第26話 最強! 四天王の実力

 さて、これからどうしようかと思っていると、謁見の間に兵士が飛び込んできた。

 彼はとても慌てた様子で声を上げた。


「報告します! 10万の軍が……全滅しました!」

「なんと!」


 国王はびっくりして目を剥くが、俺が以前に5万を全滅させているし、この国の兵力にもまだ余裕があるので立ち直るのが早かった。

 白い髭を撫でながら賢そうに告げる。


「さすがは魔王様が気にされて雑事を切り上げて戻ってこられるほどの勇者……もはや戦力の出し惜しみは出来ん! すぐに我が国の全軍を持って打ち滅ぼすのだ!」

「ははーっ!」


 命令を受けて飛び出していく兵士。

 俺が雑事を切り上げてこっちに戻ってきたのは勇者の力を恐れてではないのだが、特に訂正する必要を感じなかったので黙っておいた。

 戦いの気配を感じ取ったのだろう。

 四人の屈強な怪人達はニヤニヤと不気味に笑ったり、武器の準備を始めたりしていた。


「どうやら俺達の見せ場が早くも来そうだな」

「ここで魔王様の心象を良くしておくぜ」

「この鎌で八つ裂きだ!」

「ぐへへ!」


 やる気を出している四人には悪いが、俺の心象はあまり良くなかった。だってこいつら顔や雰囲気が怖いし、フィリスやヒナミ達が警戒しているんだもの。

 俺が大丈夫だよと頷いてあげると、彼女達の肩の力が少し抜けた。

 思えば四天王も可哀そうな奴らかもしれない。俺が本当に魔王のような残虐非道な精神の持主で世界征服を企んでいたら、彼らとも楽しく活動出来ていたかもしれない。

 改めて自分は何で魔王をやっているんだろうと考えてしまう。

 元国王が訊ねてくる。


「どうでしょうか。魔王様から見て、我が国は勇者に勝てるでしょうか」

「ここまで来るんじゃないかな」

「くっ」


 召喚された小羽が俺と同じような力を持っているなら、異世界の兵士では勇者に勝てないはずだ。

 俺も都合よく小羽がここまで来てくれないかなと思っている。異世界なら俺達の都合を聞いてくれるはずだ。

 俺の軽く答えてしまった言葉に、元国王は決断したようだ。

 この国の全軍が向かった結果の報告を待たずに、四天王に号令を下した。


「四天王よ! もはや猶予は無い。お前達の力で魔王様に歯向かおうとする勇者を倒すのだ!」

「その命令を待ってたぜ」

「にやり」

「腕が鳴るぜ」

「ぐへへ!」


 彼らは一斉に部屋を出ようとして、入り口で混みあってしまった。


「どけよ!」

「お前こそ!」

「俺が先だ!」

「役立たずは引っ込んでろ!」


 俺は誰が先でも良いと思うのだが。元国王も予期せぬ事態に困っていた。

 だが、四天王は出る必要は無かった。

 ここがすでに戦地だったのだから。


「ここに魔王がいそうかな」


 勇者が扉を開いた。ただその開いた扉にぶつかった衝撃だけで四天王は全員吹っ飛び、俺の玉座の左右を二人ずつ通り過ぎていき、その先の窓を突き破って外まで飛び出していった。

 彼らは誰も戻ってこなかった。

 元国王も校長もフィリスもあまりの事態に口をあんぐりと開けてしまった。

 俺としてはどうでも良かった。勇者が来た。それだけが重要だった。

 勇者がここまで辿り着く。異世界が俺にとって都合がいいなら、分かりきった結果だった。

 小羽ちゃんは勇者らしい装備を身に着け、顔に笑みまで浮かべて俺と対面した。

 俺も笑みで迎え撃つ。


「よくぞ来た。俺が魔王だ!」

「あなたが魔王!」


 小羽は現世で見た俺のことに気づいてないのだろうか。リアルのことを突っ込んでくることは無かった。

 まあ、その方がお互いにとって戦いやすいかもしれない。

 俺は魔法の杖を手に取って玉座から立ち上がった。小羽も表情を引き締めて剣を構える。

 相手は小学生だが油断は出来ない。召喚された者としての力を持っているだろうし、俺も都合のいい強さを彼女に求めている。

 緊迫した空気の中。

 俺は小羽は一人で来たのかと思っていたが、後に続いてもう一人が謁見の間に入ってきた。全身に包帯を巻いた不気味な男だった。

 彼は血走った目で俺を睨んできた。


「魔王よ、お前の支配もこれまでだ。今日こそこの傷の恨みを晴らしてやる!」


 俺はその男に見覚えが無かった。それも当然かもしれない。会うこともなく扉をぶつけて吹っ飛ばしてしまったのだから。

 俺は知らなかったが、彼はこの国の者達からの情報で魔王のことを知っていた。

 包帯男のことは元国王が知っていた。


「お前はアレックス! 今までどこに行っていたのだ!?」

「魔王を倒せる者を探しに行っていたのですよ! 魔王の軍門に下った愚かな父よ! 今こそその選択が間違っていたことを知るだろう!」

「愚かなのはお前じゃ! 同じ国の者同士で戦って何になる! せっかくわしの育てあげた我が国の全軍を滅ぼしおって。四天王まで!」

「魔王の手駒だ。僕達の国のじゃない」

「分からずやめ! だが、お前が勇者を呼んだのならちょうどいい。ともに手を組んでこの国をよりよくしていこうではないか!」


 元国王の言葉は一見理に適っているように聞こえる。俺にとっては都合のいいものでは無かったが。

 親子なら仲良くする選択もあるだろう。

 小羽はどうするのだろうと様子を伺っていると、彼女はあっけらかんとした無邪気な顔でこう言った。


「それってこの国の半分をあたし達にくれるってこと?」

「は……半分寄越せじゃとう!?」


 それはこの国の全てを支配しているつもりの元国王にとっては驚きの言葉だったらしい。俺としてはもう国の管理なんて手に負えないし、全部持っていってもらってもいいぐらいだったが。

 だが、やすやすと勇者の言うことを聞くわけにはいかなかった。

 魔王と勇者は戦うものだからだ。そして、勇者は世界を救った英雄としてみんなに認められ、未来を平和に導くのだ。


「よし」


 俺の中ではこの国の問題を解決する道筋が見えた。町のみんなが勇者を待っていたのを今感じた。

 ここで魔王らしくけじめを付けて、勇者に世界を平和にしてもらおう。

 俺は魔王らしく髑髏の杖を振り上げて勇者に挑戦する。

 その前に、小羽ちゃんに会うそもそもの目的だったことを告げておく。


「勇者よ、お前は不本意にもこの世界に迷い込んだようだが、実は望めば今すぐにでも帰れる。この魔王を恐れ、しっぽを巻いて逃げるなら今のうちだぞ」


 アレックスがぎょっとした顔を見せるが、小羽は退かなかった。勇者らしく堂々と剣を向けてくる。


「あたしは逃げないよ。勇者として魔王を倒して世界を救う。それがあたしの使命だから!」


 小学生とは思えない立派な態度だ。何が彼女をそこまで正義に駆り立てるのか、俺にはさっぱり分からなかったが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る