第40話 これから
がんがんと金槌で打ち付けられるように痛む頭を抱え、クロウはぼんやりと目を開ける。
セナの母親についての話題の後、それなりに盛り上がった祝勝会の記憶は脳裏に掠れて残っている。しかし、今クロウがいるのは静けさの充満した小さな部屋、その床に置かれた段ボールの中だ。
見覚えのない部屋に一人取り残されたという不安感がクロウに襲い掛かる。だが、冷静になってみればなんてことはない。セナの家だ。
テーブルや椅子など家具の半分ほどは姿を消し、さらには、部屋中央の天井から梯子が伸びていたり、と変化は大きいが。
「あ、起きたの?」
ちょうどクロウが梯子に目をやったと同じタイミングで、セナが下りてきた。
「今は何日の何時だ?」
鈍重に響く頭痛に顔をしかめながらセナに聞く。情けないことにそれすら覚えていなかった。
「別に大して時間は経ってないわよ、祝勝会の途中でクロウが眠っちゃって、部屋の隅の方で寝かせておいて……で、ついさっき会が終わったとこ」
「なるほど、やけに短く感じた訳だ」
「ライアンさんが変なお酒飲ませてから、様子がおかしくなって……まあ、面白かったけど」
思い出し笑いで噴き出すセナに、何かを言い返す気力もない。体を起こしているのが辛くなり、段ボールの中に倒れ込むと目を瞑った。しかし、激しい頭の痛みは簡単には眠らせてくれなさそうだ。
クロウが独りで静かな死闘を繰り広げている間に、セナはシャワーを浴び、着替えも終えたらしい。隣でベッドに潜り込む音が聞こえた。
「クロウ、起きてる?」
「不本意だがな」
目は開けなかったが、照明が消されたのに瞼の裏から気が付いた。
「これからどうするの?」
「寝る」
「そうじゃなくて! 宇宙に帰るとか、地球に残るとか、そういう話!」
「分かってるよ、少しふざけただけだ。頼むからデカい声出さないでくれ」
セナの声も、自分が発した声も頭に響く。
「まあ……まだ決めてないな」
地球は居心地が良い。良すぎて不安になるくらいには。だからこそ自分が居てもよいのか疑問に思ってしまう。かと言って宇宙に帰ったところでロクな未来は待ち受けていないだろう。
「……絶対に、黙って行かないでね」
ひどく感情を露わにしたセナの声色に、クロウは何だかくすぐったくなって寝返りをうった。
セナらしくないだろ、そういうのは。
「行きゃあしないから、もう寝ろ」
クロウは投げやりにそう言い放って、目を強く閉じた。いつもは所構わず睡魔に襲われるこの体が、肝心な時に機能しないのが恨めしい。
「ねえ、クロウ」
「何だ?」
「ありがと」
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