第34話 学校に入ろう
玄関を出ていつもの外に広がる道路の景色。ここは現実世界。良い天気だ。
朝から女の子を三人も連れて学校に向かう俺。まるでハーレム物の主人公になったような気分である……などと思考逃避している場合ではないっ!
この子達を連れてても子供達を引率しているだけにしか思えません。彼女なんてどこにいんの。空想の動物ですか。ハーレムなんてここにはありませんよ。
いや、問題はこの子達のスタイルや背丈や年齢の事ではなく、さっきも言った通り(誰に言ったというのだ? 神か? 状況がよくなるようなら祈りたい))学校は関係者以外は立ち入り禁止なのだ。当然ながらこの子達も連れて入るわけにはいかない。
だが、彼女達は喜んでいる。足取りを弾ませるほどに。
学校なんて何が楽しいのか分からないが、断らなければならない。だが、喜ぶ少女達に言いだせない。
前は勝手に入ってきちゃったけど(のら犬が学校に入ってくることはあっても)、本来は連れて入るわけにはいかないのだ。(飼い犬を学校に連れてくる奴はいない)
これ前も言ったよな。思考が堂々巡りしているぞ。いかんいかん。
俺がどうしようと考えていると見覚えのある校門。学校に着きました。
学校近すぎい!
青少年が叫びたい衝動をこらえる。
これはもちろん学校が本当に凄く近い場所にあるわけではなくて、俺が逃げたい考えに深く没頭していたからすぐに着いたように感じるだけだ。
ヒナミ達は俺が考えに耽ることがあるのは知っていたので魔王の瞑想を邪魔してくる事はなかった。
三人はとても嬉しそうに学校を見つめている。俺が踏み込まないので三人が足を進めることもなかった。
生徒達が入っていく。今日は休みだったわ作戦は通用しない。
ついにこの時が来てしまった。みんなの中で俺だけが困っている。
「魔王様。いえ、ここでは吉田さん。着きましたね」
「ここで友達になる手がかりを掴んで」
「委員長に復讐する!」
三人はノリノリ。うん、やる気があって結構なことだね。こいつら学校に来て何でこんなに喜んでるんだろう。
不思議でたまらないが、俺は断らなければならない。
やる気がある彼女達に部外者は帰れと言わなければならないのだ。辛い。
俺は校門前で立ち止まってこの子達にどう帰るように伝えようと考えていた。三人はそれを魔王が作戦を考えていると思ったようだ。俺の答えを待っていた。
そんな期待の目で見られても困る。そして、俺が考えている間にさらに困った事態が勃発した。
それは全く予期せぬ方向。学校を見つめる俺の視界の外からやってきた。
いつもならさっと校門を素通りして誰にも声を掛けられることなく自分の教室まで行って席に座る俺だったが、今日はここで立ち止まってさらに可愛い連れがいたので話しかけてくる奴らがいたのだ。
「おや、いつかの吉田の子供達じゃないか」
「まあ、可愛い。吉田チルドレンがまた来たのね」
げえっ、クラスメイト。誰が吉田チルドレンか。
そう、現れた奴らこそ俺のクラスメイト。だが、友達にあらず。俺はこいつらと喋ったことがないし、名前も知らないからな。
何で向こうだけ俺の名前を知っているのか不思議に思う。付き合い無いのにな。
だが、なぜ奴らが話しかけてきたのか理由は分かる。今日はヒナミ達が一緒にいたからだ。俺一人だったら空気のように素通りしていただろう。
可愛い奴らがいたら話しかけずにはいられまい。俺なら話しかけられないが。
俺はまずいことになったと思った。ヒナミ達が見つかったのもまずいが、今日の彼女達は友達を知る為にここに来ている。もしその話をここでされたら俺に友達がいないことがバレてしまうぞ。
俺は過去最大級に困っていたが、ヒナミとフェリアとセレトはクラスメイト達(友達にあらず)と向かい合って立っていたので俺が過去最大級に戸惑っていたのに気が付かなかった。
おかげでジェスチャーで合図することも出来なかったのだが。
三人の中でヒナミが部長として礼儀正しく挨拶して自分達が来た目的をただのクラスメイト達に伝えた。
「今日は吉田さんの友達の事を知りたくてここへ来たんです」
ヒナミは利口な子だ。前に俺がここでは魔王と呼ぶのは禁止だと言いつけた事をきちんと覚えていた。クラスメイト達は友達? こいつの? とちょっと怪訝そうな顔をしたが、俺みたいな空気野郎の事なんかよりもヒナミ達と親しくなる事を選んだようだ。
俺の曇りない目には奴らは下心丸出しにしか見えない応対をした。
「それなら早く教室に来なよ」
「友達みんなが待ってるわよ」
「わーい」
「やりました」
「これで」
喜んでついていく三人組。ここで「おい、いいのか? こいつらを入れても」と言えないのが俺がコミュ症である所以である。
ヒナミ達は喜んでいるし、ここは見送ってやろう。って、俺も教室に行くんだよ。
俺は犬を学校に入れた責任はこのクラスメイト達に取ってもらおうと決めて、小走りでみんなの後をついていくのだった。
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