委員長の挑戦
第29話 委員長の挑戦
異世界にある煌びやかな王都から外れた自然の豊かな辺境に建つ学校。そこが魔王として召喚された俺の通っている学校だ。
一時は王都に居を構えたこともある俺達だったが、勇者小羽に敗れた事を機に再びここに戻ってきていた。
自分に足りないと実感したこの世界の知識を学ぶ為に俺はこの学校に通う事を決め、入学試験を突破した。
ここは女子校らしく生徒は女の子ばかりで健全な男子である俺は居心地がいいとは言えなかったが、どうやら俺は召喚部の三人が召喚した召喚獣だと思われているらしく、俺の事を男だといった軽蔑の視線で見る生徒はいなかった。
それでも途中から加わった生徒には違いないので遠巻きにされている感じはあったが、それも慣れの問題だろうか。
俺には友達をどう作ればいいのかなんて分からないし、相手にとってもそれは同じなのかもしれない。
何にしても思うことはいろいろあれど、俺を召喚したヒナミ達の手前、俺は威厳のある魔王としての態度を見せなければならないことだけは確かである。
今日も今日とて俺はこの世界の知識を学ぶべく、女子ばかりの教室で魔王として平然とした態度を取りながら勉強の準備をするのだった。
先生が来て授業が始まる。異世界と言っても授業の風景は現実とたいして変わらない。机の並んだ部屋でみんなで仲良くお勉強だ。
現実では友達のいない俺だったが、ここでは俺を召喚したヒナミとフェリアとセレトがいるので寂しくないと思う、多分。
三人とも召喚術を研究する部活をやっているだけあって授業態度は真面目だ。
俺も彼女達に知識で負けないように授業を受けようかと思っていたら、今日は先生に指名されてもいないのに立ち上がった生徒がいた。
気の強そうな彼女はこのクラスの委員長だ。名前は知らない。あいつは俺の友達ではないし、口を利いた事も無いし、耳に聞こえるみんなの話でも委員長としか呼ばれてないのだから俺が知らないのもしょうがない。
その気の強いお嬢様じみた委員長は言った。先生に向かって吠えるように。
「先生! やはりわたしは我慢できません!」
「委員長、トイレが我慢できないのか?」
やはり奴は委員長という名前のようだ。先生にもそう呼ばれているのだから。まさか先生が生徒の名前を知らないというわけはあるまい。俺は魔王と呼ばれているが。
まあ冗談はさておき、委員長は目上の先生にも全く臆せず、強く言い放った。
「違いますよ! 授業が始まったばかりでなぜトイレですか! 先生、わたしは魔王が同じ教室で授業を受けていることが我慢できないと言っているのです!」
どよめく教室。俺はわりと冷静に受け止めていた。何となくこのクラスのみんなから浮いているという気はしていたから、そう言う人もいるだろう。現実でもぼっちだったしな。
仲間であるヒナミやフェリアやセレトや生徒会長のフィリスや校長や国王など俺が魔王として関わってきた者達からは割と親しくしてもらっていたが、やはりあまり関係を持たなかったこのクラスからは俺は浮いていたようだ。
そんな委員長の意見に対して不満を述べたのは分かって受け入れていた俺ではなく、同じクラスにいたヒナミとフェリアとセレトだった。
達観した大人である俺(高校生)とは違って、彼女達は若者らしい(中学生ぐらい)情熱と意思をもって委員長に反論した。
「魔王様は入学試験にきちんと合格して先生にも認められたのに何か文句があるんですか!」
「あの頭の固いお姉ですら魔王様の事は認めたのに!」
「敵はまだここにいた。わたし達のすぐ傍に! 抹殺」
三人に挑まれても委員長は全く動じなかった。長と呼ばれるのにふさわしい堂々とした態度で言い放った。
「言っておきますけどね。このクラスの長はわたしなんです。生徒会長でも校長でもなく、この教室のみんなに選ばれたこの委員長こそがこのクラスでは長なんです! 文句があるならこの教室から出ていって生徒会室でも校長室でもご自分の好きな場所に行かれてはどうですか!」
「「「ぐぬぬ」」」
一触即発。どちらも引く気は見せないようだ。ここは俺が魔王として余裕を見せるべきだろうな。
俺はゆっくりと、注目を集めるように少し音を立てて立ち上がる。
みんなの視線を集める事に内心ではびびりつつも、態度は魔王としての威厳を出して愚かな委員長に向かって言った。
「委員長よ、ならばお前の条件を聞こうではないか。お前はどうすればこの俺をクラスの一員として認められる?」
「そうね……」
俺は喋る事に慣れてはいないが言葉は伝わったようだ。委員長は顎に手を当てて考えた。
ヒナミ達はこんな奴の言う事を聞く必要は無いと強気な目線を送ってきていたが、俺は何も心配する事はないと余裕の頷きを返しておいた。
なぜならこの世界の俺は無敵の魔王なのだから。現実世界のモブキャラの吉田とは違うのだから。
やがて考えを纏めた委員長が条件を出してきた。
「いいわ。ならこのクラスのみんなと友達におなりなさい。みんなと友達になれたら、わたしもこのクラスの一員としてあなたを認めてあげるわ」
「友達……友達か……」
俺は立ったまま教室のみんなを見渡すが、目が合うとついっと視線をそらされてしまった。おおう……
自慢ではないが俺はこのクラスでヒナミ達以外と喋ったことがありません。生徒会長や国王とだって喋ったことがあるのにこのクラスでは友達無し。何と言う事でしょう。
俺はとても困ったことになったと思ったが、ヒナミとフェリアとセレトはとても勝ち誇ったように鼻息を鳴らしていた。
「なんだ。そんな簡単な事でいいんですか」
「委員長が知らないなら教えてあげるけど、魔王様はお姉や国王とも友達なのよ!」
「簡単すぎてあくびが出てしまうおちゃのこさいさい」
あまりハードルを上げないで欲しいのですが、俺はヒナミ達の期待を裏切りたくはないので、これ無理ゲーだろと思ってても堂々とした態度を見せなくてはならない。
少しうろたえたかもしれないが、幸いにもヒナミ達も委員長もお互いに睨み合っていて、こっちを注視してはいなかった。
いや、これ無理ゲーだろ。委員長が勝ち誇っているのも頷ける。
「そんなこと言って、あなた達召喚部自体がつまはじき物だって忘れたわけじゃないでしょうね!」
「それでも魔王様なら!」
「魔王様なら!」
「わたし達に出来ない事をやってくれる!」
「「「ですよね!?」」」
「あ……ああ、もちろんだ」
「今少しうろたえたような」
「授業中に何をつまらぬ事をと思っただけだ」
「なら、約束よ。このクラスのみんなと友達になれなければあなたは追放にしますからね!」
「よかろう。お前の挑戦を受けてたとうではないか。うはははは!」
追放? 追放ってどこに送られるんでしょうか。
分からないが、魔王としての俺は受けて立つしかないのであった。
ほら、ヒナミ達が俺に尊敬を、委員長に敵意を向けている。
話がまとまったと見て、先生が教壇から言ってきた。
「話は決まったか? なら席に付け。授業を始めるぞ」
先生の指示で授業が始まる。
俺は勉強しなければならないのだが、それどころではなかった。
友達ってどうやって作ればいいんだ?
リアルの俺にも分からない事だ。魔王の俺にもよく分からなかった。
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