第35話 学校の友達
校門で会ったクラスメイト達について廊下を歩いていくヒナミ達。俺はその後をついていく。
最後尾で誰にも見られていないのを良い事にちょっと魔王として堂々としてみる。
いきなりセレトが振り向いてきてドキッとした。俺が気にせず前を向くように手で指示してやると、セレトはまた前を向いて離されそうになったヒナミの傍にくっついた。
ふう、焦ったぜ。無理はよそう。
そうして教室に着いた俺達。そこにいたクラスメイト達は喜んで吉田チルドレンを迎えた。みんなに囲まれる三人。
「吉田チルドレンがまた来たぞ」
「吉田君の友達を知りたくて来たんだって。健気よね」
「ならば教えてやらねばならんな」
「俺達、友達だもんな」
朝からわいわいと賑やかになる教室。
だから、吉田チルドレンって何なんだよ。
「ふう」
離れた場所から少し見守った俺は一息ついてから自分の席に座った。
チルドレンは囲まれているが俺は一人だ。このまま授業が始まるのを待とうと思っていたら、クラスメイト達の一部がこっちにもやってきやがった。
「なあ、吉田。ヒナミちゃん達に俺達の事も紹介してくれよ」
「なぜ俺が……しなければならないんです?」
「あの子達、知らない人達に囲まれて緊張しているみたいなの。敵意は無いって教えてやって」
(仕方ないな)
俺は気が進まなかったが三人が困っているのが人垣の間から確かに見えたので行ってやる事にした。
あいつらも俺と一緒でコミュ症だもんな。助けてやらねばなるまい。
どう言おうかなと考えつつ近づくとヒナミがすがるような目を向けてきた。
「まお……吉田さん!」
「うん、吉田さんな」
危ねえ、ヒナミが魔王と言いかけた。あいつ相当テンパってるな。俺は落ち着くように合図してから言ってやる。
「ヒナミ、怖がることはない。こいつらは俺のその……友達だからな」
「友達!」
「魔王様の……!」
「友達!」
うぐっ、フェリアの奴どさぐさに紛れて魔王と呼びやがった。これは後で言い聞かせておかねばな。
幸いにも周りが賑やかだったのでフェリアのくだらん呟きは聞かれなかったようだ。
クラスメイト達は調子にのって言った。
「そう、俺達は友達」
「だから何も怖くない」
「自分の部屋のようにくつろいで行ってね」
「はい!」
三人はみんなに歓迎され、緊張のほぐれてきた三人も和やかに応対が出来るようになってきた。
やれやれ、みんな犬が好きだよな。邪魔な俺はぼろを出さないうちに自分の席に戻るとしましょうかね。
三人が向こうの世界の事を話さないかふと気になったが、前に勇者がいるから余計な話は禁止だと言いつけていたし、ここは三人の賢さを信用する事にした。
それにしてもクラスメイト達はヒナミ達の何をあんなに気に行ったのだろうか。
まあ、俺も離せと言われても離すつもりは無いけどな。
それは迷い込んできた子犬を保護した感覚に近いのかもしれなかった。
やがてチャイムが鳴って朝一番のホームルームが始まる。名残惜しそうに自分の席に戻っていく生徒達。
俺は先生が来たらヒナミ達は帰らされるだろうと思っていたのだが、生徒達が教壇の前に集まって何やら先生と話をした。そして、ヒナミ達は何と授業を見学していく事になった。
いかなる口車を使ったのか。リア充の凄さに舌を巻く俺。
男子生徒が謎のウインクを送ってきたが三人はやらんからな。俺は断固とした意志を持って席に構える。
そして、ヒナミ達の見守る中での授業が始まった。
キーンコーンカーンコーン
そして、何事も無く今日の授業が終わった。ふう、疲れたぜ。よっこいしょ。
何か途中からはヒナミ達に見られているとか意識する事が無かったな。
それは三人が休み時間はずっとクラスメイト達に囲まれていて俺がする事が無かったせいもあるだろうし、午後の授業にうつらうつらと眠そうにしていたからかもしれない。
退屈な午後の授業はただでさえ眠くなるし、二足の草鞋だもんな。こいつらが悪いわけではない。俺も同じ立場を経験していたから分かる。
後ろに用意された席で授業から解放されて背伸びしている三人にクラスメイト達が別れの挨拶を送っていく。
「今日は楽しかったよ」
「またおいでねー」
「はい、また来ます」
おい、また来てどうするというんだヒナミさんや。
別れ際に挨拶されるのは俺には経験が無いな。向こうの世界でのあいつらもされてなかったように思える。
ともあれ、今日一日は無事に終わった。三人も友達というものが分かった事だろう。俺は人垣の外にいたから詳しくは分からないがな。
さて、俺も三人に声を掛けて一緒に帰ろうと腰を浮かしかけるが、三人の方から先にやってきた。
三人はニコニコとして楽しそう。学校が楽しかったようで何よりだ。
「友達の事は分かったか?」
「はい!」
「何となくですが……」
「分かった気がします」
ん、これは100パー分かったという顔ではないな。まあ、そんな簡単に分かるようなら苦労はないか。
俺は鞄を持って立ち上がる。
「じゃあ、帰るか」
「はい!」
俺は三人を連れて教室を出る。「またねー」と手を振ってくるクラスメイトがうっとうしい。
俺はこれで今日の用事は終わったと思っていた。だが、俺達は気づいていなかった。
俺達の終生のライバルである奴が、虎視眈々とこの学校へと忍び寄ろうとしていたことに。
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