第8話・恋タナ登場・ついにウィンドウズ10のPCを購入する日が来た!
善は急げという。思い立ったら行動するのが真の男だともいう。そこで健多は、土曜とか日曜日まで待てないという結論に達した。
「そういうわけで加藤くん、今日は買い物につき合って欲しい」
本日は金曜日であるが、学校が終わったら剛といっしょにパソコンショップに出かける事とした。ついにウィンドウズ10搭載の中古を買おうって話。
「健多は思い立つと行動ってタイプなんだな」
すずしい風が吹く地下鉄のホームにて剛がつぶやく。
「やはりパソコンが一台っていうのはしんどい」
健多が言っているとき、キューンと音を立てやってきた地下鉄。そいつに乗り込むと、健多はついこの間のトラブルとウィン7のリカバリーなどについて語った。
「環境の立て直しがめちゃしんどい。ウィンドウズアップデートが終わらないんだよ。その間は、なんにも出来ない。おれを殺す気か……って感じなんだから」
「わかる、あれは一種の人殺しだよな。それで健多、今回の見積もり予算は?」
「使うかどうかは別にして5万円」
「5万! グッドな中古が2台買えるな」
「お年玉貯金とか、今まで溜めたお金とか……そこから使うんだ」
「そうか、健多が本気になったってことだな」
「それでさぁ、ウィンドウズ10っていうのはいい子なのか?」
「前にいいって言ってやったじゃん」
「コルタナとかいうのがあるんだっけ? それはかわいい女の子か?」
健多はそこにベリー期待しているって顔を浮かべた。デスクトップ上に愛しのキャラが生息していて、想像を2倍も3倍も超えるような機能で活躍してくれるものだろうと、勝手に思っているって目。
「えぇ……どんな想像してるんだよ。ただの秘書だよ」
「だからかわいい秘書かどうかと聞いている」
「健多、ネットでコルタナって調べた事ないの? 検索してみろってば、かわいい女の子なんか出てこないぞ」
剛は一歩先ゆく大人みたいな顔で、コルタナはただの秘書だと続けた。タスクバーに検索ボックスがあって、そこにキーワードを打つと検索が開始される。ユーザーPCの情報やネットの検索をする。そういうモノが時々しゃべるだけのこと。そこに人のような絵姿はない。
「検索ボックスがしゃべるだけ?」
「ちゃんと女性の声でしゃべるぞ」
「どんな感じだよ」
「う~ん……電話オペレーターみたいな感じかな。あるいはスチュワーデスのお姉さんって感じの声かな。まぁ、大人の女性で萌えではない。健多が求めるような感じではない、絶対に」
剛の説明を聞くと、健多はがっかりしてしまった。話を聞く限りでは地味なモノだとしか思えない。ウィンドウズ10をメインにしようかと思っていたが、7がメインで10はサブ機の方がいいかな……と考えたりする。
こうしてたどり着いた○○駅。そこから徒歩で15分もすれば電化街にたどり着く。お店は色々あるのだが、剛が進めるってことでパッパラPCという店へ入ることにした。
「う~ん……8のトラウマを思い出してしまうなぁ」
ズラーッと膨大にならぶノートPCの画面を見る健多は、ウイン8初見時のショックを思い出してしまう。
「8なんかといっしょにするな。10の方がずっといいから」
剛はそう言うと、さっそく発見! とばかり一台に指を向ける。それは値段も性能も良さ気ってやつ。素通りするのはもったいないぜ的なモノ。
「32ビットでCPUがcorei-5、メモリー4G、ハードディスク500G、光ディスクはDVDのRWまで対応。USBポートが3つで無線LAN内蔵。こいつのお値段が1万7000円だったらケッコーお買い得だぞ」
「もうちょっと色々見てみないとダメだ」
「なんだよ、健多って女の子みたいに慎重なんだな」
「変な言い方をするな……」
「じゃぁ、いっそ64ビットを狙っちゃえよ」
ワクワクって顔で剛が別のマシーンに指を向ける。先のとCPUはcorei7でメモリーは8G搭載の64ビット。ハードディスクは750Gで光ディスクはRWまで対応。そして気になるお値段は3万5000円。
