第11弾 アフターサービス
ギルドを出ると、もうすっかり暗くなっていた。そりゃそうだ。ここへ着いたときは夕方だったんだから。
「すっかり夜だな。早く教えてもらった宿屋に行かないと...」
辺りが暗いと、なんとなく不安な気持ちになり、自然に急ぎ足になる。七花もぴったりと俺の腕にくっついていて離れない。それは別にいいんだが、俺は"あること"を考えていた。
――そう、先程から腕に当たる柔らかな感触の事だ。
あえて例えるなら、マシュマロのような感じか? 沈みこむような柔らかさ、しかし跳ね返すような弾力がある。この感触は、いったい...?
ふと視線を感じて横を向くと、七花がジト目でこっちを見ていた。でも腕は離さないんだな。
「ど、どうした七花? 何か気になるもんでもあったか?」七花は何も言わず、ただぎゅ~と腕に体を押し付け、こう囁いてきた。
「わかってるよ、昇。続きは宿屋で、ね?」
チョットナニイッテルカワカラナイデスネー。
「チョットナニイッテルカワカラナイデスネー」思わず口に出た。
「知ってるよ、ムファンさんも言ってたでしょ? "そういうこと"しても大丈夫だって」
「なな、なんのことかな!? それより何でお前聞こえてるんだ!?」
「ふっ、スキル『絶対感覚』の前に敵なし! 横でナイショ話がおこなわれていると気付いた時には既に聴力を最大まで上げている!」今後コイツの前ではナイショ話は二度としねえ。
他愛ない話をしていた俺達だが、三歩進んだところで同時に止まった。
「! 昇、気付いた?」
「ああ、気付いた」俺は確実に聞こえるように大声を出す。
そして、建物の裏から数人の男たちが現れた。七花が警戒して俺の腕から体を離す。サヨナラ天国。
「へっ、バレていたようだな...」まあ、レベルのお陰ですが。『身体』のステータスが上がると聴力も上がるようだな。
「お前たちは、何者だ」俺は怖いのを押し殺して問う。交渉の余地が生まれるかもしれない。
「それは、答える義理もねぇなあ」ダメだなぁ。
「何が目的だ?」目的がわかれば、逃げる位は出来るかもしれない。
「目的? 決まってんだろ、金だよ金。お前らがギルドの買い取り屋で大量の金を貰ったのは知ってんだよ。その金置いてけ」
「ほう、なら何故買い取り屋を襲わない?」後ろがあいている。逃げるならそこだな。
「ダメなんだよ! 何でかわかんねぇけどあの買い取り屋の店員はものすごく強いんだよ! 前に仲間が五人がかりで強盗しようとして一瞬で返り討ちにされたね!」
七花とアイコンタクトをとる。まあ、ほぼ生まれた瞬間から一緒にいるんだ。これくらいの意志疎通は朝飯前。
「さあ、さっさと金を渡しやがれ!」
「そんなにこれが欲しいんなら、お望み通りくれてやるよ!」俺は金貨の袋を男達に投げつけた。そして、七花と繋いだ手を握りしめ、しっかりと目を瞑った。
何で目を瞑ったかって? それは、金貨の袋に『創造』で作った閃光手榴弾を付けているからさ!
このまま目を瞑っていれば、眩い閃光に目を焼かれた男達の隙を突いて逃げる事が出来る!
そして、閃光手榴弾は見事爆発しなかった。アレ? 不発?
「へ? くれるの? ありがとよ、じゃあ遠慮なく」喋っていた男が金貨の袋に手を伸ばし、つかみとろうとしたその瞬間、どこからともなく炎の矢が襲来し、男の親指と人差し指の間を突いた。
誰もの動きが止まった。そして、指の間を焼かれている事に今更気付いた男が、
「う、うわぁぁぁ! 襲われているぞぉぉぉ!」
と叫んだのを皮切りに、男達は一目散に逃げ出した。しかし炎の矢の追撃は止まらない。逃げる男達の横や頭上、時には顔のすぐ横を通り抜けていく。だが、絶対に当たらない。その事が、更に男達を恐怖の渦に巻き込んでゆく。すなわち、いつ当たるかわからないという状況に。
気が付けば、辺りには一人もいなくなっていた。
「今の、何だったんだ? まあ、襲われなくてよかったな。」そう、昇と七花には一本の野も飛んできていなかった。
「これが... アフターサービスです...」ふいに、横から声が聞こえた。一瞬で横を向いて身構えると、そこには買い取り屋のお姉さんがいた。まるで今まで闇を被っていたようだ。全然気付かなかった。
「アフターサービス、とは?」
「私は... お渡ししたお金が危険にさらされそうになったとき... その危険を払拭するというアフターサービスを行っています... これは、私のプライドです...まあ、24時間以内に限りますが...」なるほど。それで炎の矢が。
「ありがとうございます。助かりました」
「まだです... まだ終わっていません... 私が感知したところによると、その袋には爆発物が付いています...」あそれ俺です。
「なぜ爆発しないのですか?」
「それは... 私の魔法で爆発する前に戻したからです...」
「そうですか... なら、ちょっと目を瞑っていてくれますか?」
「?」不思議そうな顔をしながらも、目を瞑ってくれた。『創造』で閃光手榴弾の起爆スイッチを作成。しっかりと目を瞑ってスイッチを押す。七花忘れてた。
「!? 目が、目がぁぁぁ~」七花が某大佐のように悶えている。この様子なら無事起爆したようだ。七花、ゴメン...!
「もういいですよ」
「...そうですか... 光を使う爆弾ですか... 面白いですね...」ウケた。
「ありがとうございました。お陰で助かりました」
「いえいえ... じゃあ、私はこれで...」買い取り屋のお姉さんは闇に溶けるように消えていった。不思議な人だ。
「じゃ、行こうか」俺達は再び宿屋に向けて歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます