが、実際に見ると、中々に壮観そうかんであった。レベルもエルタに言われていた通り亜人種は、人間よりも高めのレベル30を越えるものがちらほらと居た。ここにいるのは、要人警護で来ている、種族の中でも上位に位置している者達が来ているはず、人間よりも個体としての能力が高いと言われる亜人種といってもこの程度か。


 そのまま順々に、見て行く、椅子に悠然ゆうぜんと座っている者、それを横で、目をギラつかせながら守護している者、こんな一堂に会して、こちらに情報をさらけ出してくれるというのはありがたい「天音、あそこの上の席は見えるか?」「ええ、しかと」「あそこにいるメンツを一通り覚えて、どれにでも変化出来るようにしておいてくれ」「かしこまりました、御館様」


 職業暗殺者を持つものがいた、種族人間、暗殺者を側に置いているのは、その男だけで、他は、神官騎士、魔導士、武術大家、幻想言霊士、色々な職種が王やそれに準ずる者たちを守護していた。あの男がエンデラの国王か、なるほど「御館様、終わりました。データ収集終了です」


「早いな」


「御館様、あちらを」


 そちらを見ると、ゴルビスが歩いてきた。ゴルビスを調べると、状態異常を示すアイコンの色がきちんとついていた。


 舞台の真ん中までゆっくりと進んでいくゴルビスに、群衆の目が集中していくのがわかる、少し前までは、お祭り騒ぎのようにざわついていたものが、どんどん収まっていく、ゴルビスが中央に来た時、会場の視線がそこに集まる。楽隊の演奏がゴルビスの合図によって止められ、周りをぐるりと見た後に話し始めた。


「ここに集まった諸君達に私は伝えたい……伝えなければいけないことがある……」千景は、邪魔が入らないか、周りを鋭く監視する。


「私が、王を殺すように指示したのだ!」


 ゴルビスが言った、その一言がスイッチとなり、時が止まったように、全ての音がピタリと止まった。


ゴルビスは続ける。


「そして私は年端もいかない少女を虐待し拷問するのが大好きなのです! それ専用の部屋を用意し、これまで何人の少女をその手にかけてきたのか数えられないくらいです! 今! この時! 私は喜びに打ち震えています、今宵、ミレアを拷問にかけ苦しむ様を一晩中見られることを! 叫び声を聞けることを! ここにいる皆様にもそれを伝えたい……伝えたいが、残念ながらそれは無理です、それは出来ないのです、なぜならばそれは私だけの……この国の支配者となった私だけの特権なのだから!」


 自分の思いの丈を民衆に向けて、どす黒いコールタールが詰まったバケツをひっくり返すように放ったゴルビスは、放心している。自分がなぜそのようなことを口走ったのかがわからない、顔面は、蒼白になる。民衆から怒号が飛び、石や、手に持った食べ物がゴルビスに向けて投げられる。兵士達も怒りの顔を露わにして、ゴルビスを守ることを放棄している。


「終わったな」


「終わりましたね御館様」


 貴賓席に座っていた者たちは、すぐさま席を立ち、軽蔑けいべつの視線をゴルビスに向け、去っていく、ただ一人ゴルビスと同じように顔面蒼白になっているエンデラの国王だけを残して


「虎徹、ゴルビスを掴んで民衆の中に放り込め」


「了解です、御館」


 千景の命令を受けた虎徹は、その巨体に似合わない軽やかな動きで、舞台に近づき、上に乗ったかと思うと、ゴルビスの襟首を掴み、民衆の中に何の躊躇もなく、投げ入れた。ゴルビスの周りにはすぐさま人だかりができ、殴られる音が聞こえてくる、あれがやつの為政者いせいしゃとしての責任だ。俺達が手を下す必要性すらない。


「いいころあいだ、天音、最高の演説をしてこい」と千景が命令したが、近くにいたエルタがそれを止め


「私に行かせてください、この国を統治する者として私は、いかねばなりません」


「出来るか?」


「はい、行ってきます」


「天音、エルタとミレアの変化を解いて、ティアラを頭に乗せろ、服は出来る限り綺麗にな」


「かしこまりました、御館様」


 エルタは上を向き、堂々と、舞台の上を歩いていく、ルルカが力を貸しているのかともしったが、そんな様子でもなかった。その姉の後ろにミレアも続いて歩いていく。そういえば、ゴルビスがエルタは民に人気があると言っていたことを思い出した。


「皆さん聞いて下さい」エルタのよく通る声が、響き渡った。しかし、ちょっと不自然な感じがしたので

「天音、なにかしたか?」


「演説されるということなので、強化しておきました」


「流石だな」


「ありがとうございます、御館様」


そんな二人をよそにエルタの演説が続く


「我が父上である国王は、ゴルビスの手によって殺されました……」エルタは涙を流している。


「しかし、それは、ゴルビスのような輩をのさばらせ、多くの罪なき少女を傷つけた報いだったのかもしれません……国王である父がきちんと目を光らせていれば、ゴルビスの悪行は防げたことです。私は今後このようなことを断じて許しません! 私はここに宣言します、私は亡くなった父に代わりこの国の王となります! 私は民を苦しめるような王にはならない! 貴方方に誓って宣言します!」


 割れんばかりの拍手が飛び交う、花火が鳴らされる。全員が、新しい王の誕生を心から祝ってくれているようであった。


「いい女王になりそうじゃないか」


「そうですね御館様」

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