第14話・やられた! 逆盗作だSOS!
夜の作業中にて突然、ブーブーと太いバイブ音が発生。少しHなシーンを書いているとき耳にすると、想像力がムダにはげしいダンスをやりそうになる。
「健多か、どうしたんだ?」
左手のスマホを耳に当てる剛。いったい何事かと思えば、小説の進み具合はどうだ? という確認。とっても気にしているって声が印象的だ。
「ふふふ、気になるか?」
「なる!」
「聞いてよろこべ、もうすぐ完成しちゃうぞ」
剛はいま、ある一般小説をイラスト付きでアップする予定だった。むろんイラストは健多が担当している。2人でやって、2人ともホメられ、2人とも成功する……というのが理想の展開。
「もうすぐできる。これは力作なんだぞ」
「おれも早く見てみたいのでよろしくたのむ」
電話しながら健多は、ついでにとばかり剛をホメた。ここ最近における剛の小説は、以前より良くなっている。やるなぁと感心する声をくれてやってもいいほどだと、素直に思うのだった。
「へへへ、さすが健多だ、するどいな。実はいいモノを手に入れたんだ」
「いいモノ?」
「文章一時、勝利は一生って名前のフリーソフトを手に入れた」
「なんかすごい名前だな……」
「それがすごい役に立つんだよ。フリーではありえないレベルんだよ」
手持ちのトミカを自慢する子どもみたいに、剛は得意気になって語った。作成した文章を貼り付けチェックボタンを押す。すると優秀なフリーソフトは、文体の難点や欠点などを教えてくれる。点数まで出してくれるという代物なので、剛にしてみればワンダホーとしか言い様がない。
「それでガンガン練習に身が入るんだ」
「がんばるなぁ……おまえのそういう熱意はエラいよ」
「とにかくもうすぐ出来る。出来たらすぐアップしてメールで知らせる」
剛から伝わるアツアツの勢い。これはおれも負けてられないと思い、電話を切ったらイラストの作成に励む健多だった。見えないエアはちまきをしてパソコンに向かう。
さて一方の剛、ワードで文章を書いては、時々フリーソフトに貼り付けて確認する。それがどれほど役に立つのかはわからないが、すっかりいい調子になってノッている。時間がどれほどあっても足りないぜとガンガン進む。
そうして午前も1時になったとき、やっと小説は完成した。このうれしさは部屋でダンスしたくなるレベル。それを自分の場所にアップロードしたら、ただいま混雑中という表示がされる。
「もう……それなら先に入ってくるかぁ!」
イライラしつつ太っ腹みたいな面持ちの剛。のんびりまったりとフロに入った。1時間くらいかけて自己満足に浸った。
それが終わって部屋に戻ってくると、アップできるか? と確認。すると今度は混雑をすり抜けられた模様。これはもうアップするしかないと、大急ぎで作業にとりかかるのであった。
―今回はイラストつきー
そんな一言を添えてアップした小説は、ライトノベルの完成版がイメージされている。イラストがかわいいって理由でアクセスが伸びてもかまわない。小説へのアクセス数が増えるってことは剛の名誉向上にもつながる。上手くいけば何かが起こるかもしれない。イラストを作成した健多だって注目されるかもしれない。
「一番いいのは2人でデビューするってことだよな」
クフフと明るい夢にニヤニヤがとまらない剛。スマホを手に取ったが、時間があまりにも遅いから、明日学校で報告しようと思い直す。健多へのメールは送らなくてもいいやと思い、きもちよーく眠りの世界に突入。
そして迎えた朝、チュンチュンってかわいい声によって目が覚める。ぐぐぅっと背伸びをしたら、電源入れっぱなしのパソコンに向かう。
ネットに小説をアップすれば、アクセス数なんてモノが気になる。どのくらい気になるかって言えば、彼女からの手紙はまだか? と郵便受けを見るのと同じくらい。
しかし……ここで予想もしない事態が発生。小説ページを開こうとしたら、なんと警告画面が出てきた。それも青天の霹靂って話だ。青空から氷がおちてきたみたいだった。
「はぁ? なんだって……盗作? 盗作ってなんだ?」
ガーン! っとショックを受けた後、今度はビキビキっと氷漬けのように固まってしまう。なんという事だろう、画面には盗作したという注意が映っている。盗作されたではなく、盗作したという事だから信じられない。理解の一文字も受け付けられないほど頭が真っ白になった。
「アホか……この小説はおれが書いたんだぞ?」
剛はごくりと息を飲む。小説は自分がパソコンで書き上げたもの。原文だって所有している。もし作成努力を証明しろと言われたら、剛は何にも困らない。むしろ剛の方が勝つって話だ。
しかし重要なのは、作品が先に出たかどうかである。先に出れば勝利であり、後から出るモノは敗北。仮に悪い意識を持ったやつが盗作しても、後から出せばそれは一切通用しない。後から出された盗作が勝利することはない。でも先に出たら事情はコロっとひっくり返る。
「ちょっと待て! なんだこれは!」
別の小説サイトで、誰かわからない人間が出しているモノを見ておどろいた。それは自分が書いたものとまったく同じ。1から100まで完全コピー。クローン人間ならぬクローン作家。作品は文字だけで絵はない。つまり入魂の文字だけが被害に遭っている。
