第二節
第12話
目的を達成するまでどれくらいかかるか分からないので退学するわけには行かない。一応行事だけでも500ポイントは軽く溜まるようだったが、念には念をと魔法学系統はなるべく避けて授業はとっておいた。
まぁそもそもここは西洋なので魔法学以外の授業は少なかったが、そこはもう仕方が無い。
オルニス寮から七、八分歩くと、石柱が円状に立ち並ぶ第一演習所に来た。
ここで剣術演習Aの授業がある。西洋には武具と魔法両方を扱う兵士
演習場の石畳に足を踏み入れると、十数人の生徒が来ていた。全ての優劣は魔法に在りと謳われる西洋でも、
様子を観察していると、ふとその中に見知った後ろ姿があったので声をかけてみる。
「よう、エクレ」
挨拶すると、エクレは何故かビクリと文字が出そうな勢いで肩をひと震えさせた。
恐る恐ると言ったようにエクレはこちらを振り返ると、ハッとした表情を見せ、小さく言う。
「べ、別に心細いわけじゃなかった……」
頬を朱に染めるエクレの目線は少し逸らされていた。
「俺は挨拶したけだぞ?」
「ッ……!」
指摘すると、エクレはますます顔を紅くし、ぷいと顔ごと逸らす。
「さっきのはセルウィル家独自の挨拶」
「流石にそれは無理があるだろ……」
「うるさい。クロヤは一生口を開かなくていい」
エクレはぴしゃりと言い放つと、とうとうそっぽを向いてしまった。
ていうか一生って、そこまで言われますか俺は……。
「がっはっは! おはよう生徒諸君!」
向けられた小さな背中に軽い哀愁を抱いていると、高らかな笑い声が聞こえる。
ふり返ると、そこにはがたいのいいひげ面の男が暑苦しい笑みを浮かべて歩いて来ていた。
「私がこの授業を担当するマックスだ! 早速だが君たちの実力を見たいので、適当にペアを組んでくれたまえ! その相手と模擬戦をしてもらう!」
マックス先生は生徒の前まで来ると、いきなりそんな事を言いだす。大丈夫だろうなこの先生。
まぁとりあえず模擬戦ならエクレと組むか。実力もちょっとだけ気になるし、さっきの様子じゃエクレの知り合いもいなさそうだしな。。
「なぁエク……」
「む……」
声をかけようとすると、エクレは軽く頬を膨らませ軽く睨んでくる。
ああそういえば一生口を開くなと言われてたんだったな……。かといって組む相手もいないのでとりあえず謝り倒して許してもらおうかと考えると、不意に別方向から声がかかる。
「ねぇ黒髪君、俺っちと組まね?」
黒髪と言えば俺しかいないので声の方へと目を向けてみると、あろうことかそこにいたのは金髪ピアスだった。
「どういう風の吹き回しだ?」
「どうも何も、ぼっちっぽいからわざわざ声かけてあげたのに。そんな怖い顔しないでくんない?」
相も変わらずヘラヘラしながら顎に手を当て首をかしげてくる。まぁここで勝って俺をさらし者にしようとかそういう魂胆なんだろう。俺もなめられたもんだ。まぁ別に俺自身どう貶されたって構わない。でも、ヒイラギは別だ。丁度煮え湯を飲ましてやりたいと思ってたところだけど……エクレも放っておけないしな。
もう一度エクレの様子を窺ってみるが、背中を向け離れた場所へと行ってしまった。これは組むのは難しそうだ。
「分かった。俺でもいいなら組んでやるよ」
「そうこなくっちゃねん」
金髪が馴れ馴れしく肩をトントン叩いてくると、ふと体に違和感を覚える。
「よーっしペアは組めたか!」
よく分からない感覚に戸惑っていると、マックス先生の掛け声が聞こえる。まぁたぶん気のせいだろう。
それよりもエクレは大丈夫かなと見てみると、やはり一人だった。
「ん、君は確かセルウィル家の……。この授業は偶数人だったはずだが早速欠席者がでてしまったのか?」
マックスもエクレが一人なのに気付いたようで、さてどうしたものかといった具合に顎をさする。
「急げ急げ!」
不意に演習場内に声が響く。
声の主はどこかと見てみると、太陽を背に空から人影が降って来た。
「いやあっぶねぇ」
尾のよう結われた髪の毛を揺らしながら、軽やかに石畳に降り立つ赤髪の子はフラミィだった。どうやらこの授業はとっていたらしい。
「お、クロヤじゃねぇか!」
「ああ、おう」
呑気に俺へ挨拶してくるフラミィの後ろでは、マックス先生が腕を組んでいた。けっこう怒ってるんじゃないのかもしかして。
「君、あっぶねぇじゃなくてアウトだぞ! 分かってるのかい⁉」
「あ、そうだったのか……いや悪ぃ、寝坊しちまってさ」
フラミィが手を頭の後ろの方にやると、マックス先生は急にニカッと笑いグッと親指を突き立てる。
「だが素直に謝ったのでよろしい! 君はそこのセルウィル君と組みたまえ!」
言われると、フラミィは一瞬まずそうな表情を見せるが、遅刻した手前反抗するわけにもいかないのか、大人しくエクレの元へと行く。確か入学式の時もエクレを見てどことなく何かあるような感じを醸していた。まぁ気にしても仕方ないか。
「よし、では全員ペアを組めたみたいだから適当に私から指名していくぞ!」
マックス先生が辺りを見回すのを見ていると、ふと目が合った。
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