虎ノ章

 ゴルビスの予定時刻まであと、四十分程度、千景は、配下のくノ一、眷属けんぞくの妖狐の様子を呼び出して見ることが出来たので、後は男の配下NPCを出して試してみることにした。


 虎徹こてつ菊一きくいち烏丸からすまる村雲むらくも、どれを呼び出すか、一番ラフな性格なのが、村雲、一番固めなのが虎徹、無難ぶなんに虎徹にしておくか、全員一気に呼び出したら、千景のキャパシティーを越えて、事態が混乱するのは、避けたかった。配下NPCの中で、一番信用できそうな設定を持っている天音ですら、この調子なのだから、目の前の料理を見て、千景は大きな溜息をついた。特殊上位スキル『配下招来虎徹』


御館おやかた、お呼びですかい」武骨ぶこつな野太い声を出す虎徹は、体が大柄で、そのタフな体を前面に押し出し、多少のタンク役もこなせる。そのため、各種属性耐性、状態異常耐性は、どのNPCよりも高かった。


 そのがっちりとした、ボンレスハムのように、はち切れんばかりになっている肩の筋肉を思いっきりバンバンと音がするほど叩き、これでこの人間の体を持っているのかを、確認する作業も終わりだなと千景は思った。


「御館、どうしました?」その声と見た目で、見ているだけで、味方に安心感を与える力が虎徹にはあった。


「ちょっと虎徹もこの料理の片付けを手伝ってくれ、後紹介しておくけど、天音はわかるだろ? そこの小さいほうがミレアで、もう一人がエルタだ、料理が片付きしだい、お前の使命はその二人の女の子を全力で守ることだ、わかるな?」


「わかりました」そう言うとすぐさま虎徹も料理を食べだした。ただ天音と虎徹が同じようなペースで料理を食べているのが驚いた。


 天音の上品な仕草で、流れるように口に運び込まれる料理の流れが、止まることはなかった。さっきも食べたと言っていたのに、まだ食べるのか、手際てぎわよく子豚の丸焼きが綺麗に切り分けられ、次々と口に吸い込まれていく。オーケストラの指揮者のようによどみない動きで振られるナイフとフォーク、食べている姿を見ていて、飽きないというのは千景にとっては不思議な感覚であった。エルタとミレア同じことを考えているらしく、その様子を食い入るように見ていた。


 そんなことをしていたら、千景がゴルビスに指定した一時間経過まで、あと三十分を切ってきた。グループヴォイスチャットを開き、白狐びゃっこを呼び出す。


「どうだ『トライセラトリス』の残り一人のハクルの位置はわかったか?」


「主様、あせらないで下さい、そんなにがっつかなくてもお答えします。今度から私に話しかけるときには、白狐の声を聞きたかったと、一言添えて下さい」


「いいから教えてくれ、白狐、」


「つれないですね、主様あるじさま、彼らが拠点にしているアジトが、貧民街にあるそうです、どうしますか? ここは私一人でも守護できそうですし、白狐を向かわせますか?」


「いや、お前達二人は、二人揃って発動出来る術の能力のメリットがデカ過ぎる、もうちょっとだけこちらの世界の情報を集めてから、リスクが伴う行動を取ってほしい、お前達が捕まるとも殺されるとも思えないが」


「そうですか、かしこまりました、主様」


「まあ、あと三十分程経ったら、ゴルビスを処分する、そうなった時に、シンツーとシャザの安否あんぴを知らない、ハクルが、二人と合流しようと、そこへ行くかもしれない、ゴルビスが居なくなれば『トライセラトリス』を保護するやつも消えることになるからな」


「そうですか、ゴルビスやらシンツーやらは、私は存じておりませんが、まっ、このシャザ程度の男が百や二百来たところで、私達の敵ではございませんので、ご安心を主様」


「そうだったな、俺はお前たちにゴルビスのことを教えてなかった、すまない大事なことなのに」


「大丈夫ですよ、主様、大丈夫です、そんなことを知らなくても、主様からの指令はこなせますので」


「ありがとう、それで今後のことなんだが、もしそこにハクルが来たら、シャザもろとも死体も残さず処分しろ、やつらのやったことは許されることではない、殺す前に少女達の死体まで連れて行き土下座させろ、下にいる生きている少女達には……これ以上刺激を与える必要性もないな……いやまて……ハクルとシャザの死体は残せ、後々使えるかもしれないそれ以外は好きにしていい、顔はわかるようにしておいてくれよ」


「かしこまりました、主様」千景にそう指示されたのが嬉しかったのか、白狐の声のキーが一段階上がった。


 これで『トライセラトリス』を追い込むことが出来る。三角という幹部がいなくなれば、後はチンピラやゴロツキみたいな者の集まりだろう。落ち着いたら、赤狐と白狐にも天音が作った料理を食わせてやろう。

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