第18弾 アルイゴ

燦々と輝く太陽。申し訳程度に添えられている雲。空を大きな皿と思えば、立派なメインディッシュだ。

そしてそんないい天気の下、俺の前にいる男は土下座していた。

「本っ当に! 申し訳ありませんでしたぁ!」渾身の謝罪つきで。

あの後、気絶からようやく戻って来たムイルは、俺達を見るなりいきなり土下座してきた。地面に頭を擦り付ける程の勢いでだ。若干引いた。そして、ここより東の町の出身だという事、七花を見て可愛かったから着いてきた事、最初に昇の頭を掠めたのは風属性初級魔法『風刃』だという事を語ってくれた。

「マジ調子乗ってました。スイマセン」でも、ここまで謝るってことは、根はいいやつなのかもしれない。

「はぁ... いいよ、もう。顔を上げてくれ」

「え!? マジっすか!? じゃあ七花さん下さい」前言撤回。こいつはクズだ。取り敢えずファイブセブンで額にゴム弾を撃ち込む。「がっ!」しかし一発目である程度慣れたようだ。

そんなことをしていると、今まで黙っていた女の人が初めて口を開いた。

「ムイル様。いい加減にしておいたほうが宜しいかと」

「う、うん、そうだね。ごめん」

「いえ、別に謝れと言ってるわけではないのですが...」そうだ。この人のステータスも見てみよう。


名前·アルイゴ 種族·元天使 性別·女 職業·治癒師 ランク·銀 Lv.45

攻撃·90 防御·90 身体·90 治癒·135 魔耐·45 魔適·45 精神·45

スキル 念話 絶対感覚 治癒適性


すげえ。ムイルなんかより断然すげえ。しかも何だよ、元天使って?

【聞こえますか? 昇さん。私はアルイゴ。あなたが『鑑定』でステータスを見ている者です】!? 頭の中に直接声が? しかも『鑑定』で見ている事がバレた!?

【ご安心を。普通の人にはわかりません。これでも私は天使なので。まあ、『元』ですが。今話しているのは、私のスキル『念話』です】

【元天使ってなんなんですか?】

【私は遥か昔、『ゾーン』の天使でした。しかし、『大戦争』中に強力な術式で人間と強制的な主従関係を結ばされてしまったのです】? 『大戦争』ってなんだ?

【ああ、知りませんでしたか。『大戦争』とは、昔起こった歴史的な戦争の事です。『シーグ』『ザウア』『ゾーン』の人間族、魔族、天使族が三つ巴で戦いました。結局、天使族は自分達の国を守る事にしました。戦うのが怖くて逃げたとも言います】アルイゴは自嘲気味に笑った。異世界だって変わらない。戦争は、天使にだってこんな顔をさせる。

【人間族と魔族の戦争は今も続いています。ここは戦場からかなり遠いので、あまり影響はありませんが。東にある人間領と魔族領の境目は、最も苛烈です】

アルイゴは少し黙った。まるで自分のしてきた事を思い出すように。

【そうですね... 私も、天使だった頃はずいぶんと多くの人間族や魔族を殺しました。百や二百ではきかないでしょう。その頃は、それが正しいと思っていましたから。今は、天使の証である光輪もありませんし、翼も片方だけです。しかし、天使ではなくなってから気付いた事もたくさんあるのですよ。神の愚かさなどを】

すると、ずっと黙っている空気をなんとかしようと思ったのか、ムイルが話しかけてきた。

「それで、昇さん達はどこへ向かうんですか?」

「いや、もう敬語はいいから... 東の一番近い町へ行こうと思ってる」ちょっとしんどくなってきたから。

「東の町... ということは、『バレール』の町か。僕達が住んでいる町だ」

「そうなのか。その町は近いのか?」

「近くはないかな。ここから50kmぐらいだ」絶望した。フルマラソンよりも

長い。思考停止しようとしていた頭が、ギリギリのところである疑問に気付く。

「お前はどうしてここにいたんだ?」

「なんでって、『マーズル』の町へ行く途中だったんだよ。理由はもちろん、彼女探しさ!」なんて不純な理由なんだ!

「でも、50kmあるんだろ? どうやってここまで来たんだ?」

「アルイゴに連れて来てもらったのさ! アルイゴは僕の専属メイドで、しかも元天使なんだ! アルイゴの魔法『空間転移』でね! でも一度に決まった距離までしか行けないんだ! その途中に七花さんを見つけたってことさ!」可愛い子見つけたら取り敢えず着いてくるんだ。ムファンさんと同レベだな。

「もしよければ、町まで連れていってあげるよ! アルイゴ、大丈夫だよね?」

「全く問題ありません」


ということで、一緒に行くことになった。










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