起ノ章

 千景は、白狐との会話を終えた後、料理を食べている四人に向き直って、今後の説明を始めた。


「よしちょっと四人とも、料理を食べる手を止めて俺の話を聞いてくれ」四人の視線が千景に集まる。それと同時にエルタの半身の、目の色が、碧眼へきがんから黄色に変わり、髪の色も、水色に変わった。ルルカがエルタの中から出てきたサイン。


「四人ではなく、これで五人じゃな、なんぞ面白い話を聞かせてくれそうじゃないか、千景よ」ルルカはそう言いながら、止まっていたフォークをそのまま口に運んだ。声には出さなかったが、相当美味しかったのであろう、顔に「なにこれ、おいしい」と書かれた表情をしている。


「そ、それはどうなってるのですか姉さま」とミレアが、半身ルルカになっているエルタのことを不思議がり


「ごめん、後で説明するわ、ルルカ様と言うの」と淡白たんぱくな返事を返した。確かに、これで天音と虎徹を合わせれば、五人になった。


「もうすぐ、ゴルビスが今まで自分がやったことの悪事を民衆にぶちまける、その後、エルタにふんした天音あまねが王位継承を宣言する。民を完全に味方につけろ天音」


「わ、私が王位継承ですか? いきなりそんなことを言われても……うまくやっていく自信が私には……父上のこともありますし……」


「それをやらなきゃお前達は終わりだ、エルタが継がないというのなら、ミレアに王位を、継がせるきか? エルタとミレアしか王族は残っていなのだろう」


「そ、そうですけど、あまりにいきなりで……」


「民を味方につけた王位継承、それをやらなければ、また同じことを繰り返すことになるぞ、他の者に運命をゆだねるのなら、結局ゴルビスがいなくなったところで、その代わりに他の貴族から、未熟なお前たちに、宰相をあてがわれるだけだ、エルタが王位継承をしたおかげで、この国が安定したというところを、他の国から来ている奴らや、貴族達に見せつけなければ、すぐさまエンデラが攻めてくるかもしれない、ゴルビスの息がかかった貴族達だってどんな動きをするかわからない、お前には今、民の後押しというものが絶対必要なんだ、大丈夫、サポートは俺達がする」


「いいんじゃないか、それで、わらわは異存ないぞ」ルルカがニヤニヤしながら賛成をした。ルルカは、千景にとって元の世界に戻れる鍵ということを自覚している証拠。実際そうだった。まだこの世界に来て一日も経っていないのに、自分が元居た世界に帰れる手掛かりを自分から手放すということは考えられない選択肢であった。


「しかし……父上でさえ、出来なかったことをこの私が……」


「その父上が、その後どうなったかを見れば、エルタ達が置かれている状況もわかるだろ、エルタが、決心しないというのなら、このままエルタに変化した天音に、そのまま政治も行わせる、もうこれは決定事項だ、エルタがやるか、変化した天音がやるかだ、天音に王の真似事をやらせるなら、エルタとミレアは、召使にでもなってもらうからな」


「千景様は、ミレアと私を本当に守って下さりますか?」


「約束する、天音に王の役割を、やらせるのにもそれ相応のリスクは付きまとうし、王位を継いだら、天音の自由が利かなくなるのは、戦力的な面を考えて痛すぎる、だからエルタが王位を継いで女王になってくれるのならそれが一番ベストだ、だから全力で二人を守り抜く」


「大丈夫じゃ、エルタには、わらわもついておる」


「ルルカ様……」


「まあ、このことが終わったらこの世界のことについて聞きたい事が山ほどあるから、ルルカ様にも付き合って貰うからな」


「よかろう、かわいい、わらわの血を引く者達を、救ってくれるのなら話してやろうぞ」


「虎徹、お前はこの兵士の服をベースにして、兵士に変化しろ」


「わかりました、御館おやかた


「天音は、ミレアにも変装をほどこせ」


「かしこまりました、御館様おやかたさま


「それが終わり次第、ここを放棄して、演説台があるところに向かうぞ、それとルルカ様は引っ込んでてくれ、流石に半分色が違うのはどこに行っても目立ってしまう」それを聞いたルルカは、わかったわかったと言ってエルタの中に引っ込んだ。


 ここからは迅速じんそくに、行動しなければならない、全員の準備が整ったところで、街の中央にある舞台に向かった。


 大通りの近くは、音楽が鳴らされ、花火が打ちあがっている。街のみんなが中央に向かっている。先頭を兵士に変装させた、虎徹に歩かせ、エルタとミレアがそれに続いて歩く、天音と千景はその後ろを透明の姿になりながら続いた。


 人に見つからないように、舞台までの道のりをショートカットしたので、時間よりも早く着きそうではあった。


「天音、準備は出来ているか?」


「準備は出来ております、御館様、それにしても、人は多いですけど、レベルの低いものばかりですね、これだけ人が集まっているのに、みながレベルが低いというのは、奇妙なものです」


「そうかもしれないが、まだ油断しないでくれ、なにがあるかわからないから」


「そうですね、御館様の言う通りです」


 舞台の周りに近づくと、物々しい雰囲気の兵士達が、周りを、取り囲んでいた。そこには邪渇宮で見た、騎士団長の姿も見えた。

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