第9話  保険勧誘営業もひらめき

 営業するところが無い。ただ歩いていると以前勤めていた頃の下請け建設会社の現場に足が向いていた。


(……なんか懐かしいな……) 



 風子は心の中で少し懐かしく思うと突然閃いた。それは風子の全身に血が回るように突如閃いたのだ。


(ここは……ひょっとして保険の営業にとって宝の山じゃないのかしら……?)

 

 風子の閃きは的外れなものでは無い。あらゆる建設関係の業者は危険な仕事に付いている。まず、保険は掛けるだろう。

 労災保険はあるが、それ以上に個人保険が頼りなので、個人的にいくつも保険をかけるはず。


(建築会社関係に営業をかければ……!!)


 風子はそう決断すると大胆にも建設会社関係一本にして勧誘周りすることにしたのである。

 ここで早速、最初に中竹工務店に就職していたことが役に立った。


 まず、関係の人の所に挨拶に行くと、話の中で、大手の建設会社、中竹工務店を辞めて現在は保険の仕事をしている、若い女性である事に興味を持ってくれる。また建設用語がわかるし、現場の話が分かる。

 これが保険の勧誘にものすごい効果を発揮する事になるのはすぐにわかった。風子は現場に行くとまず現場責任者や現場監督との人間関係を作る。自由に出入りできるようになるし、そこに携わる関係者を多く知る事になる。


 そこで、建設会社だけ回るのだから、資材の調達や融通の付け方も風子は簡単に的確に出来たのでみんなが何でもきいてくるようになった。


「風子さん、塗装屋、どこか良いとこないかな?」


 ある建設会社がそのように訪ねられれば


「ああ、知っているわよ!しっかりした所、頼んであげるわ」


 即座にそう返答する。そうすると相手の会社の人も


「有難う。じゃあ、お礼に保険会員を増やしてやるよ」


と、まあ、このような感じで人様が勧誘を率先してやってくれていた。


 風子の成績は急成長して、お金もどんどん貯まっていくので、すぐにヤスダのおばちゃんに追いついた。


 面白いようにたまっていくお金は一旦銀行に預ける。特に大きなお金は通知預金にする。信用が出来る。月末に預金すると銀行は喜んだ。銀行もそっと取引関係会社のノウハウを教えてくれていたから、また保険勧誘の土俵が広がる。

 

誠に良い時代であったと思う。


その頃の通帳名義はどうでも良かったし、三文判で預金通帳が何冊でも出来た。

風子は夜の接待などで行ったスナックの女性の源氏名を通帳に書いたものだ。通帳だけでも100冊はあった。

 まるで、「人のふんどしで相撲を取る」ものである。自分でおかしくなった。


 夫の内川は、相変わらず遊んでいた。


 風子の計画など知らず、何も言わない風子のご機嫌を取りながら上手に遊んでいるつもりなのである。風子は徹底的に知って知らないふりをした。


 内川は妻の風子の帰りが遅いのがかえって都合が良かったのでむしろ円満に日が過ぎていくようであった。内川はいくら遊んでも風子が帰宅する前に帰ればいいのだから。

 それほど、風子は仕事だと思うと遅くなっても徹底していた。休みの時など、風子がつかれて寝ていると、夫は朝早く子どもたちを公園など散歩に連れて行ったりした。

 

男は浮気をしていると優しくなるというがその代表的な事である。風子にとっては幸いなことであった。

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