第11話・ツイッターで優越感。おバカな姉としっかり者の妹
白石桃の姉こと葉月は、白石家の長女で家族と暮らしている。大学生って身分をフル活用した生活を送っている。学ぶときは学び、だらける時はだらける、寝るときは寝る、食うときは食う、遊ぶときは遊ぶ、つまり3割の理性と7割の本能で時計を進めているような人だった。
「さてと……愛しの桃は新しいのを買ってるかなぁ」
クヒヒと無邪気にして悪い笑みが浮かぶ。わが物顔で立っている場所は妹の部屋。なかなかの女子力って部屋の中には、ベッドやら本棚やら机やら色々アイテムがある。でも葉月がまっすぐ見つめるのは白いタンスのみ。それ以外はアウト・オブ・眼中と言わんばかりの勢いである。
「でた、桃ブラ!」
ほっぺたを赤らめ、うれしそうな顔でタンスを開けていた。垢抜けない感じとイケイケな感じ、そんな葉月はきれいに並んでいるモノを見てご満悦。
「姉のわたしがCカップなのに、妹がFカップっていうのはイケない事だと思うんだ。だから桃はわたしに協力する必要があると思うんだ」
身勝手なことを最もらしくつぶやく葉月。真新しいホワイトをひとつ手に取ると、クヒっとニヤつき、そのまま自分の部屋にと戻った。
「毎度ながらいいニオイだわぁ」
デヘヘという顔でフルカップをクンクンする。それが終わるとベッドの上にブラを置き、それを手にしたスマホで見つめる。軽いキャラクターでいけない女のくせして、職人みたいにこだわるところがあるようだ。
「うん、これでいいかな」
何回かシャッターをして納得したら、出来たてホヤホヤの画像をスマホからフリーメールに送る。それから心身のうずきとかコーフンをガマンと言い聞かせ、まずはパソコンに向かう。
パソコン側で自身が送ったメールを受け取ったら、今度はツイッターへとつなぐ。ヒマなときはツイッターとばかり、複数のアカウントでこなしている。
葉月に言わせればお利口な生活ってことで、アカウントによって叫ぶことも分けていた。面白味もないマジメな事ばかりつぶやくアカウントもあれば、オタク趣味なアカウントもある。言いたい事を遠慮せずにぶちまけるアカウントもあれば、エロい事ばかりつぶやくアカウントもある。
いま、葉月がつないだのは妄想アカウント。女子大生のくせに女子高生といつわり、自分は巨乳ですと偽る。巨乳女子というだけでフォロワーが増えること増えること、まるで自分は芸能人とか言いたくなる。こうなると目立つのが好きって特徴も、巨乳になりたいって願望も同時に満たせて結果オーライ。
―新しいブラ買った、今のところ安定してFカップ止まりー
そういう風に書き込み、先ほどの画像を貼る。こうするとわんさか「いいね」を押してもらえる。勝利者になったようなキブンが味わえた。
―Fカップってすごいなぁ、巨乳だねー
そんなメッセージが送られてきたりすると、人には見せられないようなビクトリーフェイスになる。
「へへへ、まぁね……でもぉ、これ以上は別にデカくならなくてもいいかな」
そのつぶやきは返しメッセージで、ドデカい優越感がたっぷり練り込まれている。控えめとか謙虚でも、みんなから注目されアイドルになれる! 的なユメにどっぷり浸れる。
―巨乳だとなんか苦労したりするんですか?-
そういうメッセージが来ても葉月はまったく動じない。自分の妄想と、妹の成長録を重ねれば作り話なんかお茶の子さいさい。まるでエロ小説家のように、経験していない事も熱く語れたりする。
このアカウントはとにかくチヤホヤされた。フォロワーががっつり増えていく。妄想を満たし優越感にも浸れる。これまさに心の栄養であり、一度始めたらもう止められない。
「なに? つき合ってください? そんなのいらないよ、わたしは崇められるだけでいいんだもんね」
葉月いわく、お付き合いを求めるような不埒メッセージは無視。こんなバカは相手にしないと思えば、ますますザマー気分が光輝いていく。
「あ、ちょっと気分が盛り上がりすぎ!」
突然に葉月が立ち上がる。興奮してきた! とばかりベッドに倒れ込む。Fカップの白いブラを枕の上に広げおくと、カップの間に顔を近づけシアワセを満喫。生きていてよかったぁと、煮込まれるジャムみたいに目がうつろ。
「あぁ、このニオイ……桃ブラって最高すぎる」
くぅん! って子犬みたいな声も出た。いつまでもこんな事をしていたいと思った。今日も明日も明後日も、この優越感とキモチよさに溺れたいと欲した。でも桃ブラに甘えていたら、ふと大変なことに気づく。
