大抵の場合冷静になってみれば活路は開けるものである

 長い独房での生活。

 誰とも話す事のなかった生活が長く続いたため、私の判断力は鈍ってしまった。

 そう考えるほかない。そうでなければ幻聴紛いのことなど起きないだろう。


 一旦冷静になって考えてみた結果、何から取り掛かるかを悩む必要はないという事に気付いた。

 人探し……聞き込み。

 三人同時に聞いて回ればいいだけの話だ。


 不安か、苛立ちか、現実逃避か。何がそうさせたのかは分からないが、なんだかとても無駄な事で悩んでいた気がする。

 そうと気付いた私は早速、街で聞き込みを――。


 する前に、図書館でこの時代の情報を集めていた。

 今は正常な判断が出来ていると思いたいね。

 こっちの方が重要だという判断が間違ってないとも思いたい。


 この世界で立ち回るにあたって、この世界の事を知っておく必要がある。

 聞き込みをするのはその後でもいい。私からしたら過去の事だし、この時代の世相を知るのに時間はかからない。


 図書館にある、世相を知れるものには粗方目を通した。

 察しの通り騎士団のC隊隊長はセシリアではなかったし、この時代の私が都に居ないという確証も持てた。周りは怪訝そうな目で見ていたな、「本当に内容分かっているのか?」とても言いたげな目で……。


 まさか貧民街のマリアの情報がここまで広まっているわけではないよな。

 字が読める貧民、あろうことか速読もできると来れば妙に映るか。いや考えすぎか。

 そうだとしても何一つ事実とは異なる。私の正体は貧民ではないし、速読をしているわけでもない。ただ思い出しているだけだ。


 よほど馬鹿げた記憶力をもっている者なら別だが、十年前の出来事をパッと思い出せと言われて思い出せるものなどいまい。だが思い出すきっかけがあるのなら話は別だ。

 図書館にはここ最近の新聞が置いてあった。それに目を通したら、連鎖的に今後の記事がどのようなものであったのかを思い出す事が出来た。


 一応当時も。この時代の私も新聞には目を通しているはずなので、なんとか繋がった。

 この時代の私は都にはいなかったので、その日の新聞がその日中に入ってきたわけではないが、読んでおいてよかったな……。


 脳の奥底にあった記憶を刺激したのはこの記事だ。

 二日前の、ものすごく魚が大漁に捕れたといった種の記事。これだけではなんてことのない記事だが、これの何日か後の記事が印象的だった。


 たしか、これの二日か三日後の記事には、どこかの魚屋が火事で全焼したと書かれていた気がする。火事に巻き込まれ、店主夫妻は死亡。大漁だったのがたたって、海の神の怒りに触れたのか、なんて書かれ方がされていたな。


 火災のことが書かれた記事はまだないので、まだ火事は起きていないのだろう。とはいえ、いつ起きるのかまでは明確には覚えていない。頼りにならない未来予知だ。


 だが遠いおぼろげな記憶では、今日あたりに火事は起きていたような気がする。

 未来予知もとい、記憶の真偽が正しいかどうかを確かめるために、私は魚屋がありそうな場所へ向かった。たしか、なんとかアンドなんとかって店名だったな、それを探そう。

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