好き嫌いはともあれ、既知という安心感
合流が重なりブライアンとセシリア、シレット、私とアンジェリーナ、ソーサーの順で大通りに並んでいるわけだが、しばらくは嫌な沈黙が続いた。互いに挟み挟まれの状態だ、誰もがアクションを起こし辛いのだろう。そんな張りつめた空気を割ったのはシレットの一言だった。
「……まぁ遅かれ早かれだしな。ソーサー!」
「はーいよっと」
ソーサーが何かを投げてシレットに渡した。急に頭上に何かが通ったので結構焦ったが投げナイフの類ではなかったようで、シレットは鞘に収められた剣を握っていた。
剣の柄の部分をブライアンに向けながらシレットは、
「投げる手袋が無くて申し訳ないが、一騎打ちを望むぜ隊長さんよ」
こんなこと言われたら当然ブライアンはああ言うだろう。
そして実際ブライアンの返答は予想の通りだ。嘲笑という訳ではないが一度鼻で笑い、目が笑ってない笑みを浮かべながら、
「いいだろう、騎士崩れとはいえそう言われては断れん。だが場所は移させてもらう」
「ああいいとも」
張りつめた空気の中、シレットはブライアンの方へと歩いていく。
剣の間合いかという所にまで近づくとセシリアの方へ目をやり、
「その気色悪い髪……なんだか妙に老け込んだような気がするが大胆な真似に出たなセシリア。じき愚策だと分かるだろう、次はお前だ」
「ええ、その時が来ればね」
わざとらしく手を広げ、挑発するような態度をとるセシリア。腹立つ顔だ、素で腹立つタイプの人間が故意にそういった態度をとるとこうも人をイラつかせるのか。
あの所作にカッと来たのかイラついた声色でシレットは、
「失せろ。女子供はむこうでやってろ」
私達の方を指さしてセシリアへそう言い、その言葉を皮切りにセシリアは私達の方へ、ブライアンとシレットは逆方向へと歩を進めた。
見慣れた顔が近付いてくる。まず何を言い出すのだろう、一応は助けに来てくれたという事なのだろうか? であれば「まだ死んでないのか」とは言わないか、かといって「迷惑をかけた」とはこの人の口から出るとは想像もつかないな……。
そして案の定、セシリアの口から出た言葉は私の想像の外にある言葉だった。
「紅い髪の彼女は?」
私を気遣うでもなく貶めるでもなく、私以外のことを訊いてきた。この人らしいといえばこの人らしいか、この感覚も懐かしい。
「今どこにいるかは知りません」
謝りもしないのかと腹立たしくはあるが、今まで何度も味わった経験だ。傍に暗殺者がいる現状、余計な話もしてられなさそうなので私は訊かれた事に答えた。
「彼女は今のあなたよりも深刻な状況に身を置いてそう?」
答えを聞くやすぐに次の質問を飛ばしてきた。
パトリシアが今の私よりも深刻な状況かどうか、ね。詳しい事は私も分からないが暗殺に加担して人探し、なんて込み入った事情がありそうだし、今の私もピンチではあるけれどこうして助けは来てくれた。この場合は……。
「おそらくパトリシアの方が深刻です。奴らは暗殺者で、奴らに加担してまで何かやりたいことがあるようです」
私の答えにアンジェリーナは大きく驚いていた。そりゃそうだよね、知らない所で知り合いが暗殺に加担しているなんていきなり言われてはこうもなるだろう。
驚嘆の表情を浮かべるアンジェリーナとは相反し、セシリアは冷静な面持ちで一拍置いてから、
「分かった。ごめんなさいねアリア、貴方は後。まずはパトリシアさんの救出を先にしましょう」
私とアンジェリーナの方へ目をやり今後の予定を説明してきた。
とはいえだ……。
「話はおわった? おねーさん方」
問題はこいつだ。今まで不気味に黙り込んでいたが、ソーサーをなんとかしないと好きに行動をとれないだろう。
「アンジェリーナさん、頼めるかしら?」
「……はい」
「大丈夫、信じられないかもしれないけど説明したとおりだから誰も責めないわ。ごめんなさいね、それでも荷は重いでしょうけど」
「いえ大丈夫です。慣れてますから」
セシリアとアンジェリーナで会話が進んだ。会話から察するにこちらも戦闘が始まるのだろう。アンジェリーナはソーサーへ斧を構え、セシリアは私を引き起こして少し引いた位置に下がらせた。
肩を貸しているセシリアが私に語りかける。
「今はアンジェリーナさんを信じる他ないわ」
助けに来るにしても、一緒に連れてきたのが何でよりによって騎士でもないアンジェリーナなのか。三対二になったら、とか言っていたのに貴方は戦わないのか等色々訊きたいことはあったが、すぐにそんなことを訊いていられる空気でもなくなった。
ガキンッ――!
場に響く金属音。
それは戦いの火蓋が切って落とされたことを示していた。
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