第31話 委員長の念押しと三人の決心
そして、午前中の授業が全て終わって楽しいお昼休みがやってきました。
……って、何も楽しい事なんてねえよ。どうやって友達を作ろう。ずっと悩んで考えている俺だった。
こんなつまらん事は投げ出して逃げてしまえればいいのだが、魔王である俺は逃げるわけにはいかない。現実世界のぼっちの俺と違ってみんなに期待されているからな。
有効な手立てが見つけられないまま、少し一人で考えたいのだ魔王の瞑想を邪魔しないでくれとヒナミ達に目線で伝えて下がらせた俺は一人でゆっくりとお弁当を机の上に出すことに。
別に貫禄を出そうとしているわけではないよ。考えながらやっているから行動が遅くなっているだけだ。
教室は何か落ち着かない。現実世界でやっていたようにトイレにこもって食べようかと思ったところで声を掛けてきた少女がいた。
「あら、一人でお弁当を食べようなんて。まだ友達は出来ませんこと?」
見下してくる偉そうな態度。奴こそ諸悪の根源、委員長だ。現実世界の俺だったら君子危うきに近寄らずと逃げだすところだが、ここでの俺は魔王なので不敵に笑って見返すことにする。
「一人で静かに食べたかったのでな。ヒナミ達には席を外してもらったのだ。委員長、お前は何を焦っている?」
「は? わ、わたしが焦っているって?」
適当に言っただけなのだが図星だったようだ。俺は魔王の威厳に乗ってさらに言ってやることにする。現実の非力な俺だったら出来ないパワープレイ、力押しというやつだ。
相手が眼鏡を掛けた秀才タイプの真面目君なら通じなかったかもしれないが、しょせんは小者の委員長。国王や生徒会長を相手取った俺の敵では無いようだ。
ちょっと自信は無いがここは自信を持って言う事にする。何せ俺は魔王なのだから。
「勝負はまだ始まったばかりだ。今ならまだ無かったことにして止めてもいいのだぞ。こんな下らん茶番はな」
「茶番ですって!?」
わざとくだらない茶番だと指摘してやることでこんな子供じみた無駄な遊びは止めようと相手から言ってくれることを願ったが、委員長は引き下がらなかった。
口元を引きつらせながらも彼女は自分の意見を押し通した。
「たいした自信がおありのようね。では、期限を儲けましょう。今月中です。今月中にこれを達成できればあなたの勝ち。出来なければわたしの勝ちです」
「今月か」
俺は頭にカレンダーを思い浮かべてみる。まだ月は代わったばかりで4週間近くあったな。あまり遅くまで引っ張るのもあれだし、これが良い区切りだと委員長は判断したのだろう。悪くは無い。
俺は頷いた。どのみち魔王である俺には挑戦を受けて立って容易く踏みにじるしか道は無いのだから。
「いいだろう。お前の挑戦を受けようではないか。今月中でこの茶番劇を終わらせるとしよう」
「言いきりましたね、約束しましたからね」
委員長は念を押すように言うともうこの場所にはいたくないとばかりに足早に去っていった。
そんな逃げるようにいなくならなくても友達にぐらいなってあげてもいいのにとちょっと思ったのは内緒だ。
彼女は教室で友達と喋るのかと思っていたら弁当を持って教室を出ていった。庭で食べるのだろうか。そういう人もいる。
ていうかここではそういう人の方が多い。みんな外に友達が多いアウトドア派なようで何よりだ。インドア派はどうやって友達を作ればいいのでしょう。
委員長の姿が見えなくなって少し経ったタイミングでヒナミとフェリアとセレトがやってきた。
「魔王様、さっき小耳に挟んだんですけど、今月中にこのクラスのみんなと友達になるんですか?」
「ああ、聞こえていたのか?」
「はい、聞いていましたから」
彼女達もインドア派だ。ナカーマなどと和んでいる場合では無いがちょっと安らぐ。
「やれやれ、お前達の耳は誤魔化せんな。だが、今月中なら余裕であろう?」
「でも、今月ってあと一週間もありませんよ」
「え……?」
「今日がこの日で月末がここ」
セレトがわざわざカレンダーを指して教えてくれた。
うそーん。言いそうになった言葉を俺は慌てて飲み込んで不敵に笑って見せた。ちょっとぎこちなかったかもしれない。隙を突かれるようにヒナミに反撃された。
「魔王様、まさか向こうの世界の今月と間違えたんじゃ……」
「まさかそんなはずがないだろう。だからこれが余裕だというのだ。だが、少し急ぐ必要はありそうだな。委員長もせっかちな奴だ」
せいぜい強がって見せる俺だった。
授業が終わって放課後になった。今日はこれぐらいにしておいてやろうとばかりに余裕のある態度を取る俺。
日は少なくともまだ月末ではないので余裕はあるはずだ。夏休みの宿題を溜め込んだ小学生でもこの時期にはまだ余裕があるだろう。
俺は宿題を溜めた事は無いので分からないけどな。何せ休みに遊ぶ友達のいない俺には勉強が友達だったから。
悲しくなる事を考えるのはよそう。俺は自分に落ち着くように言い聞かせながら自分の世界に帰ることにした。
魔王としての力を使えるこの世界でなら俺はヒナミ達の召喚術に頼らなくても自分の意思で帰還できる。
最初は慣れなかったが、段々とこの世界でのみ扱えるスキルの使い方にも慣れてきた。
そして、ヒナミ達と別れて帰ってきた俺はたいして時間も経ってないのに懐かしさを感じる自分の部屋の布団にダイブするのだった。
その時の俺は俺は知らなかった。向こうの世界に残したヒナミ達が自分達の意思で行動しようとしていたことに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます