第27話 魔王と勇者 運命の一戦
戦いの火ぶたは切られた。向かってくる小羽に向かって俺は派手に攻撃魔法を放つ。
当てないように、それでいて魔王の力を見せつけるように見た目だけは派手に見えるように。
みんなが驚きに声を失う中、小羽が駆ける。すぐ間近まで接近を許した。
計画通り。後は適当にやられて、世界の平和を勇者に任せよう。
そんな俺の考えは甘かったのかもしれない。勇者が剣を一閃する。白銀の閃光が空間を薙いだ。
「やあああああ!」
「いてええええ!」
体に炸裂する威力。思ったより痛かった。
俺の体は吹っ飛んで玉座まで叩きつけられ、そこで眠るように頽れてしまった。
こんなに痛いなら止めを刺されるわけにはいかないな。適当に死んだふりでやり過ごして現世に逃げよう。
そう考えた俺はやはり甘かったのかもしれない。
死んだふりを決め込む俺の耳に声が届いた。
「魔王様! しっかりしてください! 魔王様!」
「死なないでください! 魔王様!」
「魔王様あ!」
そっと死んだふりをしながら意識だけで周囲を伺う。
ヒナミとフェリアとセレトが俺にすがりついて泣いていた。
フィリスと校長先生も悲しそうにしていた。元国王も悔しそうにしていた。
小羽はまだ俺がやれると思っているのだろうか。油断をしないように距離を取って睨んでいた。
「どけ! 僕がとどめを刺してやる!」
「変身するかもしれないから気を付けて」
近づいてくるアレックスに小羽が注意を促している。
やれやれ、期待に応えないといけないようだ。
かっこ悪いところなんて見せられないもんな。
俺はヒナミ達の頭を撫でて目を開いて立ち上がった。
「魔王様……」
「心配するな、蚊が刺しただけだ」
みんなに安堵の空気が流れる。
アレックスはびっくりして小羽の背後に逃げ込んだ。
俺一人なら全てを捨てて現世に逃げ帰っても良かっただろう。だが、俺にもどうやら守らないといけないものが出来たようだ。
やれやれ、自分のぼっち気質が嫌になるぜ。
何でも自分さえ良ければいいと考えてしまう。
「ここにこんなに俺の勝利を願っている人達がいるってのにな!」
俺は魔力を全身に漲らせて、勇者と対峙する。
増大した力を小羽も感じ取ったようだ。顔が警戒を強めていた。
「変身しないの?」
「分からないか? 俺はもう変身している」
俺は魔王らしく不敵に笑う。
「目が覚めたぜ。ここからが本当の勝負だ!」
「ここからが本当だね!」
小羽が跳びかかってくる。相手もパワーとスピードがさっきより増していた。
ここからが真剣勝負だ。
キンキン! ガイイイン!
勇者の振るう剣を俺は魔王の杖で受け止める。
「お前もまだ力を隠していたのか」
「本気の魔王を相手にしているんだもの! こんなに嬉しいことは無いよ!」
「そうか!」
嬉々として向かってくる小羽。
繰り出される剣とキック。
俺達は数度の打ち合いを経て離れた。
お互いにまだまだ力は残っている。
小羽が次の動きを見せる前に俺はある提案をすることにした。
「ここでは少々手狭だな。場所を移していいか?」
「もちろん!」
「自信があるようだな。後悔しても知らんぞ」
術式を発動させる。俺達はワープして狭い室内から広い屋上へと移動した。
周りの奴らも一緒だ。みんな応援したいだろうしな。
俺も見ていてもらいたい。
小羽が空を見上げる。
「不思議な力」
「これからさらなる力がお前を襲うぞ。覚悟するがいい!」
広い場所に出て、さらに躊躇なく力を使えるようになった俺の魔法が小羽に向かっていく。
今度は見せかけだけではない。威力も本物だ。
炎に雷、風も荒れ狂う。
俺は本気で狙ったが、小羽は全てを避けて接近してきた。
本気を出したのは相手も同じだ。だが、同じ手を食らうほど俺は愚かではない。
「甘いわ!」
「え!?」
俺は空を飛べるのだ。瞬時に空に飛んで勇者の剣を避け、どうあっても届かない間合いまで上昇した。
「ここから狙わせてもらうぞ! 悔しかったらここまで来るがいい!」
