第16話 寝よ お前らは別の部屋な
みんなでわいわい一緒にゲームをやるのも楽しいが、一人用のゲームが進められなかった……
まあ、いいか。明日も休日だ。今日はもう寝よう。
俺は客間に布団を出した。フェリアが調子よく乗ってくる。
「ほら、敷くからどいてねー」
「わあ」
フェリアをどかして布団を敷く。三人いるが二つしか敷けなかった。まあ、この広さなら問題はないか。
俺は部屋の片隅で布団を踏まないように立っている三人に向かって話しかけた。
「じゃあ、俺は自分の部屋で寝るから、君達はここで寝るといいよ」
「魔王様は一緒に寝ないんですか?」
「え?」
「え?」
「ふえ!!?」
この部長はいったい何を言っているんだろう。俺は平気で男と寝る発言をしたヒナミの顔をガン見してしまった。
ヒナミはあたふたと弁解した。
「あ、違うんですよ。魔王様の力を疑っているわけではなく、誰か良からぬ者が邪魔をしてはいけないなと思って」
どうも気にしているポイントがずれているようだ。
ヒナミはまだ俺が前に言った、この世界で魔王を脅かす勇者の話を信じているみたいだった。
男と寝るより、一人でいる間に襲われることを心配している。優しい子だ。
俺は自分の部屋に一人で戻りたいところだったが、『お前らと同じ部屋にいられるか。俺は自分の部屋に戻らせてもらう』というと、いかにもミステリーで最初に殺される人っぽい。
テレビで見ているときはフラグなのに馬鹿な人だなあと思うところだが、今の俺、まさにそんな馬鹿な人の気分。ここは危険がいっぱいだ。
みんなと離れて部屋にこもりたい気持ち、とてもよく分かります。
ヒナミにとってはみんなで一緒の方が安心するのだろうが……
俺は立場を弁える。
彼女達に何も心配はいらないよと安心させる。
「大丈夫だよ。ここは俺の根城だからな。勇者には見つけられないんだ」
「そうですか」
「何も心配はいらないからね。安心してお休みなさい」
女の子と一緒に寝たい邪な興奮の欲望と戦って、俺がちょっと鼻をむずむずさせながら言うと、少女達は素直に納得してくれた。
「分かりました」
「お休みなさい、魔王様」
「お休みなさい」
「おう、お休みな」
俺は見送る三人に別れを告げて、自分の部屋へと向かった。
今の自分。まるで風のように去る紳士のようであった。
余裕を持った紳士の足取りで自分の部屋へとやってきた俺。
部屋に入るなり、ベッドにダイブする。
「はあ、何であんなこと言ってしまったんだろう」
自分の部屋で一人になると安心する。賑やかなのも悪くないが、やっぱり一人の方が良い……
「何て思うか!」
俺は起き上がって枕を取ってベッドに投げつけた。そのままベッドの上にまた寝転んで身もだえしてしまう。
「ああ、ヒナミ達と一緒に寝たかったよ~」
何が紳士だ。何が余裕があるだ。
せっかく女の子達が誘ってくれているのに自分は何をやっているんだろうか。
「ぼっちの俺に女の子が一緒に寝よ♡ なんて誘ってくれるこんな機会もうあるか分からないのによお!」
どうしようもない後悔に苛まれてしまう。でも、仕方ないんだ。
「任されているんだからさ。信頼されているんだ。だから俺がしっかりしないと。ヒナミ達を恐がらせないようにさ……って、うわああ!」
俺はびっくり仰天してしまった。ドアを開けて三人が顔を出したからだ。
俺は背筋を震わせてしまうが、少女達は別に俺の発言を軽蔑しているわけではなく、何か使命感に溢れたような決意のある眼差しをしていた。
「話は聞きました。魔王様だけに負担は掛けさせません!」
「お前ら、どこから聞いてたの?」
「信頼されて……からです」
ちょっと思い出してみる。なら安心か。俺はとりあえず居住まいを正すことにする。
魔王らしく、不用意な発言はしないように気を付けて訊ねる。
「お前ら、何しに来たんだ?」
「寝る前に魔術的な動きが無いか探りに来たんですけど」
「魔王様はお一人で勇者に立ち向かう決意をされていたんですね!」
「え? ……まあ、そんなところ……かなあ」
そんな決意全然してなかったが、三人はそう判断したようだ。
彼女達の決意はもう止められなかった。
「大丈夫です。あたし達も戦います!」
「布団持ってきますね!」
「え? ああ」
ヒナミとフェリアが布団を取りに部屋を出ていく。見送っているとセレトが隣にひっついてきた。
「魔王様……」
「大丈夫だ。何も心配なことは無いからな」
心配なのはこの状況だよ! どうしようと思っていると、ヒナミとフェリアが布団を持って戻ってきた。すぐに敷いてしまう。
「では、魔王様の隣はわたしが。セレトどいて」
「駄目よ! フェリアちゃんは体洗ってもらったでしょう!」
「体……」
ヒナミとフェリアが何だか言い合いを始めて、セレトがぽつりと呟く。
俺は風呂のことを思い出すのはやばいと思って、すぐにヒナミとフェリアに話しかけた。
「大丈夫だ。俺はみんなと寝てやるからなあ!」
俺は何を言っているんだろう。落ち着いて考える時間が欲しかったが、今はそんな時間も落ち着きも無かった。
人生に一時中断のボタンは無いのだ。リアルタイムで考えるしかない。
俺がベッドの真ん中で寝転ぶと、ヒナミとフェリアとセレトはすぐに引っ付いてきた。
「夜はあたし達が護衛します!」
「頼むな、ヒナミ」
「すやあすやあ」
「フェリア、寝るの早!」
「大丈夫、わたしが起きてる」
「セレトはよく寝てたもんな」
俺はハーレムとは羨ましいものだと思っていたが、何だか狭くて暑苦しいだけだった。
ヒナミとセレトももう寝息を立てている。何もロマンチックで素敵なことは起こりそうに無かった。
囲まれては抜け出すことも出来ない。無理して出て行って、寝ている間に姿を消しても不安にさせるだけだろう。
俺はゆっくりと目を閉じる。
やっぱり夜は一人でゆっくり寝たい。そう思ったのだった。
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