第9話
「やーやーオルニス寮の新入生諸君~」
エクレとの話もひと段落ついたという所で、笑顔で穏やかそうなオーラを醸す女の人かが会議室に入ってきた。肩まで届いた毛先はウェーブがかりなんとなくこの人の人柄を象徴しているような気がする。なんというか穏やかそうというかそんな感じか。
「えー、私がここオルニス寮の寮監にして学院教諭、エミリー・グロリアだよ~。どうぞよろしく。エミリー先生って呼んでね~」
エミリー先生は黒板に自らの名前を書くと、改めて前に向き直る。
「やー、とりあえずまずは入学おめでと~。これから学院生活頑張ってね~。実は私もここに来て半年くらいしか経ってないからほとんど新入生みたいなもんかなー」
エミリー先生は笑顔のままお祝いの言葉を述べると、さてと言って説明を始める。
「まぁみんなも知ってると思うけど、この学院は完全実力主義。それだけあって進級や卒業の方法も他の学校とは少し違うくて、全部ポイント制になりまーす」
ポイント制というのはあまり聞き慣れない。しっかり聞いておいた方が良さそうだ。
気を引き締めて耳を傾けると、エミリー先生は続ける。
「えー簡単言うとだねー、まず二年進級に必要なポイント500ポイントになるわけだけどー、学期ごと自由に選択できる教科のテストを合格しても多少は点数で左右されても、基本的には5ポイントしか得られなくてねー。この学院は三年制で月~土曜の間に、一日六つまで授業を入れる事ができるんだけど、一学期と二学期しか無いからフルで授業を入れてこなしたとしても一年を通して360ポイントしか手に入れられなくて進級できないんだ。ちなみに進級できなかった場合は即退学だよ~」
エミリー先生の説明に教室内がざわつく。流石完全実力主義の名門とだけあってそう簡単に生徒たちを卒業させてはくれないらしい。
「まーまー落ち着いてー。確かに授業だけでは進級できないよ~。でもこの学院には一年の間に色々な行事があるんだ。例えばそうだねー、体育大会だとかー学院祭だとかー、寮同士で力を競い合う寮対抗戦だとかー。希望性だけど実地踏査とかねー。他にも色々あってねー。それでこの行事っていうのは杖だとか武具だとか物理的な贈呈とかもあったりするけど、何よりポイントが贈呈されるんだー。これはその時の行事の活躍度によって変わるんだけど、これがけっこう大きい」
なるほど……実力主義の名にふさわしい制度と言えるか。
「それも全ての行事でトップ並の好成績を収め続けたら、授業は何一つ受けなくても大丈夫っていう具合にね。ま、そんなのは不可能だから授業をとらないのはおすすめはしないけどね~。まぁ簡単にはこれくらいかなー。ここまでで何か質問ある人いるー?」
エミリー先生が尋ねると、生徒の誰かが手をあげ当てられる。俺も他の質問が終わったら質問してみよう。
「じゃあ君」
「はい。色々な行事があるって事ですけど、一番近い行事だといつ頃になるんですか?」
確かにそこは気になる所である。
「そうだねー。新入生なら四月末にある新人戦が早いねー」
「なるほど……ちなみに行事でポイントはいくらくらい入るんですか?」
「うん、いい質問。そうだねー。新人戦については答えておくね。とりあえず最優秀成績者は150ポイント進呈だよー」
150……。そんなにも貰えるのか。それだけあれば後は授業だけで賄える。
でもよくよく考えてみればそうだよな、ただでさえ優秀な学院に入学した選りすぐりのメンバー数百人がいる中で頂点に立てばそりゃもうかなりの実力者と言える。
「ちなみに準優秀成績者75ポイント、それ以外にも色々貰える条件はあるけど、成績関係なく参加者全員にはもれなく5ポイントを進呈するからできるだけ参加した方がいいかもねー」
「分かりました。ありがとうございます」
生徒が着席すると、今度はエクレが手を挙げる。
「はいどうぞ〜」
「【ルミエル】にはどうやって入れるの?」
ルミエル、王直属の近衛守護部隊の事だ。どうやらエクレも他の生徒同様の最終目標はルミエル入りらしい。
「お、またいい質問だね~。まぁこれについてもポイントが関係してくるんだけど、とりあえず推薦枠の最低条件としてはまず三年間で5000ポイント溜める事、だよ」
エミリー先生の表情は穏やかなほほ笑みから挑戦的な笑みに変わる。
5000という途方もない数字にまた周囲が騒がしくなり始めた。
「おっと、驚くのはまだ早いよ~」
楽し気なエミリー先生に声に生徒が口を閉じ、次の言葉を待つ。
「もし5000ポイントを得ることが出来たとしても今度は王室を交えて学院側での選考が始まる。これについてはまぁもしも5000ポイント溜めることが出来た時にでも教えるよ~」
説明を受け、エクレは満足したのか席に着く。
「あっ、言い忘れてたけど別に5000ポイント貯めても選考を辞退することはできるからから一応言っておくねー。王室魔導士とか他にも色々と目指すことはできるから」
王室魔導士は確か王の側近というか手足的な存在だったか。他にも色々あるって事は一応職業選択の自由はあるらしい。
「じゃあ他にはあるかなー?」
再度エミリー先生が質問するが、手を挙げる人はいなさそうだったので、せっかくの機会だからと俺も手をあげさせてもらう。
「そこの黒髪の君ー」
「あー別に大したことじゃ無いんですけど、学院長に会えるとしたらいつ頃になりますかね?」
「学院長……?」
「はい」
いきなりこういう質問をする人はいないのだろう、一瞬エミリー先生も困惑した様子を見せるが、答えてくれる。
「……うーん。まーそうだねー。学院長は国中を飛び回ってて、ほとんど学院にはいないから基本会えないんだけど、新人戦の成績優秀者は学院長室に呼ばれるはずだよー」
「なるほど、ありがとうございます」
とりあえず知りたい事は知る事ができたので着席する。
エミリー先生が他に質問はーと言ってる間、何を思うでもなくポケットに手を突っ込むと、硬い金属が指に触れた。
こっそり取り出し見てみると、
新人戦というのがどういうのなのかは知らないが、とりあえず勝ちに行くか。
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