「んーーー、よいしょっと!」
小羽は何かを頑張る素振りを見せた。何をするのかと思ったら、その背に白い天使のような翼が生えていた。
俺はびっくりしてしまう。
「何だよそれは」
俺も何か魔王っぽい翼を生やしてみるべきだろうか。
やってみると黒い炎が渦巻いて背中に立派な翼が出来ました。やれるね、自分。
そんなことをやっている間にも小羽ははばたいて空に浮かび、一気に飛んで距離を詰めてくる。
迎え撃つ俺の魔法を小羽は剣で切り伏せる。空に割かれる爆発の炎が咲いた。
「お前に翼を出すなんて芸当が出来るとはな!」
「なんか頑張ったら出来た!」
「そうか、お前も都合のいい力が使えるんだな」
「都合のいい力?」
小羽が不思議そうに考えて動きを止まってしまったので、俺は教えてやることにした。
彼女は都合のいい力のことを知らないようだ。彼女を現実世界に帰すためにも教えておいた方がいいだろう。
俺の目的はそもそも勇者とガチンコ勝負をすることではなく、小羽を現実の世界に帰すことと、この国の問題を解決することなのだから。
「自分の中に感じるだろう? 出来る力を」
「自分の中に出来る力……これか」
小羽は今まであまり自分の内側には関心を持っていなかったようだ。
友達を振り回すような元気に溢れた小学生だから考えるよりも行動したいタイプなのだろう。
対する俺は行動するよりも考えてしまうタイプである。
小羽は今初めて自分の力に気が付いたとばかりに喜んだ顔を見せていた。
俺はすぐにその力で勇者が掛かってくるかと思ったのだが……
「ちょっと待ってて。すぐ戻ってくるから」
「なに?」
小羽は翼をはためかせて地上に降りていった。
俺としては……待っているしか無いよな。この場合。
「数分だけ待ってやろう」
せいぜい偉そうに言ってみた。
地上に降りる小羽を見送る。
彼女が舞い降りたのは包帯王子のすぐ傍だった。
「何をしている! 早く魔王を倒せよ!」
「ちょっとじっとしてて。そこにしゃがんで」
「はっ?」
ちょっと強めの口調。勇者の言うことだから何かあるのかもしれないと思ったのだろう。
アレックスは怪訝そうにしながらも言われた通りにしゃがんでじっとした。
小羽はそんな彼の頭に手をかざすと
「痛いの痛いの飛んでいけ!」
その言葉に合った動きで手を動かした。アレックスは少女の手を払いのけ、不満をぶつけた。
「こんな時に冗談は止めろ! 早く魔王を……僕をこんな目に合わせた奴を倒してくれよ!」
「もう包帯取って大丈夫だよ。治ったから」
「え!? お前は何を言って……」
アレックスは手で自分の顔を触り、信じられないように目を見開いて包帯を取った。
懐から鏡を出して確認する。
魔王に潰された顔は綺麗に治り、元の美形の王子の顔が戻っていた。
俺は上空から見下ろして、やっぱり会ったことの無い奴だなと思った。
王子は驚愕に打ち震えている。
「これは……どうなって……」
「ごめんね。もっと早くにこの力に気づいて治してあげられれば良かったね」
小羽は屈託なく笑う。
「お兄さんってかっこよかったんだ。イケメンだ」
「はうっ」
アレックスは心臓を貫かれる思いだった。
今まで悪態ばかり向けていた少女がとても清らかで美しく思えた。その場で膝をついてしまう。
「ああ、聖女様!」
「勇者だって。最後まであたしの戦いを見届けてね」
小羽は手を振って別れ、再び翼を広げて舞い上がる。
王子は羨望の想いで見上げた。
少女は再び待っていた俺と対峙する。
俺はせいぜい威厳と余裕のある態度を見せて、組んでいた腕を解いた。
「用件は済んだか?」
「うん。さあ、続きを始めよう!」
「望むところだ!」
俺達は全力でぶつかり合う。
魔王と勇者として。全開のパワー同士でぶつかり合う。
いつ果てるともしれない極限のバトルの果てに俺は……
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