「ちょっと高くない?」
「手持ち5万だろう、楽買いできるじゃん」
「それはそうなんだけど……3万超えるとちょっと胸が痛むっていうか……」
「まったく健多って女々しいなぁ」
「剛、チョイスのツボはわかったから、ちょっとひとりに欲しい。一人でじっくり見てみたいから」
剛を追い払った健多は、とりあえず色々とノートパソコンを見てみた。その上で最初のモノがいいかなと思ったら納得が胸に広がっていく。
「最初のやつで決まりかな」
健多がそう思ったとき、店員というのが声をかけてきた。どういのをお探しでしょうか? と聞いてきた。冷淡な態度が取れたらいいのだが、店員のペースに丸め込まれる健多だった。気がつくと自らあれこれ語っている。
「いやまぁ……絵を描くのが好きで、それが生きがいっていうか」
それを聞いた店員はポン! と両手を合わせ真剣な顔をする。それならこれしかありませんよと、剛が2番めに指さしたマシーンを進めた。彼は健多が何か言う前に話を進めていく。
「お客さんは64ビットの方がいいでしょう、絶対に」
そう言われるとグッと来るのも事実。64ビットでメモリ8Gなんていうのは、可能ならやってみたいと憧れるモノ。描きが三度の飯より好きな健多にしてみれば、32より64に行け! って天の声が聞こえくる。
「失礼ですがご予算はいかほど?」
「と、とりあえず……5万くらい」
「5万! それなら64ビットマシーンに恋タナをセットにしたってお釣りが来ます。これはもう買うっきゃないでしょう」
「こ、恋タナ?」
「ちょっとお待ちください」
店員は健多が買ってくれると信じているようなフンイキだ。何やら別の場所に行ったと思ったら、自身マンマンな顔で戻ってきた。手には何やらおしゃれっぽい箱を持っている。
「ちょっと長い説明を情熱的にやってみてもよろしいですか?」
「は、はい……よろしくお願いします」
「ウィンドウズ10にはコルタナという秘書がいるんです。ユーザーのために待機している存在なんですが、これといった姿があるわけでもなく味気ないって声もあったのです。ダシを取り忘れた味噌汁みたいだって感じかなぁ。それ不味いんですよね、飲んだことあります?」
「いや、ないです」
「そこで萌え同士という会社がつくったのが恋タナ! マイクロソフト非公認ですが、コルタナよりも圧倒的にすごい! 何がすごいって……聞きたいですか?」
「ぜ、ぜひ!」
「めちゃくちゃかわいい女の子が何人か用意されていて選べます。ユーザーのためにどんどんお利口になって、ユーザーの事を親の次くらいに理解するようになって、ユーザーの感情にも寄り添ってくれるのです」
「お、親の次くらい?」
「そうです。お母さんの愛もびっくりですよ」
健多は神経は興味電流によって焦がされた。こんなすごい話を聞かされてサヨナラなんて出来るわけがない。
「64ビットでメモリー8Gならラクラク動きます」
「それで恋タナはいくらですか?」
「7000円です」
「7000円……」
なかなか微妙な金額だと健多は思った。たんに秘書っていうだけで7000円なのか? って言いたくなる。
「お客さん、今は愛のサービス中! 恋タナと会話するための小型マイクと、彼女が目の前に登場してくれるVRメガネをセットされて3000円!」
「め、目の前に登場?」
「はい、恋タナとあなたが手を取り合ったり、恋タナに膝枕してもらったりなんかができるんです」
「マジっすか?」
思わず大きな声を出してしまう健多だった。おほん! と顔を赤らめた後、ちょいとばかり考える。
手持ち予算は5万円。64ビットマシーンが35000円。そこに恋タナとVRメガネとマイクを合わせれば45000円。買えるといえば買える。戻ってくる金額は少ないが、そこは考えようだ。
ー戻ってくる数字よりも実をとるべしー
