第25話 元国王との相談

 謁見の間の玉座に座って俺は一人考える。

 今日は誰の謁見の予定も入っていないので、今のこの場所は静かな物だ。落ち着いて考える事が出来る。

 俺の今座っている椅子は、かつては元国王の椅子だったが、今は俺の椅子だ。


「どうしようかな、この国」


 元国王はとても賢い王だったらしいが、同じ椅子に座ったからと言って俺まで賢くなれるわけでもない。

 フィリスに相談された手前、元国王に話すことを考えないといけないのだが……


「俺に何を言えと? 俺には何も言えませんよ」


 下手に突いても反論されて何も言い返せないではかっこ悪すぎるだろう。何とかしないといけないのだが。


「何か効果的な策は……誰か俺の代わりに考えてくれればいいのに……」


 頭を悩ませていると、正面の扉を開いて誰か人が入ってきた。

 堂々とした威厳のある白い髭を生やした老人。彼こそが賢いと言われた元国王だ。俺が今頭を悩ませている当の本人でもある。


「帰られていたのですね、魔王様。雑事とやらは片づけられたので?」

「うむ、まあまあな」


 アニメは昨日結構見たし、勇者を探すのは町の人達に任せてきた。

 さて、彼が来たのをちょうどいいと思うべきなのだろうか、俺の考えがまとまってから来いよと思うべきなのだろうか。

 判断に迷うところだったが、とにかく話をすることにした。

 本題の前に軽く様子見の話を。びびりだなあ俺。

 自分の小心を思ってしまうが、態度だけは魔王らしく振舞って見せる。


「留守の間に変わったことは無かったか?」

「何もございません。全ては順調に進んでおります。魔王様のご威光でこの国はますますの発展を遂げ、いずれはどこの国にも負けぬ大国家となることでしょう」

「そうか。さすがだな。お前の働きのおかげだ」

「お褒めにあずかり恐悦しごく」

「…………」


 褒めてどうするんだろうか。

 相手が立派に仕事してるんだから仕方ないじゃないか。

 順調で何も失敗が無いなら俺から文句を付けることは何もなかった。

 ごめんよ、フィリス。俺が問題の棚上げを決めようと心を傾けかけていると、校長とフィリス、ヒナミ達召喚部の面々までやってきた。

 みんな集まりすぎだろうと思うが、国家のボスが帰ってきたのだ。これが普通なのかもしれない。

 フィリスの物説いたげな視線に気まずさを感じる俺。その視線は元国王に話をしてくれましたか? と語っているように感じられた。

 返事を決めかねて渋っていると、校長先生が前に来て話を切り出してきた。


「聞きましたぞ、魔王様。あなたに害をなそうとする勇者とやらがこの世界に召喚されたようですね」

「うむ、奴の居場所を今探している。そのために俺は雑事を切り上げて戻ってきたのだ」


 校長に喋ったのはヒナミ達だろう。

 小羽が召喚されたのなら異世界のどこかだと思って、俺はまず外に探しに行ってしまったが、みんなにも話した方がいいかと決めかけた時、元国王が言った。


「勇者のことなら情報が入ってきております」

「掴んだのか!?」

「はい」


 さすが元国王。有能だ。どこかの魔王とは違う。

 俺は改めて舌を巻き、注意する動機を失ってしまう。

 元国王は語る。


「辺境の村で勇者と名乗る人物が我が軍を撃破したと報告がありました。遠方のことゆえ警備が薄く失態を見せてしまいましたが、すでに増援を送りましたのでご安心を」

「大丈夫なのか?」

「はい、恐れ多くも魔王様に歯向かおうと牙を剥く者。見せしめも兼ねて10万の軍隊を送りましたから」

「10万かー」


 何と俺がこの国を攻めた時の二倍である。小羽も召喚された者なら俺みたいな都合のいい力を持っているかもしれないが、ちょっと心配になってしまう。

 俺は小羽のことを心配したのだが、元国王はこの国の心配と受け取ったようだった。


「まさか魔王様は勇者が10万の軍を打ち破ると思っておられるのですか? かつて我が国の5万の軍を打ち破った魔王様ならそう思われても仕方ないでしょうな。ですが、ご安心ください。我が国の兵はあの時よりもずっと強くなっております。それにもし突破してこの国にたどり着いたとしても……」


 元国王が指をパチリと鳴らす。それを合図としたかのように外の廊下を地響きを立てて何かが歩いてくる音がした。

 ドアをくぐって姿を現す。入ってきた彼らは大柄でいかにも強そうで人相の悪い四人の猛者達だった。

 はっきり言ってモンスターなのか怪人なのかよく分かりません。とにかく物騒な雰囲気を放っていたので魔王である俺はともかく、他の人達はびっくりしてしまっていた。

 元国王は自信に満ちた態度で彼らを俺に紹介した。


「集まった兵達の中から特に優れた能力を持った者達を抜擢して鍛え上げました。勇者がこの国まで辿り着こうものなら、彼ら四天王が撃退にあたります」

「四天王かー」


 確かにとても強そうだ。とても人間とは思えないとは、この場合は誉め言葉になるのだろうか。

 自信たっぷりな元国王には悪いが、校長とフィリスはあまり良い顔をしていないし、ヒナミ達も面食らって怖がっているようだ。

 確かにこんな見た目の怖い奴らがゴロゴロ集まってきているようでは、フィリスが妹やこの国の環境を心配してしまうのも無理はないかもしれない。

 四天王が目を戦意にギラギラさせた怖い顔で俺の前にひざまずく。


「魔王様の下で戦えることを光栄に思います」

「どうか我らの力にご期待ください」

「何でも切り裂いて見せますぜ」

「ぐへへ」

「うむ、期待しているぞ」


 柄の悪い連中に帰れこの国にもう来んなと言うことも出来ず、なあなあで話を進めることしか出来ない俺であった。

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