第33話


火弾エルド・クー!」

雷鞭フー・フエ


 炎がさく裂し、しなる稲妻が音を上げて目の前の魔物に襲い掛かる。

 俺はエクレとフラミィの間から飛び出し、一閃。巨大な牙を持った魔獣は灰となり消え去った。


 やはりというべきか、魔の森は魔物の巣窟だった。連戦に次ぐ連戦、しかも進むにつれてだんだんと強敵も増えてくる。


「ったく、次から次へとこいつらはどっから湧いてくるのかねぇ?」


 だが、連戦にも関わらずまだフラミィには無駄口をたたく余裕があるらしい。呆れが混じったような笑みを浮かべると肩をすくめて見せる。


「来たら倒す。それだけ」


 かというエクレもまったく疲れた様子はない。正直ここまで二人ができるとは思っても無かった。俺は日ごろからヒイラギの脅威を警戒していたから問題ないが、普通の生徒なら実戦というだけで足がすくんでもおかしくないだろう。


「おいおいどうしたクロヤ? もうへばっちまったのか?」


 二人を眺めているのが休憩しているように見えたのか、フラミィがからかうように声をかけてくる。別に俺が力を持っているとは思っていないが、かといって侮られるのも何故か癪だ。


「なわけないだろ? フラミィこそ魔力切れとかして途中でぶっ倒れたりとかないよな?」

「それこそあり得ないね。スタミナ配分は俺の得意分野だ」


 売り言葉に買い言葉とはこのことを言うのかもしれない。これまで同年代の友達なんかあまり作ろうとしなかったからなんだか新鮮だ。


 自然と口元が緩みそうになっていたのでおさめると、不意に俺とフラミィの間を一筋の光が通り抜けた。


 同時にクギィと何かの断末魔が聞こえる。見れば、背後で小型の魔物が痙攣していた。どうやらエクレが魔法を放ったらしい。


「二人とも油断しないで。ここは魔の森」


 不機嫌そう言いながら、エクレが仰向けになる猿っぽい魔物の腹に剣を突き立てる。


「へへ、悪かったって」


 半笑いでフラミィが謝ると、エクレはため息をつく。だがその口元は僅かだが笑みを浮かべていた気がする。仲が良さそうで何よりだ。


「エクレの言う通り気を付けないとな。とりあえず行くか」


 魔物に関しては問題なさそうだが、ヒイラギの気配も濃くなってきた。あまりゆっくりしている暇もないだろう。


 促すと、二人とも頷きまた進行を開始する。

 しかし、少し走ったところで不意に閃光がはじけた。一瞬エクレが魔法を放ったのかと思ったがそうじゃないらしい。

 二人は俺の数歩後ろで虚空を驚き交じりに見つめている。


「どうした二人とも?」

「いやなんかよ……」


 聞くと、フラミィがそろそろと虚空に手を伸ばす。

 ある一定の距離まで腕が伸びると、ふとまたしても閃光がはじけ行く手を阻んだ。


「妨害結界……」


 エクレが聞きなれない言葉を口にすると、フラミィの顔が若干ひきつる。


「妨害結界、通称見えざる魔力の壁インビシブル・ディスマギア。内外からの魔力の一切を受け付けなくする超高位防護魔法。秒しか展開しない魔法反射リフレクと違って、一度張られれば破壊されない限り何日も持続するような完全防護壁だ。超強力な魔力をぶつけりゃ破壊できない事もねーけど、こいつを破るはちょいと俺らだけじゃ無理だな……てかこんなの戦争時の拠点に、【ルミエル】レベルの優秀な魔導士数十人がかりで張るような代物だぜ? 常軌を逸してやがる……」


 魔力を通さないという事は魔力を持つ者すべてが通れない、という事か。つまり弥国人で魔力のない俺だけが通れたと。


「悪いがクロヤ、これ以上はついていけねーみたいだ。それに……」


 フラミィが背を向けると、エクレもまた西洋剣を構えていた。


「こいつらの相手もしなきゃならねーらしい」


 二人が見据える先にはいくつもの異形が並んでいた。

 もしかしたらこの結界が張られた時に追い出された魔物なのかもしれない。

 俺も応戦しようと不如帰を構えると、エクレが手で制す動作を見せる。


「この場は私たちだけでもいける。クロヤは先に行って」


 言うと、エクレとフラミィが魔物へと飛び掛かる。

 どうしたものか僅かに逡巡するが、この場は二人を信じることにする。先ほどの戦いぶりを見れば圧倒的に魔物の方が劣るのは瞭然。

 身体を反転すると、俺はより一層濃くなったヒイラギの元へと走った。

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