第16第 旅支度

「出発します」

とは言ったものの、旅支度を整えなくてはいけない。『創造』で作ればいいと思うかもしれないが、ムプイハさん曰く『魔法は魔力を消費するが、スキルは魔力の代わりに生命力を使う』だそうだ。確かに、デグチャレフを作った直後は倦怠感があった。まだ詳しい事がわからない以上、過度の使用は避けたい。幸い、お金はたくさんある。少々いいものを買おう。

という訳で、旅用品を扱っている店に来てみたのだが。

「どれがいい物なのかわかんねぇ...」早くも壁にぶち当たっていた。

俺は元々そんなにアウトドアな方ではない。サバゲーだってアウトドアと言えばアウトドアかもしれないが、キャンプなどに至ってはからっきしだ。寝袋一つとっても軽く五種類はある。選べねえ。

「こうなりゃコインでも投げて決めるか...?」本気でそう考え初めていたその時、

「よう! 誰かと思えば昇じゃねえか! ここらじゃ見ねえ格好のヤツがいるなと思って追いかけたんだが、まさかお前だったとはな!」ムファンさんに声をかけられた。見ねえ格好のヤツは取り敢えず追いかけるんだな...

「ああ、丁度良かった。ムファンさん、ちょっと聞きたい事が「おう! 言ってみな! 何でも知ってるぜ!」まだ俺が喋ってるんだぜ?

「実は、もうすぐこの町を出発するんですが、旅をするには何が必要かわからなくて...」

「なんだ、もう行っちまうのか... お前らは、『旅人』型なんだな」

「? なんです? それ」

「冒険者には大きく分けて二つあってな。町に住んでいてそこのギルドの依頼をこなすのが『拠点』型。そこらのギルドをまわっているのが『旅人』型だ。まあ、比率は半々ってとこだな。」なりたくてなったワケではないが、会う人にはこう言えばいいだろう。

「ああ、そういえば旅用品を探してるんだったな。それなら、俺の知り合いがやってる店がオススメだ。すぐそこだから、着いてきな」


ムファンさんにつられてやって来たのは、少し寂れた店だった。

「ここ、ホントに営業してるんですか?」

「さあな。もうすでに店主がコロッと逝っちまってるかもしれねぇ」ムファンさんは笑いながら言った。笑えねぇ。

立て付けの悪いドアを乱暴に開けながら、ムファンさんはドカドカと店内に入っていく。

「ジジイ! おいジジイ! 生きてるか?」ジジイておま。

「まったく... お前はいつ来てもうるさいのぉ...」店の奥からお爺さんの声がした。

「お、生きてた生きてた。客を連れて来てやったぞ! 感謝しろ!」

「相変わらず乱暴じゃのぉ。そのドアは引き戸じゃ。」立て付けが悪い訳じゃなかったのか... 

ふと店内を見渡してみる。一見散らかっているように見えるのだが、よくよく見ると何もかもが複雑なバランスで噛み合っている。どれだけ見ても飽きない光景だ。もしかするとこの人はただ者ではないのかもしれない。

「じゃあ、俺はこれで! 酒屋のツケがとてつもない事になってるから、二、三日ふらふらしなくちゃなんねえ。昇、七花、元気でな!」そう言うとムファンさんはとてつもない速度で走り去っていった。もう見えない。

そして取り残される俺と七花とお爺さん。

「...えっと、ここって、旅用品を扱っているお店でいいんですよね?」恐る恐る俺は聞いてみる。違ったらどうしよう。

「さよう。旅の事なら何でもござれの、ミハナ旅用品店じゃ。旅に使う物ならなんでも取り扱っとるぞ」どうやら、このお爺さんはミハナさんというらしい。

「旅は初めてなんですが、何か必要な物ってあります?」俺が聞くとミハナさんは

堰を切ったように喋りだした。

「旅に出るのなら、寝袋は確実に必要じゃな。あの棚に置いてある寝袋は魔力を使って夏は涼しく、冬は暖かく出来るスグレモノじゃ。その棚のランプもいいぞ。魔力を使って光らせられる上に、簡単な結界も張れる。低級の魔物は寄ってこれんよ。ああ、この棚のロープもよいな。魔力を流す事で自在に操る事が出来る。あと、このナイフは――」俺は半ばヤケクソで言った。

「全部、買います!」


次の日の朝。

旅に出るのなら朝がいいとのミハナさんのアドバイス通り、もう一泊してから出発することにした。

「ああ、出発するんですね。残念です...」あの時の入国審査官が名残惜しそうに言ってくる。そんなに気に入られてたのか。

「お世話になりました。ありがとうございます」

「はい、手続きは完了です。道中、お体にはお気をつけくださいね~」

入国審査官に見送られ、俺達は本格的に旅の第一歩を踏み出した。

















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