第16話
「……ったくよ。力だけで魔法を吹き飛ばすとはとんだ芸当を見せられたもんだぜ」
フラミィは呆れ交じりに言うと、足を投げ出し地面に座る。
「いいやまだまだだよ。けっこうダメージ
「よく言うぜ」
フラミィはどこか皮肉交じりに言うが、先ほど俺がやったのは、ありったけの力を込めて不如帰を振るう、そんな誰でもできる単純な事だった。
斬撃の際に起こる風圧で魔法が到達する前に全て吹き飛ばす、というのが理想だったが、あれだけの量にあれだけの速さだと、完全に対処しきれなかった。まだまだ鍛錬が不足しているのか、あるいは体術で魔法に抗う限界なのか。まぁ考えても仕方が無い。きっと前者が原因だろう。
「にしても、フラミィはなんでいきなり俺に勝負を吹っかけてきたんだ?」
エクレの事も尋ねないといけないが、その前に気になっていた事を問う。
「それか。いやさ、クロヤにエクレの事を頼もうかと思ってよ」
「エクレの事を頼む?」
フラミィはよっと立ち上がると続ける。
「あいつ、けっこう名の知れた家の出だけど、言い方とかもちょっと誤解されそうなところあるだろ?」
確かに、物静かで口数が少なく、どこか人を突き放すような物言いは他者によからぬ誤解を生むことがあるかもしれない。
「だから何かと敵を作りやすいからさ、俺より強いクロヤがいれば多少降りかかってくる火の粉は払えるんじゃねーかと思ってよ。それに最近仲よさそうだしなお前ら」
フラミィに言われ、最初の寮生会議の日の朝を思い出す。
俺がエクレと仲良くできているかどうかはともかく、確かに今後ああいう事が頻発する可能性は否めない。俺だってそれは警戒していた。
ただ、どうにも腑に落ちない事がある。
「強いから、っていうのが理由なら、なんでフラミィが一緒にいてやろうとは思わないんだ? 聞いてると別にエクレを嫌ってるわけじゃなさそうだし」
入学式の日に相手した三人組と比べてにはなるが、恐らくフラミィはこの学院の中では優秀な部類だ。実力者の上に立つ実力者とでもいうのだろうか、正直、素の俺の力で次勝てるかと聞かれれば自信は無い。
「俺は駄目なんだ」
「どういう事だよ?」
聞くと、フラミィは少し考える素振りを見せるが、やがてどこか遠い目をして話し始める。
「俺とエクレは六歳の時に出会った。今こそエクレは強くなったけど、当時は本当に弱虫でな。いじめられても言い返しもできないような内気な奴で、実際色々とされてた」
普段の物静かで自己主張が少ない事から見ても納得のいく話だ。
「それでまぁそういうの気に食わねーから、俺が火の粉を振り払ってきたんだ。それである日、いつもの様にいじめっ子をとっちめたんだけど、その時無性に腹が立ってちょっとやりすぎてな……けっこう大きな問題に発展しちまって、エクレが庇ってくれたらエクレの家に責任が問われたんだよ」
「大きな問題って、子供の小競り合いでか?」
「ああ」
フラミィはどことなく辺りの様子を窺いながら、俺の耳元に顔を近づける。
同時にどこか柑橘類のような香りが鼻腔をくすぐり、どうにもむずがゆくなる。
「相手が王家のガキだったんだ」
「……なるほど」
恐らく、身分の高い人間が集まる教育の場でも出来事だったのだろう。大きな問題になるのは理解できる。となると悪名高きセルウィル家と言われていたのはこの事件があったせいだったのか。
「ま、最近やっと和解したって話は聞くけどよ。まぁそれは俺があいつの傍にいるとまた迷惑をかけちまう。その点、クロヤならきっと俺みたいに感情的にはならないんじゃねーかなって。戦い方も冷静だったしな」
言い終えると、フラミィは伸びをする。
「ったく、らしくもなく話しすぎちまった。悪いけど授業入ってんだ。また機会があったら手合わせ頼むぜ」
「え、ああ、おう」
返事をすると、フラミィはさっさと演習所から出て行ってしまった。
まだエクレの事は承諾してないんだけどな……。
まぁ、元々そんな感じ動いてたし、断るつもりもない。
俺も演習所を後にする事を決める。
結局、エクレについて聞きそびれたが、あの話が自ずと答えを示しているだろう。お互いを良く思っているなら、仲直りした状態こそが自然というものだ。
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