第5話 最初の就職は大手の建設会社
自称、友達とビートルズのお蔭で高校を卒業できた風子は、運よくも大手の建設会社に就職した。
給料も申し分ない。普通の会社や商店に勤める人たちは三万円足らずだったのに、風子は五万円も貰っていた。
日本でも大手の中竹工務店の支店だから、田舎ではエリート気分である。
しかし、風子の最初の仕事は、例にもれず、お茶くみから電話番、簡単な記帳事務や雑用の類だ。当時の女性の仕事と言えばそのようなものであり、結婚と同時に退職というのが当たり前の流れであった時代である。
現在であれば考えられない事であるが、男性と女性では退職の年も異なっており、何かにつけて女性の立場が弱かった時代なのだ。
風子はそれでも、仕事を覚えるのが楽しくてたまらなかった。朝も一番先に職場に出て最後の後始末まできっちりやっていた。
多くの下請け会社や関連会社などの出入りが頻繁だった。
本当に面白い所で、今で云う闇取引の現場に遭遇したり、裏金つくり、政治献金の取引駆け引き等の用足しなど、何も知らないであろう風子が使わされたようだ。中々凄い時代であるがほんの数十年前の見えない日本の見えない部分であった。
だがそれが、風子に後々には、度胸にもなり用心することを全身で知るようになっていた。
少し慣れてくると、直接携わる、資材係になっていたので、建材関係も詳しくなりその流通が面白く感じられるようになった。
その他、大きな建設会社というのは、組織的にも間接的にもかかわる取引や、その他こもごもしたものまで何と多いのだろうと思った。
また、1年もすると、そこに来る下手な営業マンより、風子の一言で営業を左右するまでになり、それが、また面白かった。
風子の気に行った取引関係には、随分営業を伸ばしてやったものである。
建設会社は何人かの女性事務員を除いて、ほとんどが男性であり、まさに男社会である。
男性が多い職場。高校の時のクラスも男性ばかりで慣れているはずであるが、社会人と高校生とでは、随分違う雰囲気がそこにあった。
その中で、一級建築士の内川治夫が目に付いた。何故目に付いたかと云うと、特に外部からの女性の電話が頻繁にかかり、それに優しくこたえている内川は素敵に見えたのである。
女性に人気があるという男性は、容姿は勿論、自然に女性に優しいところがある。
風子は強い女性であるが、優しさに弱い面があり、内川の優しさを見ているとファザーコンプレックスの風子が心を寄せるのも時間の問題であった。
そして、風子の人の心をつかむ天性的な感の良さと明るさ雄弁さがあった。
しかし、聞くところによると、内川に憧れる女性は両手が足りないくらいいるという噂だったが、それを闘志にしていた風子がそこにいた。
二人が似ていることは、お互いにお互いを知る時間も無いくらい働いていた。
そして、認め合うところまで時間はかからなかった。二人とも仕事人と云うことで、
特別にデートなどしなくても、朝早く仕事場に行くのが二人きりになれる時間だった。
早朝デートともいうのだろうか?
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