「な……も、桃? い、いつの間に……」
青ざめる葉月が顔を上げると、そこには部屋に入ってベッドを見下ろす妹の姿があった。ワナワナっと震えながら右手をにぎっている。
「お姉ちゃん……またやってるね?」
「桃、帰ってきたらただいまって言いなさいよ。部屋に入る時はコンコンってノックしなさいよ。こんなのマナー違反だから」
「アホか! どっちがマナー違反なのよ!」
真っ赤な顔でギュッと手をにぎる桃だった。学校から帰ってただいまと言っても返事がない。お姉ちゃんいる? と呼んでみたが声はない。両親が出払い中なのに鍵がかかっていないのだから、姉がいることは確実。寝ているの? と思い部屋のドアをノックした。それでも返事がないので、ちょっとドアを開けてみればこのありさまってオチ。
「いや、だから桃……ノックして返事がなくても、開けたらダメでしょう」
「わたしよりお姉ちゃんの方が問題!」
まったくもう! とプンプンして、どえらい真っ赤な顔で自分のブラを取り返す。白いフルカップ、F80、桃のバストをサポートする大切なモノ。
「お姉ちゃん、ちょっと床に正座して」
「え……」
「聞こえなかった? 正座してください!」
妹に言われ仕方なく正座する葉月だった。正面に正座した妹の方が、姉のように見えてしまう。
「お姉ちゃんさぁ、女でしょう? 自分の乳があるじゃん。乳があるって事はブラだってあるじゃん」
「桃、Cカップなんて平民でつまらないんだよ。なんていうのかワクワクもドキドキもしない。テストに例えればさ、平均点を下回らなきゃいいって冴えないレベルだよ。わからないかな、この女のキモチ」
「わたしだって女だし、こっちのキモチはどうなるのよ」
出来るだけ冷静かつ大人にふるまおうと思っても、ついつい姉の胸ぐらをつかんでしまう妹だった。
この葉月という姉は、妹の巨乳がうらやしいと言うにとどまらない。妹のブラを勝手に持ち出しニオイをクンクンしたりする。頬擦りをしたりもして、どこのヘンタイさん? なんて感じの顔を浮かべる。
「自分のブラでやればいいでしょう」
「桃、自分の持ち物って面白くないんだよ。桃だってさぁ、自分の乳を触ってたのしい? 楽しくないでしょう? でも他人の巨乳だったらさ、絶対コーフンすると思うんだ。桃はもう高校生なんだからさぁ、こういう話も理解しないと」
「いや、しないし……たのしくないのが当たり前だよ。お姉ちゃんさぁ、言わせてもらってもいい?」
「なに? あんまり人の心をキズつけるようなことを言ったらダメだよ? 桃はいい子なんだから思いやりを忘れたらダメだよ?」
「お姉ちゃんって見た目は女だけど……中身はエロおやじでしょう?」
「う~ん、ちょっとは入ってるかな……へへ……」
「へへじゃないよ、言っとくけどホメてないからね?」
「やっぱり怒ってんの?」
「見た目がお姉ちゃんじゃなかったら、まして女じゃなかったら通報するってレベル。前にも言ったじゃん。わたしのをこっそり使用するんじゃなくて、ネットで中古ブラでも買えばいいって」
「まぁね……桃の言うことは当たっているんだけど……」
「とにかく、悪いクセは治すように。そんな事だと彼氏とかできないよ?」
「そのときは桃に養ってもらおうかな……」
「お姉ちゃんが言うと笑えないから怖いわ」
自身のブラを取り返し、ここで説教を終えかと桃が立ち上がる。葉月もホッとして肩の力を抜く。やっと平和が訪れると信じた。でもその時、桃はベッドに転がる姉のスマホを見た。
「うん?」
気にするなと言われても無理なので手に取る。すると画面にはFカップブラの画像がある。スマホで撮影された桃ブラだ。
「お、お姉ちゃん……ちょっと!」
収まりかけた嵐がまた動きだす。桃はスマホの画像はなに? と問い詰める。まさか他人に送ったりしていないよね? と本気で失敗する。
「ないない、他人に送るなんてそれはない。愛しい桃の巨乳ブラだよ? なんで他人に送らなきゃいけないの?」
「で、でも……これ……メール添付じゃ……」
「だから、わたしが自分に送ったの。受け取れマイセルフ! って感じ」
「お姉ちゃん、もう1回座って。正座してください」
せっかく立ち上がったというのに、また正座させられる葉月がいた。仕方なくツイッターの話をして聞かせた。
