4章 龍崎葵という名の女の子
第1節 浮舟涼香とはほぼ完璧な人間である
翌日、土曜日のお昼過ぎ。
駅前に設置されている銅像の周囲には、私服姿の人々がまばらに点在し、その中に
「すまんな。付き合ってもらって」
「別にいいけど。てか、浮舟先輩って妹さんが居たんだね」
「……あ、ああ。てか、俺もこの前知ったんだよ」
龍崎は腕時計から顔をあげて周囲を見渡し、馴染みの顔があるかと探し探す。
(そろそろか)
本日、龍崎は妹と一緒にお出掛けをしている。様々な口実をでっち上げ、嘘を嘘で塗り固め、葵をおびき出すことに成功したのだ。
と、そこで龍崎は視界に見覚えのある女性を見つける。
その女性も龍崎と葵に気が付いたのか、そのまま一直線に歩いてきた。やや肩出しの白い長袖に、花柄の入った藍色に近いスカート。手には小さな手提げ鞄を持っている。どことなくお嬢様のような風貌であり、事実、お嬢様である浮舟涼香であった。
「こんにちは! 葵ちゃん今日はありがとね。私の為に付き合ってくれて」
龍崎は涼香の顔を見て半笑いを浮かべた。
(……犬被りだったなコイツ)
葵が「いやいや」と言葉を返す。
「別にいいんですよ。……ていうか浮舟先輩って妹さんがいらっしゃったんですね」
葵は涼香の顔を眺めながらそう言った。きっと涼香の妹の顔でも想像しているのだろう。
が、対する涼香は少しだけ眼を泳がせる。
「え? あー‥‥……そうだね! 妹が葵ちゃんと同じぐらいの歳だからさ、一緒に誕生日プレゼント選んでくれたらと思って」
そんな涼香の姿を見た龍崎は僅かに不安を覚える。
浮舟涼香とは、ほぼ完璧な人間ある。その外見も、産まれ持った素質も、与えられた環境も龍崎の真逆をいく人間なのである。ただし、時々ポンコツなのだ。だからこそ不安であるのだ。
と、そこで葵は周囲を見渡した。
「で、浮舟先輩。どこ行きましょうか?」
「うーん、そうだね。どうしよっかなぁ」
そう言って辺りに視線を移す涼香。
そして龍崎も「さてどこに行こうか」と思ってみたが、妹以外の女子の買い物などに同行したことがないため、口を出すべきかと思い悩んだ。だがそれでも体裁上、首を巡らす。
ここ東深津駅周辺は若者の街であり、お買い物の街でもある。商業ビルに入るテナントも、ファッション系のお店が軒を連ねる裏通りと呼ばれる通りも、オシャレな飲食店も、利用客には若者が多い。
と、そこで涼香の顔の動きがピタリと動きが止まった。
「じゃあ取りあえず『あるふぁ』に行こっか!」
と言って涼香が指さしたのは、駅すぐの場所にある『あるふぁ』と呼ばれる商業施設である。基本的に女性向けの店舗が多く、以前、龍崎が間違えて入った際には酷く肩苦しい思いをした。
「あー、いいですね!じゃあ行きましょう!」
葵はそう言って涼香の腕に抱き着いて歩き出し、その後を龍崎が着いていく。
龍崎は前を行く2人の背中を眺めつつ、本日の目的を再確認する。涼香に葵の悩みをそれとなく聞き出してもらうこと、そして『カワイガリ』の弱体化を成功させること。それが目的である。
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