第37話 小羽と公園で相談する

 家までみんなを連れていくとまた中でバトルをされる恐れがあるので、俺はひとまず小羽を連れて途中に見えた近所の公園に入ることにした。ヒナミ達と文乃ちゃんも後からついてくる。

 ここは人気のない公園だ。時間の都合もあるのだろうが、今は他に遊んでいる人の姿はない。

 なんか以前に文乃と相談した時の事を思いだすな。と思ったら同じ公園だった。

 あの時、文乃の座っていたブランコに今度は小羽が座って漕ぎ始めた。あの時の文乃は小羽が行方不明になって悲しんでいたが、今の小羽は元気に楽しんでいた。

 勇者と魔王の立場の違いがどうあれ、彼女が帰ってこれたのは良かったと思う。

 このまま小学生らしく遊んでいればいいのだが、小羽が顔を上げて話しかけてきた。


「ねえ、向こうの世界でやろうよ」


 どうやら小羽は向こうの世界へ行く手段を持っていないらしい。まあ、俺だってヒナミ達の召喚術が無ければこっちから向こうへは行けないのだが。

 こっちの世界の俺は非力である。異世界のスキルを使えないのは小羽も同じようだ。だが、奴は元気さだけはあるから質が悪い。

 俺は呑気にブランコを漕いでいる小学生の誘いに対し、言ってやる事にした。

 勇者を相手に遠慮はいらない。魔王として言ってやる。


「あいにくと今の俺にはやらねばならん事があるのでな。お前と遊んでいる暇はないのだ」

「やる事?」


 不思議そうに首を傾げる小羽。俺が小学生にどう分かりやすく説明しようかなと考えていると、横からヒナミ達が口を出してきた。


「魔王様は委員長から挑戦を受けているの」

「今はそれをやらないといけないから」

「暇はない」

「それって?」

「友達……」

「はい、お前達はあっちに行ってような」


 ヒナミ達がいると余計な事を喋りそうだ。俺は二人だけで話したいからあっちに行っているように言うと、渋々と離れてくれた。

 ヒナミ達と文乃ちゃんが離れ、俺は勇者と1対1の会談に臨むことにした。それには理由がある。

 こいつなら友達がいそうだと思ったからだ。友達の作り方は友達のいそうな奴に訊くしかない。


「お前、友達は多い方か?」

「うん、学校にいっぱいいるよ」

「そうか羨ましいかぎりだな」


 ビンゴだ。ここはさりげなく聞き出す事にしよう。どう訊ねるか。

 考えていると、小羽が嬉しそうにブランコのスピードを上げて言ってきた。

 

「みんなを連れてこようか?」

「いや、連れてこなくていい。向こうの世界の戦いに弱者を巻き込むべきではないからな」

「そうだね。実はあたしもそう思ってたんだ」

「ふん、俺達気が合うのかもな」


 さて、こいつからどうやって友達の作り方を聞き出そう。適当な受け答えをしながら考えたが思いつかない。

 相手は小学生だ。事案で通報される事と元気が良すぎる事を除けば俺の恐れる相手ではない。

 ヒナミ達も遠くから見ているし、ここはもう直球で行く事にした。


「お前はどうやって友達を作っている?」


 ここで友達もいないの? と蔑まれたら困るが、小羽はそんないじわるな笑いはしなかった。さすがは勇者だ。正々堂々としているな。聖女と呼ぶ奴がいるのも頷けるというものだ。


「一緒に遊べばいいよ。そしたら友達になれるの」

「一緒に遊ぶか……」


 それが出来れば苦労はありません。俺は学校での一コマを思いだす。


『外でサッカーやろうぜ』

『おお、やろう』


 友達同士誘い合って教室を出て行くクラスメイト達。誰にも声を掛けられることなく寝たふりをする俺。俺にはサッカーをするスキルもありません。

 どこに友達になれる要素があると? 冗談もたいがいにして欲しいわ。

 俺は気が付くとつい小学生の女の子を相手にムキになって叫んでいた。


「そんなことで友達ができたら苦労はないんだよ!」

「お兄ちゃん、友達を作りたいんだ」

「あ、新たな魔王軍を結成したくてな!」


 俺はとっさに誤魔化す。冷静になると何を馬鹿な事を叫んでいるんだと思ってしまった。

 友達を作りたいと願うあまりちょっと暴走してしまったのかもしれない。反省しよう。

 ブランコを漕いでいた小羽の健康的な足が止まった。彼女はそのブランコから身軽に飛び降りて着地する。

 そして、明るい笑顔を向けて言ってきた。


「じゃあ、行こうか。向こうの世界へ」

「行って何をするつもりだ? お前の相手をしている暇は無いと言ったはずだが」

「新たな魔王軍を結成するのを手伝ってあげる。それで一緒に遊べるんだよね」

「敵に塩を送ろうというわけか。いいだろう、ここはお前の口車に乗ってやろうではないか」


 俺は助かったと思いながら、小羽の提案を飲み込むことにした。

 ここで拒んでもどのみち友達が出来なければ俺はみんなから軽蔑されて追放されるのだから。

 その為には勇者の手だって借りてやろう。

 小学生の女の子を前にして、俺はそう思うのだった。

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