嵐の前の――
独房――。
流石我が国。裕福なものだ、パトリシアとは別の牢に私はいた。
パトリシアがどこにいるのかは知らないが、まあ近くのどこかだろう。
牢に入れられた経験などないので、新鮮な気持ちだ。
経験がないからこそ、やろうとしないでも色々と分析をしてしまう。
暗いし、狭いし、それに……とても静かだ。
そもそも、騎士団本部に牢屋なんてあったんだな。元騎士である私の記憶にもなく。あまり頻繁に使われているわけでもなさそうな牢の状態を見るに、近くに人がいないのは見ずとも察する事が出来た。
ものを思うにはこの上ない時間だな。
どの道暇だ。この世界のセシリアが、本部へ戻ってくるまで私達はここを出られない。
元の世界のセシリアが生きていると知っている以上、この世界のセシリアがここへ戻ってこないという事はないだろう。ならば待つのみ。その時を待つのみだ。
独房内にあるベッドに私は寝転んだ。
寝心地が良いとも悪いともいえない感覚が、支給された服越しに背中へ伝わる。
だが、文句を言うつもりはない。むしろその逆だ。
全裸で森の中にいるより、衣食住に困らなくなっている現状の方がよっぽどいい。
残り物のようなメニューではあったが、食事が出たのには感謝せざるを得ない。味も悪くないし。
ひょっとしたら下手な宿よりも、いい暮らしが出来ているのかもしれない。独房とカプセルホテルには、大して差が無いんじゃないかなんて思えてきた。
「さーてと……」
これから何をするべきか、考えを纏めておかなければな……。
まず、目立たないようにしていなければならないか。
本当に過去へ来てしまったのなら、私達のやる事の何から何までもが歴史へ影響を及ぼすことになる。私達は、本来この場にはいないはずの人間だ。大きく歴史を変えないように立ち回らなければ……。
歴史を変えることができる、という考え方もできる。
だが、過去に起きた苦難は、なんだかんだでなんとかなるという事を私は知っている。
であれば、気にするべきなのは、過去ではなく、未来だ。
下手に欲を出して、この時代で『今の私』が死ねば本末転倒だ。
そんなのはごめんだ。なら大人しくこの時代のセシリアを待つさ。
さっさと元の時代に帰ろう。
というか帰らせてくれ。
まったく――あれほど嫌いだったあの人に、ここまで会いたいと思う事になるとはね……。妙な感覚に陥りながら、その日初めて、牢で寝るという経験を私はした。
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