食ノ章
倉庫の中から、何かが焼けるいい匂いがする。いい匂い? これはパンが焼けているだけの香ばしい匂いだけじゃない、何を作ったんだ天音は一体……醤油が焼けた時にでる匂いもする、それだけじゃない、複雑に絡み合っている、眠さも出来てきたが、そこに小腹も刺激される。天井近くの小窓から滑り込むように中に入った。
透明化を解くと、エルタに変化していた
「ね、姉さま! よくぞご無事で……
変装したり、変化したり、新しい少女が来たりで、見ているこちらの方もややこしい。
「違う、えーそう、今抱きついてるのがエルタで、あっちはエルタに変装している天音だ」
「ね、姉さま? ど、どういうことです? 顔まで変わっているじゃないですか、そしてあちらの方はまごうことなき姉さまじゃないですか、でも……これは姉さまが好きだった匂い、いつも感じられる、エルタ姉さまからの匂い……本当にそうなのですね……? にわかに信じられませんが」
「そうよ、私がエルタよ、よかった本当に本当によかった」そういうとミレアのか細い体を思いっきり抱きしめ、見ているこちらの方が苦しそうになってくる。
「ちょ、ちょっちょっと姉さま苦しいです」
「本当によかった……」
「ああエルタそれとこれ、黙って借りて悪かったけど使わせてもらった」
「これは、ティアラ、いつのまに……まったく気づきませんでした」
「エルタ姉さま、この方々は? そしてその、格好と、あちらの方は本当にエルタ姉さまそっくりですね」
姿形を変えても、匂いでミレアはエルタを識別したか……変化の術や変装ではそこまで、変えられないということか、今後は、鼻が利くやつらには、注意しないといけないか、透明化もそういうところからバレる危険性はあるな、そこらへんの所は少し工夫の余地がある。
「そうなのです、話せば長くなりますが、とりあえず紹介しておきますね、こちらがゴルビスの元から、私をここまで導いてくれた千景様と言います、あとあちらの女性が天音様と言います」
「そうなのですね、魔導士かなにかなのですか?」
「こんな魔導士は私も見たことはないのですけれど」
「忍者だ忍者」
「忍者……? そのようなものがいるのですね、千景様の世界には」
「うん、まあそうだな、エルタの体の中にルルカがいて、俺達の事情を知っている以上、隠してもしょうがないことだから言うけど、戦闘と隠密行動のプロだと思ってくれればいい」
「な、なるほど」
「もうちょっとエルタとミレアで話していてくれないか、俺は天音に話がある、天音! この料理作り過ぎだろ! というか材料はどこから持ってきた!」
改めて見ると、物凄い量がある、ぱっと見で、二十人前はある。
「あ、天音は、御館様もお腹を空かせているだろうと考えて……す、すみません……材料は、そこ辺の倉庫からと、天気も良く、とても気持ちのよい海があったので、そこまで行ってつい……」
「そ、そうか……しかし、これは……」
「天音様のお料理はすごいんですよ、城で出される料理よりも、おいしかったです」
「おいしかったです? お前たちはもう食べたのか?」
「ええ頂きました、天音様もすごい勢いで食べていましたよ」
「二人は食べ終わってこれか……周りの倉庫は、もしかして空になってるんじゃないのかこれ」
「こんな、のどかな街に来たのなんて初めてだったものですからつい……いつもは敵に囲まれてばかりだったので、バカンス気分になってしまいましたすいません!」
のどかな街か、ゲーム内で天音が呼ばれる時は、大量の敵がいたり、対人戦で多くのプレイヤーを相手にしたりが、ほとんどだったな、そう言われれば、のどかといえばここは、のどかかもしれない、天音が苦戦する相手などいないのだから。なんか、配下NPCにしろ、眷属の妖狐にしろ、どこかしら、普通の人とは感覚がずれているのかもしれない。
千景は、パンを
食べ始めると食欲がどんどん湧いてくる料理、天音の作る料理はそういうものだった。千景が無我夢中で食べているのを、天音は幸せそうに見ている。ミレアもエルタに促されて、食べ始め「これはおいしいです!」と一声上げた。
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