第39話 瞑想する魔王

 ここは女の子だらけの女子校だが、職員用に男子トイレもある。

 人気のない個室は一人になるのに都合が良い。俺は現実世界でそうするようにトイレの個室にこもって時間を潰すことにした。

 そして、座って考えた。小羽がなぜあのような行動に出たのかを。あいつは本気でこの魔王と事を構えるつもりなのだろうか。

 小羽はいつでも本気だった。現実世界で俺の家に押しかけてきた時でも、この世界の王都で戦った時でも。

 学校で会った時もあいつは本気のダッシュでぶつかってきやがった。小学生に手加減という概念は無いらしい。

 考えていると時間がすぐに経った。考える時間が短いな。小羽は一時間と言ったが、ここへ来るまでの時間とこれから行くまでの時間も加味しないといけないので、実際ここで潰せる時間は一時間も無かった。


「もう少し伸ばしても良かったかもな。出来れば永遠に」


 だが、どのみち行かなければならない。俺は重い腰を上げることにする。


「では、行くとするか。この魔王の力を見せつけにな!」


 そして、俺は自らを鼓舞するように瞑想を終えた魔王の顔をしてトイレから廊下へ出て、そこでばったりと知っている人と出くわした。


「魔王様! そこへ居られたのですか!」

「フィリス! まさか俺を探していたのか?」


 クールで理知的な顔をした彼女はフェリアの姉のフィリスだ。ここでは生徒会長をしている。いきなり現れて驚かせたらしい。

 彼女はびっくりした顔をしていたが、すぐに元の冷静なたたずまいを取り戻して言った。


「はい……いえ、勇者と決闘される事になったそうですね。学校では騒ぎになって授業が始められない状態になっていますよ」

「それは済まない。迷惑を掛けているな」


 どうやら真面目な彼女が授業をさぼっているというわけではないようだ。それで騒ぎの元凶である俺を探していたのだろう。

 それにしても授業が始めらないほどの騒ぎとは、魔王と勇者が決闘することになったのがそれほど大事なのだろうか。

 うん、考えてみれば大事だな。世界の命運が掛かりそうなほどに。みんな俺が勇者に負けて王都を追い出される事になった経緯も知っているしな。

 俺達はもっとお互いの身分を弁えるべきかもしれない。

 俺が考えていると、フィリスは静かに頭を振って俺を見つめてきた。


「いえ、決闘はいいのですが……」

「なんだ?」


 女の子の理知的な瞳に見つめられて照れてしまう。考えてみればこいつ俺より年下なんだよな。それに王都では俺の部下だった。俺は魔王としてしっかりしなければならない。

 俺が何とか余裕のある笑みを見せるとフィリスは満足したように頷いた。


「フェリアがあなたの事を心配していたので……でも、どうやら心配することは無かったようですね」

「無論だ。俺を誰だと思っている?」

「魔王様」

「いかにも。魔王であるこの俺が勇者も委員長も容易くねじ伏せて見せよう」

「期待しております」


 フィリスと話していると王都で魔王をしていた頃を思いだすようだった。俺は自信を持って立ち向かわなければならない。再びあの勇者に。


「時間が無い。行くぞ」

「はい」


 そして、俺はフィリスを伴って小羽の待つ校舎前の運動場へと向かった。

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