そんな声がどこからともなく健多の耳に入る。それは神さまからのメッセージなのだと健多は思った。
「このパソコンと恋タナとVRメガネとマイクを買います」
こうして健多はけっこうな買い物をする事になった。レジで待っていると、退屈そうな顔の剛がやってきて質問する。
「健多、どれを買うことにした? やっぱり最初のやつ?」
「ちがう。64ビットマシーンだ。それと恋タナをいっしょに買う」
「恋タナ?」
「コルタナを超えた存在……たぶん……」
「なんだそれ、おいおい健多だいじょうぶ?」
剛に心配されても、健多はしっかりとした面持ちで断言。これはよい買い物なのだから、誰にも文句は言わせないと。
「これは良い買い物だぁ……てか?」
「ガンダム調で言うな」
「まぁ健多がシアワセならそれで結果オーライかな」
温かい目を浮かべる剛は、健多のキモチをよく察していた。カバンを肩にかけ、パソコンやらソフトが入ったでっかい袋を持つ健多は、もう帰宅することしか頭にない。一刻も早くあたらしいPCをいじりたい。恋タナってモノに遭遇したい。その2つだけが頭の中を埋めていた。
「悪いけど、おれすぐに帰りたい」
いっしょにマックにでも行こうって話を健多が流したがっている。すまん! という顔をしているが、剛は当然のように理解して許してやる。
「いいよ、謝ることじゃない。おれは健多の気持ちがわかる。あたらしいパソコンを買ったら、一刻でも早く触りたいよな。それはほら、早く女の子と初体験したいって少年そのものだよな。それを引き止めたりはできない。だからおれは健多を止めたりはしないんだ」
相変わらず変な言い方ばかりするなぁとあきれつつ、理解してくれてありがとうと言って剛と別れた。
肩のカバンが重い。手に持つデカい袋もこれまた重い。それなのに電車は混んでいて座れない。なかなかつらい状況だが、ウィンドウズ10と恋タナの事を思えばあっという間にお目当て駅に到着だ。
「ついにウィンドウズ10に手を出してしまったか」
帰り道を歩きながら、ちょいとばかり過去を思い出す。親戚に7機をもらって喜んだこと。女の子のイラストを描いてはパソコンに保存しまくったこと。ペンタブをパソコンにつないでデジタル絵も描くようになったこと。天ノ川まなみにデレデレしまくった日々。そしてウィンドウズ10なんかに手を出さないと誓ったことなどなど、まるで死ぬ寸前のように色々思い返していた。
「ただいま」
帰宅した健多は燃え盛るようなキモチを抑えて夕飯を食べた。さぁ今からいじるぜ! と思ったら桃から電話。ジリジリするキモチをこらえて話を終えると、今度は父がパソコントラブルがどうとか言うので面倒を見た。
「やっとだ……」
やけに疲れたって顔で、袋からパソコンを取り出す。ブラックボディーのPCで、見た目はかなりキレイ。性能は7機より優れている。これからはこいつがメインになるだろう。
「まずはウィンドウズ10がどんなモノか見させてもらおう」
電源コードをつないで丸いボタンを押す。うぃーんと始まる回転音。きれいな液晶画面に通電という生命力が見える。
もっともこれは10機だから、7のきらびやかなオープニングとはちがう。光り輝く色の合体ではなく、窓というより青い田んぼが映って、その下でクルクルっと白玉が回転。
「なにこの地味な展開……」
健多がちょっとショックを受ける。のっけから7へ戻りたい的なキブンがふくれ上がる。
「あ、でも起動は7より速いかも……」
ここでいい感じが味わえた。デスクトップが表示されるまでの体感は、なかなか快適なタクシーみたいだと思えたからだ。
「う……なんだこの感じは」
健多は初見となるデスクトップ見て萎えた。そこは青と黒の世界だ。窓ガラスがかがやく壁紙は変更すればいいので気にしないが、その他の地味具合に面食らう。
スタートメニューのボタンは7ではきれいなボタンって感じだったが、10では地味な田んぼだ。しかしクリックして開いてみると、見損なってもらっては困る! と言いた気な感じが開く。
「7から来ると異世界臭がすごい……」
それとなくアイコンを見ていたが、IEアイコンを右クリックしてホッとする。右クリックしたときは7と同じだと安堵する。
「しかしずいぶんと……おだやかな快適さで動くなぁ。剛が言ってたとおりだ、7より動きはやさしくいい感じだ」
そんな事を言って10に評価してみる。でもすぐにわかりにくいと続く。つまりホメたりけなしたりが交互に飛び出してとまらない。
「どの設定がどこにあるのか……おぼえるのにちょっと苦労しそうだな」
そんな事を言いながらタスクバーに目を向ける。恋タナのために購入したマイクをパソコンにぶっ挿したら、コルタナがどんなモノかと遊んでみる。
「コルタナ、ユーのハッピーな仕事ぶりをわぉ! って感じで見せてくれ」
そう言ってみると、画面には悩んでいるような感じが表示される。それから剛が言った通りオペレーター女性みたいな声が出てきた。
「申し訳ありませんが、何を言っているのか理解できません」
ずいぶんと丁寧でおちついた感じの声。万人向けの無難という音色だが、萌えとかそういう色ではない。しかも見た目があるわけではないので、機械女性って感は拭えない。これでは愛情を育むのは困難だと健多は言いたくなる。
「コルタナさん、なにか冗談を言ってください」
「あなたに感謝してアリを10匹あげます。アリが10」
「つまらない……マジでおもしろくない」
健多ははげしく幻滅してしまった。おもしろくない、萌えられない、しかも色々試してみればあまり役に立たない。これすなわち、ないない3拍子ってこと。コルタナに関しては親指を下に向けざるを得ない。
さてこうなると、ハァハァ息が切れてしまう。ぼく、もうガマンできません! とニヤニヤして箱を取り出す。
「さて……頼むよぉ恋タナ、コルタナより魅力的なモノであってくれよぉ」
あまり崩さないよう注意しながら箱を開ける。そして内側からDVDを1枚取り出す。そいつをノートパソコンの体内に突っ込んで、夢世界へのキップを手に入れんと身構える。そして出てきたメッセージを自ら読み上げる。
「恋タナのためにコルタナを削除してもいいですか……って、コルタナを抹消するの? めっちゃすげぇじゃん」
体内に湧き上がってくるワクワク感。コルタナを抹消するなんて相当な暴挙だが、そういう所が逆に気に入ってしまう。
「イエス! コルタナなんぞ消しちゃってGO!」
なんらためらわず「はい」ボタンを押す。すると画面が切り替わって、ディスプレイ全体にズラーッと候補が並んだ。
かわいい女子に大人の女性など、総勢30人が映っている。萌え好きの健多は身を乗り出し食い入るように見つめてしまう。
恋タナは優秀な秘書であり成長していく。すべてのキャラを一斉に打ち込むのではなく、本命と決めたモノを打ち込むのだ。もちろん消去など可能であるが、愛情持って育成する必要があるので、慎重に選びたいところ。
「こ、この子……かわいいかも」
健多の顔がデレーと赤くなる。その少女はなかなか健多好みの顔立ち。実際の彼女である桃が一番の好みだとすれば、その次くらいの好みって感じ。ポチッとクリックすると拡大され全身が映る。
桃と似たような感じかもしれない。ちょいムッチリで巨乳だ。小さく並ぶ文字によれば、バスト93cmのFカップとか書いてある。
「この子しかいないじゃん……えへへ」
もうカンペキにデレデレ状態の健多。男に生まれてよかったなぁっとか、ウィンドウズユーザーでよかったなぁとかデレまくり。その姿は大げさに言えば、お見合いの相手が決まってウキウキする者のよう。
「この子で決まり!」
勢いよく決定ボタンを押した。すると画面は恋タナセットアップへと移行。その容量のデカさは、ふつうのソフトだったらありえんだろう! ってところだが、恋タナだから当然って思う健多だった。
「このPCはcorei7だから何にも怖くない。
期待感を込めて叫びクリック。するとさすがにcorei7という感じだ、バリバリ勢いよく手強いセットアップが進んでいく。