「ウソだろう……いつだれがこれを取った? おれの後にアップしたならこいつは盗作で犯罪者。で、でも……こいつが先に出てしまったら、後から出すおれは勝てないじゃん」
まことに信じられなかった。まったく思い当たらないからだ。小説をアップする場所はパスワードログインが必要。パスワードは命がけで守っているし、漏れたという可能性はまったくない。
小説を作成中にアップした事はないし、パソコンから取り出したモノを見せたのは健多だけだ。健多以外の人間は誰も見ていない。でも健多を疑いたくはないと思った。
「け、健多がこういことをやるわけない」
友人をうたがうのは当然イヤだと思う。されど可能性がどこにあるかわからないので、剛は部屋のカベに頭を押し付けた。
「なんだよ、どういうことだよ……」
とりあえず荒波のように狂う心をこらえた。親の前では冷静に振る舞って朝食をとる。洗顔し歯をみがき、いつものペースで学校に到着。だが健多の姿が目に入ると、いても立ってもいられない。
「健多、ちょっと来い!」
彼女と話をするつもりだった健多を、ムリヤリ講堂の裏側に引っ張り込む。そうして早口でわけがわからない事をぶっ放す。
「おちつけよ……日本語で話せよ」
どうどうと荒馬をなだめるように振る舞う健多。何があった? と質問したが、話を聞かされると青ざめた。いや青ざめはするが、どうにも理解ができない。とても奇妙なキブンに落とされてしまう。
「誰かがログインしたとか……」
「その可能性はない」
「作成中のデータをネットに出した?」
「そんな事するわけないだろう」
「剛、言っておくが……おれは何もしてないぞ? おれを疑るなよ?」
「わ、わかってるよ……だから困ってるんだよ」
これはいったいどういうことだ? と、2人が同時に腕組みをしたとき、ふと健多は思った。
「剛、おまえフリーソフトがどうとか言ってなかったか?」
「文章のやつか?」
「もしかしてそいつが犯人なんじゃ……」
「うそ……やめてくれよ、そんな……」
健多はドキドキしながら事情を話す。たしかにあのソフトに文章を貼りつけた。すべては文章力をあげたいと思うがゆえ。
「でもな、貼り付けただけなんだぞ? 直接入力はやってないぞ?」
「だけど剛、たとえ貼り付けでも……文章確認とか何かしらのボタンがあるだろう? それを押したとき……勝手に文章を送信されたりしたんじゃないのか?」
「あぅ……」
「ネットへの接続はどうやってる? おれは無線LANでつないだり切ったりをくり返す主義なんだけど」
「お、おれ……ひたすら無線LAN立てっぱなしが基本」
「じゃぁ……相手に文章を与え続けたってことじゃないのか?」
「ちょ、ちょっと健多……それはない、そんなのひどすぎるよ。いくらなんでもおれが気の毒すぎるだろう」
冷や汗ダラダラの剛は、あのソフトはモノ書きの味方なんだぞと訴えた。文章が上手くなりたいと思う人間のために、そのために開発されたありがたいソフトなんだぞと力説した。それはソフトの作り手と同時に、自分自身も養護したいって哀しい音色だった。
「剛、そのソフトって誰がつくったんだよ」
「そ、それは知らない……フリーソフトだもんな」
「剛、おまえもしかしたら……夢とか努力って、大切な部分を食い物にされたんじゃないか? ものすごく悲惨な経験をしているんじゃないのか?」
「そ、そんな……」
ガクガクブルブルの剛はスマホを取り出す。そうして感謝の念すら抱いたソフトが、世間でどういう評価を受けているのかと調べてみた。
するとどうだろう、出るわ出るわ悪評の数々。大切な文章をとられた! という被害報告も多い。作ったやつは悪人以外のなんでもないという声まで寄せられているのだった。
「け、健多……おれ……どうしたらいいんだ?」
「う~ん……ちょっと小説サイトと話をするべきかもな」
「おれ、せっかくの小説をだましとられた。どうすんだよ。おれの文体と文章力を盗まれてしまったじゃんよ」
「まぁ、剛の場合は今まで多くの小説を出していたからな、特徴っていうのはかろうじて守れるんじゃないかな」
「でもよ、先にしてやられたんだぞ? 後なら平気だけど、先にっていうのがダメ。それやられたら、盗った方の文体が神で、このおれがモノマネってことになるじゃん」
「剛……もっとうまくなればいい。盗人を超えれば……いいんじゃないのかな」
健多はだんだん気が重くなってきた。自分の絵がどうなったかなんて、そんな事はどうでもよい。ただひたすら友人が気の毒でならない。
加藤剛、タマシイが抜けてしまった。すさまじい放心状態がゆえ、死人のようにすら見える。いつ自殺したっておかしくないような痛々しさ。だから健多は最大限の思いやりを口にするしかない。
「剛……まずは生きろ……生きていれば……必ず報われる。だから……死ぬなよ? 何があっても自殺を選んだりするなよ?
それだけ言ってクルっと回れ右をした。健多が講堂の裏側から離れると、物陰から泣き声が聞こえた。きれいな晴天に似つかわしくない、あまりにもひどい泣き声である。
「ちくしょう……これだからパソコンの世界とかいうのは……」
右腕で鼻をこする健多、その目からはあつい涙がこぼれる。パソコンだのスマホだの、機械にはない血の通った涙がボロボロ落ちていった。
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