第30話 考える魔王

 授業が終わった休み時間。教室が生徒達の雑談で賑わうのは現実世界と同じ、誰も声を掛けてこないのも現実世界と同じである。

 さて、どうやって友達作ろうと俺が考えているといつもの明るい人懐こい顔をして召喚部の三人がやってきた。

 実はこれも現実世界と同じだったりする。こいつらがリアルの学校に現れた時は誤魔化すのに大変だったなと考えに耽っている時間は俺にはあまり無い。

 ヒナミとフェリアとセレトはとてもこのクラスに友達がいないとは思えない元気さで俺に話しかけてきた。


「あたしにはやっぱりよく分からないんですけど、魔王様なら友達を作るぐらい余裕ですよね」

「もちろんだ」


 部長のヒナミは明るく元気だ。真面目で家庭的で頭も良い彼女なら友達どころか恋人がいても不思議ではないが、召喚部の部長と言うアングラな立場が友達を遠ざけるのだろうか。

 俺にはよく分からないが、このクラスの連中は見る目が無いとは思う。あまり人気が出ても遠い存在になりそうで困る気はするが。

 そんなヒナミの隣からフェリアが持ち前のおしゃまさと好奇心を発揮してはきはきとして話しかけてきた。


「それで魔王様はまずは誰を友達に迎え入れるんですか? 出来ればわたし達の邪魔にならない奴がいいんですが」

「友達……邪魔にならない奴ね……」


 フェリアは権力者である生徒会長フィリスの妹だ。その彼女の立場でも友達を作れないのだろうか。

 生徒会とは仲が悪そうだったからそんな立場が友達を遠ざけるのかもしれない。召喚部が悪いわけでは無いと思うが。

 俺は教室を見回すが声を掛けられそうな人がいない。別に邪魔にならない奴じゃなくても友達になれそうな人なら誰でもいいのだが……それがハードル高いんだよな。

 そうしていると不安を感じ取ったのか二人よりは控えめだが決して消極的では無いセレトが話しかけてきた。


「魔王様、まさか友達……」

「皆まで言うな。せいては事をしそんじるというだろう。俺はより完璧なチャンスを探しているのだ」

「より完璧なチャンス?」


 セレト先生が不思議そうな顔をしておられる。俺は言ってやる。


「そうだ、ただ友達を作るだけでは味気ない勝利となるだろう。俺はよりあの委員長をギャフンと言わせる結果を探しているのだ」

「おお、あの委員長をギャフンと」


 セレトの瞳が星のように輝いた。ハードルを上げてしまった気がするが、今はこの場を誤魔化せればよしとしよう。

 俺が安心したところで次の授業の始まるチャイムが鳴った。


「魔王様、それでは」

「うむ、行くがよい」


 真面目な生徒達はそれぞれに自分の席に戻っていった。

 問題は何も解決してはいない。どうしよう。頭を悩ませる俺だった。




 俺は真面目に授業を聞き逃さないように受けていたが、先生が友達の作り方を教えてくれる事は無かった。そりゃそうだ。現実世界でも友達の作り方を教えてくれる先生はいなかった。

 委員長の件が無ければ俺も考える必要は無かったかもしれない。勉強は一人でも出来るもの。

 そうして考えていると授業の終わるチャイムはすぐに鳴った。もっと長くてもいいよ授業時間と思ったのは初めてかもしれない。

 再び生徒達の雑談で賑やかになる教室。みんな友達がいるのに何で俺にはいないんだろう。考えても栓無い事。

 このクラスには女子しかいないので姦しい。せめて男子がいれば俺と友達になれるのになー。

 ごめんなさい、嘘つきました。男子がいても俺に友達なんて作れません。

 どうしようかと途方に暮れていると、ヒナミとフェリアとセレトがまたやってきた。

 俺は悩むのを止めて堂々とした魔王の態度を取ってみせる。魔王の召喚に成功したと喜んでいる子供達を失望させたくないからね。俺って大人。


「魔王様、まだ友達を御作りにならないんですか?」


 ヒナミは早く友達ができる現場を見たくてうずうずしているようだ。さすがは研究熱心な部長である。彼女はいい学者になれるだろう。


「お邪魔になるといけないと思い少し黙っていたのですが」


 その隣からフェリアが少しトーンを落とした声で話しかけてくる。生徒会長の妹である彼女は部でもナンバー2の地位を受け入れているようだ。ボスの妹である立場が心地いいのかもしれない。


「早くあの委員長をギャフンと言わせてやりたい」


 セレトさんは好戦的。日頃目立たない分、言う時は言いたい立場なのだろう。

 見ると委員長が勝ち誇った顔をしているのが見えた。好戦的でなくともセレトの言い分も伺える。

 俺も出来れば早く解決してやりたいところだったが、友達作れって言われてもな……

 俺は愚問と思いつつも近くで顔を寄せ合う仲間の三人に訊ねることにした。


「お前達は作らないのか? その……友達とやらを」

「あたし達は別に……部の活動だけ続けられれば」

「お姉だけでも面倒なのに友達なんていりませんて」

「あいつらがいてもうるさいだけ」

「ふむ、そうか。お前達の言い分は分かった」


 駄目だ、こいつら。早く何とかしてやらないと。

 俺はこいつらに自分のような陰キャになって欲しくないと手立てを考えようとするのだが思い浮かばない。

 そもそもそれを今考えているのだし、助けになれそうにない。

 まあ、陰キャ同士だからこそ俺なんかと気が合うのだろうし、委員長も勝ち誇ってるのかもしれないが。

 俺は少し考えて言う事にした。


「これは俺の受けた挑戦だが、お前達への挑戦でもある。一緒に考えてくれると嬉しい」

「魔王様にあたし達の知恵が必要なのですか?」

「ああ、お前達が研究熱心で頭が良い事を俺はよく知っているからな」

「魔王様……」


 ヒナミは少し照れている。褒められる事に慣れていないのだろうか。もっと褒めてやってもいいかもしれない。

 ヒナミの話が終わったタイミングでフェリアが話しかけてくる。


「魔王様、何か策は無いのですか?」

「ある……が生半可な策ではあの委員長には通じないだろう。屁理屈でごねられないようにより盤石にせねばな」


 嘘です。本当はありません。だが、魔王は余裕を見せなければいけない悲しい生き物なのだ。

 フェリアは信じた。


「分かりました。わたし達も考えてみます」

「あの委員長、許すまじ」


 セレトが戦意を燃やしておられる。こっちに向かないようにそっとしておこう。

 お互いに確認しあって頷き合う三人。俺はこいつらに友達がいないのはまずいと思っていたのだが、この三人は三人でいればいいのかもしれない。

 友達とは奥が深いものだ。語れるほど俺が詳しいわけではないが。


「考えるのもいいが、所詮は委員長の言った戯言だ。あまり無理はせず、お前達の生活を大事にしろ」

「はい、魔王様」


 適当な事を言っているうちにチャイムが鳴った。


「ほら、席に戻れ。今は授業の時間だからな」

「はい」

「それではまた」

「後ほど」


 そして、席に戻っていく三人をまた見送る俺だった。

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