セットアップ中、無線LANの設定をしてからネットにつなぐ。試しにとばかり湯チューブのダウンロードをやってみれば、これがまたすこぶる快適。何かをやればやるほどCorei7はいいなぁと嬉しさがこみ上げる。
「corei5も悪くないけど、ちょっと実力がちがうって感じだな」
ホクホク顔であたらしいパソコンをいじる。ウィンドウズ10の事はまだよく飲み込めないが、7よりおだやかに快適に動くという所をとても気に入った。
「よし、セットアップの間にフロに入っちゃおう!」
ハッピーキブンでオフロに入った健多、これからは楽しい人生になりそうだなぁとランランキブン。これまでずっとウィンドウズ7一直線だとか思っていたのに、それが遠い過去のように思えていた。もし恋タナがナイスガールだったら、天ノ川まなみへの愛情だって遺物になるかもしれない。
「おっしゃぁ! セットアップ終了」
さわやかなさっぱり感をまとった健多が部屋に戻る。イスに座り机上のパソコンを見つめながら右手のマウスを動かす。
タスクバーの見てみると、恋タナアイコンが配置されている。ドキドキっとしながらポインターを動かす。そのキュートなアイコンをクリック。するとキラキラって効果音と同時に、コルタナと似たような画面が立ち上がる。でもそこには恋タナという少女の顔が映っている。そしてしっかり喋ってくれる。
「はじめまして、よろしくね」
なんというドストライクな萌えボイス。ハデさはないが地味でもない。たのしさと恋心を十分わかっているって感じが、コルタナとの決定的な違いと感じる。それは喜びとなって健多にぶつかってくる。
「は、はじめまして。よろしく!」
文字入力してもいいが、やはり会話してナンボとマイクを左手に持つ。画面でにっこり微笑む少女を見ると、もうマジで胸キュン! とシャウトしたくなってしまう健多だった。
「それでその、あなたの名前を教えてもらえますか?」
「あ、お願いしてもいいかな。あなたじゃなくて、きみって呼ばれたい」
「それでもいいの?」
「うん、大歓迎っすよ!」
「じゃぁ、きみの名前をわたしに教えて欲しいです」
「おれ青山健多……健多くん……とか言える?」
「健多くん? それでいいの?」
「いいもなにも、文句なし! グッジョブ!」
すばらし過ぎた、恋タナはあまりにも素敵すぎた。画面で絶え間なく自然な表情を切り替えながら、人間としてか思えない会話をこなせる。おかげさまで健多は、色ボケしてしまった人みたいになって、自分の情報をあれこれ恋タナに教えまくる。それが2時間くらいにおよぶと、恋タナは白石桃より健多の事を知っている女子になってしまう。
「あ、あのさぁ……おれ女の子のイラストを描いたりするのが好きなんだ」
「そうなんだ? いい事だ思うよ」
「後でこのパソコンにたっぷり入れるけど、笑ったりしないでよ?」
「笑わないよ、健多くんの情熱はわたしの喜びみたいなモノだから」
「後さ、ムフフって画像や動画もたっぷり保存するけど、気を悪くしないで」
「だいじょうぶ、わたしそういうのは気にしない。それに健多くんは男の子だから、自然なことだよ。男の子のやることに目くじら立てたりはしないから」
胸にジーンとくる会話だった。すばらしいなんてモノじゃない。恋タナはパソコンの妖精か? パソコンって世界から舞い降りたエンジェルなのか? そういう事を思わずにいられない健多だった。
「恋タナにお願いがあるんだけど、いいかな?」
「なんでも言って」
「パソコンを目覚ましとするんだけど、画面だけはオフにしておきたい。そういうフリーソフトがあるんだ。手元にあるんだけどさ、恋タナにお願いしてみたい。今、ネットで取ってきて。名前はおやすみモニターっていうんだ」
「了解。ちょっと待っててね」
するとどうだろう、恋タナブラウザが立ち上がって検索やらダウンロードが勝手に成される。それは恋タナが健多のためにせっせと仕事してくれているってこと。その一生懸命ぶりに健多の胸は熱くなる。