ツイッターは心の叫び。だからもう一人の自分だって叫びたくなる。妄想。願望。怒り。攻撃。そういう叫びをやるためにツイッターがある。だったら巨乳女子としてチヤホヤされたい思いも、ツイッターで満たせばいい。
「だ、だからさ、巨乳女子高生って偽りのアカウントを持ってるの」
「だからってどうして、わたしのブラ画像が必要なのよ」
「だってほら、新しいブラを買ったとか、これがお気に入りのブラとか、叫ぶだけじゃダメなの。画像があるとホイホイ人が釣れる。ほんとうに巨乳女子だ! って思わせられるじゃん? そうしたらわたしだって嬉しいわけで……」
「ウソついても仕方ないじゃん……見栄っ張り!」
「でも、巨乳女子を演じているときは優越感なんだよ。それは人が生きていく上で必要な栄養みたいなモノだよ。わからない? 桃にはこの話がわからない?」
「お姉ちゃん、つき合ってとか言われたらどうする気?」
「あ、それ大丈夫。そういうの全然興味ない。だってわたし女だよ? そんなエロおやじみたいなお誘いに興味なんかないって」
「お姉ちゃんのやっている事が十分エロおやじです!」
「ガーン!」
「なにがガーン! よ。ちょっとは妹のキモチを考えてよね」
はげしく疲れてしまった桃、 疲労感いっぱいに自室へ入った。お姉ちゃんは中身がおっさんとかブツブツ言いながら着替える。
「変な趣味っていうのは何とかならないのかなぁ……」
姉の行く末を案じながら着替え終了。そのときフッと、同じ流れみたいなモノを感じて、健多に対して物言いしたいキモチが湧きあがる。
萌え絵を描きたがる夢追い人。その心意気やよしとしても、恋タナなんてモノにはびっくりさせられた。先日はマックにてあれこれ注意した。ひとまずは納得というのが胸に居座った。でも今、姉のせいで感情が乱れたことにより、やはり健多の恋タナは許せないなぁと燃えてきた。
「う……ん、しっかりしろわたし。あんまり小さいことにこだわったりネチネチな女になったらダメ! わたしはもっと心を大きく持つんだ。そういう女として、健多の彼女であればいいんだ」
ハァハァと息を切らし、イライラを抑えるように頭をかく。これはちょっとしたファインプレーだった。グニャッと不健康に曲がりかけた心が、なんとかまっすぐを保ったのだから。
「ちょっとおやつでも食べよう」
着替え終えた桃が小腹を満たそうと部屋を出る。すると狙っていたかのように、ほんの少しとなり部屋のドアが開く。ヌーッとちょっとだけ顔を出す姉は、オドオド小学生みたいに見える。
「桃……まだ怒ってる?」
「ぅ……も、もう怒ってない」
「なに、今一瞬つまったよ?」
「うるさいなぁ、怒ってないと言ったでしょう!」
「そ、そうだよね。桃はやさしい女の子だもんね。いつまでも根に持ったりしない良い子だもんね。そうだよ、わたしだってさ、ちょっとくらいは悪かったかもしれないけど、すごく悪いことをしたわけじゃないもんね」
ハハハと一人だけ勝手に心を大きくもつ葉月だった。それを聞いて桃はプルプルっと震えながら手をにぎってしまう。
「なんか……お姉ちゃんが言うと、なんかこう……ふざけんなよと言いたくなるっていうか、いい子ってなんだろうと疑問に感じるていうか」
「やだ桃、終わった話を蒸し返すの?」
「ぅぐくぅ……」
葉月はやれやれと顔を振って腕組みをする。終わった事は流さないと、いつまでも平和が訪れないよとか少しエラそうに語りだす。心は持たなきゃダメだよ? と、急に先生みたいなそぶりが出てくる。
「桃、せっかくおっぱい大きくてもさ、人間が小さかったらダメダメ。それはハッキリ言って悪い巨乳だよ? 桃にはそんな女になって欲しくない」
「ぐぅぐぐぐ……お姉ちゃん!」
「なに? どうしたの?」
「今日はこれ以上わたしに話かけないでくれる?」
「あ、桃がグレた!」
「うるさい! もうほんとうに……どいつもこいつも!」
せっかく沈めたはずのイライラに取り憑かれた桃、ドスドスと音を鳴らしながら階段を下りて言った。どいつもこいつも大きらい! とか荒んだ感じの声が響き渡るのであった。
「桃……もしかしてあの日だったのかな……」
そんなつぶやきをする葉月だったが、本日はこれっきり口を聞いてもらえなかった。さすがに深く反省し日記ソフトに色々と綴る。でもそういうキモチは、一晩寝るとケロっと忘れてしまう。そうやってまた新しい一日が始まる。
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