第17弾 そして旅に出る
「やっぱり旅をするには足が必要だよなぁ...」現在進行形で死にそうな俺は誰に話しかけるでもなく呟いた。隣で七花が「足? 足を買うの? どこで?」などと聞いてくるが取り敢えず無視。
いくらサバゲーをしているからと言ったところで、所詮は高校生。歩ける距離などたかが知れている。城壁を出て歩くこと約一時間。もはや体力的にも精神的にも限界が見え初めていた。
「うーん、見えないなあ。多分まだまだ町は先だよ」七花が絶望的な事を言ってくる。いちいち報告せんでいいわい。しかもこいつはまだ元気100%だ。俺はもうすぐ0%を切りそうです...
昇と七花はひたすら歩く。
「ふうん? 中々いいじゃないか。合格だ」
隠れて観察している者がいることにも気付かずに。
突然、七花が立ち止まった。
「昇! 伏せて!」七花は言った瞬間にはもう伏せている。少し遅れて俺が伏せると、
シュン! 何かが空を切る音と共に頭の上を通過した。あっぶねぇぇぇ!!!
「ほう? 今のを避けるとは、君、普通の人ではないね?」驚いて声のした方へ振り返る。
そこには、金髪碧眼のキザな少年と、少し後ろで佇む女の人がいた。
「...一つ、質問をいいかな?」俺は立ち上がって絞り出すように聞く。
「ふむ。許そう」果てしなくイラッと来たがそこは置いといて。
「誰だオマエ?」まずは自己紹介を求める。
「僕は! 名乗る程の者でもない! ただの冒険者、ムイルさ!」思いっきり名乗ってんじゃん。そうかムイルか。
「僕はそこの女の子が気に入った! その子は僕の物にする! 従わないのなら、力ずくでだ!」ムイルは髪の毛をワッサワッサとかきあげながら言ってくる。うぜえ。髪切れ。
しかし、七花を持ってかれるのはちょっと困る。もしやり合うのならこいつがどれくらい強いか確認出来れば...
そうだ。『鑑定』を使ってステータスを見てみよう。
名前·ムイル 種族·人間 性別·男 職業·冒険者 ランク·銅 Lv.21
攻撃·42 防御·42 身体·42 治癒·42 魔耐·21 魔適·21 精神·21
スキル 奪取 反応 強靭 風属性適性
なんだ、ただの雑魚か。
「すいません、こっちも色々と忙しいんでお引き取り願えますか?」俺は出来るだけ丁寧に断ってみた。
「忠告はしたぞ! 従わないのなら力ずくで奪い取るのみだ!」交渉の余地も無くムイルは突っ込んでくる。いきなりスタートか。
俺は『創造』で自分の手にベルギー製のオートマチックピストル、ファイブセブンを作る。中身は非致死性のゴム弾だ。当たってもめちゃめちゃ痛いが死ぬことはない。
前方からムイルが突っ込んでくるのを、体を時計回りに90度引いてかわす。その際右足を少しだけ出しておく。これだけでムイルは面白いように引っ掛かってくれた。走る勢いはそのままで空中に放り出され、見事に顔面から地面にダイブしなかった。
「お! わっ、ちょっと待て! 『瞬時浮遊』!」ムイルが何か呪文のような物を唱えた瞬間、一瞬だけムイルの体が宙に浮く。ムイルは空中で体勢を整えると、綺麗に地面に降り立った。
「なるほど、魔法か。それはちょっと厄介そうだな」ステータスに『瞬時浮遊』なるものはなかったから、これがおそらく魔法と呼ばれる物なのだろう。
「ハハハハハハ! 驚いたか! これが風属性中級魔法、『瞬時浮遊』だ!」
バーン! という効果音が幻視出来そうな程、自信満々なドヤ顔だった。足引っ掛けられたのによくそんな顔出来るな。
取り敢えず一発腹に撃ち込んでみた。
「ハハハハハハ! 効かないなぁ! 『風壁』!」ムイルを包むように風の壁が展開。ゴム弾は風に逸らされる。
「風属性初級魔法、『風壁』! 君の攻撃は当たりもしない!」イラッときたので、ファイブセブンの残弾19発を全部ブチこむ。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!いつまでこんな事を続ける気だい?」すべて風の壁に弾かれる。ムイルは遂に何処かの吸血鬼見たいなセリフを言い始めた。
しかし、俺は見た。19発目の弾丸が、無駄にヒラヒラしているムイルの服をかすめたのを。もしや、ある程度撃ち込むと、風の間に隙間を作れるのかもしれない。
というか、実弾を使えば一発なんだけどな。でも必要以上に傷つけてしまうかもしれない。それはちょっとマズイ。
俺はファイブセブンを『無牢』に仕舞うと、『創造』でファイブセブンと同じ弾薬を使うP90を作る。もちろん中身はゴム弾。50発ものマガジンキャパをもつこの銃なら、あるいは...
「ふぅん? 新しい武器を出してきたね。見たことない武器だけど、どうせ僕の魔法の前には無力だよ!」果たしてそうかな? その驕りが、お前の敗因だ!
毎分900発もの弾丸を吐き出すP90が唸る。風の壁を無理矢理こじ開けようと、幾つものゴム弾が飛来する。
「ハハハハハハ! ハ! ハ? え? ちょっと! ちょっと待って!」
そして遂に風の壁を突破した弾丸がムイルを襲う。その突破口から弾丸が次々侵入する。
「あばばばばばばば! 痛い痛い痛い! がっ!」最後の一発がムイルの額に当たり、彼の意識を闇へと引きずりこんだ。スローモーションで後ろへ倒れるムイル。
結局、ムイルは出会って10分でKOされた事になるのだった。
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