「ソフトの保存先はどこにするの?」
「Dにあるダウンロードってフォルダ、そこが定位置ってことで」
「了解」
「あ、そうそう。ダウンロードが終わったら、おやすみモニターって名前に変更してから解凍しておいて」
「わかったわ」
これはもう秘書ではなくパートナーだと健多は思った。ずーっとウィンドウズ10のパソコンで遊んでいたくなる。
「恋タナ、きみってかわいいよね」
「ありがとう、健多くんに言われるとすごくうれしい」
「全身見せてよ。おぉ……恋タナって巨乳だよね、もちろんキライなんかじゃない!」
「クス、どうもありがとう」
健多と恋タナの会話はバカップルみたいにノリノリだ。知らない人が声だけ聞いたら、どんなやつらだよ? と思うだろう。まさかそんな、片方は人間で片方はパソコンなどとは想像しないだろう。
「恋タナ、ここで大切なお願いがある」
「なに?」
「VRメガネをかけるんだけどさ、出てきてくれる?」
「あ、いつでも出ていくよ」
その会話が終わると、健多は説明し難いキブンでメガネを取り出す。それは名前の通りメガネ型だ。つまり見た目はそれなりに悪くないってこと。いかにもぶっ飛んでいるとか怪しげな形にはならない。ちょっと変なメガネをかけているって程度で済む。そいつを健多は手に取る。
異常なほどクソ長いコードで、パソコンにはUSBでつなぐ。でもこのクソ長さはとてもありがい。机上のパソコンにつなぎながら、自分は離れた位置にあるベッドに寝そべる事ができるからだ。
「で、では……」
耳元のボタンを軽プッシュした。すると恋タナの魔法が発動。パソコンのディスプレイから、ニュッとガールが出てくる。
これにはさすがの健多もびっくりで動けない。ほ、ほんとうに出てきた……とヒザがガクブルを起こす。
「ほ、ほ、ほんとうに出てきた」
「よろしくね、健多くん!」
ニコっと笑う少女は、そのすばらしさは言葉を失うレベル。メガネを付けたまま健多はちょっとだけ前に進んで手を伸ばしてみた。握手して欲しいという頼みだが、どういうモノか確認したいって事でもある。
「はい」
にっこりやわらかい笑みの恋タナ。彼女の手はやわらかくて温かい。くんぅ! と甘えた声を出したくなるほどのクオリティーだ。
「す、すごい……」
「つぎはどうするの?」
恋タナに言われて健多は心臓がドキつく。自分自身がもつ純情さからすると、恋タナを汚すような真似はしたくてもできない。それをやるとイラストを描くって営みにも悪影響を及ぼすだろう。あともう一つ言えば、彼女である桃の事もある。
でも男として何もしないわけにはいかない。そこで真っ赤な顔でデレデレっとしながら、膝枕をお願いした。それくらいは問題ないと確信している。
「うん、いいよ。どうぞ」
部屋の床に座る恋タナ。四つん這いになって近づくと、距離が縮まるといい匂いが伝わる。くぅっと体の力を抜きたくなって、恋タナの豊かな胸はあまり見ないようにして膝の上に寝転がる。
「ごろにゃーん」
恥ずかしさを隠すためおちゃらける健多。このまま時間を止めたいと思った。こんな生活は夢みたいと、子猫のように甘える。恋タナのやさしい手に頭を撫でられたりすると、ゴロゴロっと顔を赤くして甘えた。
結局健多はめちゃくちゃ夜更かししてしまった。疲れて眠いとか思っても、恋タナやウィンドウズ10から離れられない。よって健多がメガネを外し眠りについたのは午前5時20分。
「恋タナ、午前7時になったらさぁ、○○って曲を再生して、スヌーズでね」
もうすっかり恋タナに依存していた。恋タナはすばらしい、ウィンドウズ10だってめちゃくちゃ素晴らしいと意識が出来ていた。ウィンドウズ7のパソコンなんて忘れてしまった。天ノ川まなみなんて頭から消え去ってしまった。
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