第13話 家にいる女の子達が遠慮しない
自宅に到着。無事に我が家に帰宅したぞ。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「……」
「……」
返事がない。ただの家のようだ。何て冗談はともかく、俺とヒナミは荷物を置きにリビングへ向かう。
部屋に入ると、フェリアは熱心に携帯ゲームで遊んでて、セレトはそれを横から覗きこんで見ていた。
「お帰りなさい、魔王様」
「お帰りなさい」
「おう、ただいま」
気づかれなかったらどうしようと思っていたが、さすがにそこまで鈍感では無かったようだ。
お帰りの挨拶を言ったフェリアとセレトの目はすぐに携帯ゲームの画面に戻ってしまったが。
俺とヒナミは荷物をテーブルに置いて、昼ご飯の弁当を取り出した。
「昼ご飯買ってきたぞ。食べよう」
「わあ、お昼ご飯!」
もっとゲームをやるのかと思っていたが、フェリアはすぐに飛びついてきた。セレトもやってきた。
「ごっはんー、ごっはんー」
「何を買ってきたんですか?」
「ほらよ」
ご機嫌なフェリアと期待するセレトの前にそれを置いてやる。
ただの弁当だが、とても珍しそうに見ていた。
異世界人にはただの弁当でも珍しいのかもしれない。
みんなで席について昼食にする。
「「「「いただきます」」」」」
俺はどっちかと言うと賑やかなのは苦手な方で、家でも学校でもいつも一人で食べるのを好んでいたが、こうしてみんなで食事するのも悪くないなと思ったのだった。
食べ終わって、フェリアとセレトはすぐにテーブルの席を離れていってしまった。
「もう、片づけぐらいしなさい」
ヒナミが呆れたように言ってゴミをゴミ箱に入れている。
俺は朝から気になっていたことを訊ねることにした。
「お前ら、服着替えないの?」
普通、家に帰ったら制服は脱いで着替えるものだと思う。ヒナミ達はまだ異世界の学校の制服を着ていた。
フェリアはゲームをしながらごろごろしている。制服が汚れそう。
セレトはソファに座って食後の休憩にくつろいでいた。
ヒナミの答えはこうだった。
「そこまで考えてなくて」
「そうか」
思えば彼女達はここへ来た時に俺の雑事を手伝いに来たと言っていた。いつも異世界でやっているようなことなら制服でも問題無かったのだろう。
こんな今のフェリアみたいにゲームをやりながら床でゴロゴロしているような状況は想定していなかったかもしれない。
セレトもくつろぐなら制服で無い方がいいだろう。
「うおっ」
動くフェリアのめくれ上がる制服のスカートの裾から中が見えそうになって、俺は慌てて目線を逸らした。
そこにヒナミの目があって二度びっくり。興味津々で覗き込んでいたらバレていただろう。油断の出来ない家である。
俺の焦りをよそに、ヒナミは深刻そうに話を続ける。
「取りに帰るにも魔力を使ってしまいますし」
「そうだな……」
召喚の門を開くのに三人で協力して魔術の儀式をやっているし、手軽にポンと往復できるものでも無さそうだ。
俺は考えて、服ぐらい貸してやろうかと思った。
「確か余っている服や学校のジャージがあったと思うから、それを着るといいよ」
「ありがとうございます」
ヒナミはほっこりと喜んだ。
さすが異世界人でも女の子。身だしなみは気になるようだった。
俺はタンスから数着のしまっているシャツや学校のジャージを取り出した。
「ちょっと大きいと思うけど」
「大丈夫です。着てみます」
「おう」
服を手渡すとヒナミはすぐに部員を呼んだ。
「ほら、フェリアちゃんとセレトちゃんも。いつまでも制服を着ていないで着替えるよ」
さすがは部長。部員をしっかりとリードしている。
フェリアが気怠そうに立ち上がり、セレトも続いて立ち上がった。
俺は部屋から出るべきだろうか、それとも彼女達が別の部屋に行くのかと思っていたのだが……
「!!」
いきなりここで着替え始めたのでびっくりした。
ヒナミ達の手から制服が脱がれて……脱げ落ちる前に俺は慌てて両手で顔を覆って目を閉じた。
暗闇の中、フェリアの声がする。
「魔王様、どうかされたんですか?」
「ちょっと考え事をな……」
フェリアの野郎、誘ってやがる! だが、その手には乗らんぞ!
童貞をからかおうとしても無駄だと言うことを悟るがいい。
俺は小指を動かそうとするのを頑張って戻した。
「もうフェリアちゃん、魔王様の邪魔をしては駄目よ」
そうだ、ヒナミ。もっと言ってやれ。
この物知らずに部長としてもっと言ってやるんだ。
俺はヒナミに精一杯の応援のエールを送るのだが……
「あ、セレトちゃん。胸少し大きくなった?」
「うん」
ぐほっ、お前は裏切り者か。裏切り者リストに追加してやろうか。かわいそうだから止めておくか。
……どれぐらい大きくなったんだろう。
朝、セレトは俺の膝の上で座って寝ていた。ちょっと手を前に出せば、ほんのちょ~っと手を前の方に回せば確認出来たのに。
なんて思うのは不謹慎だろうな。まあ、過ぎ去りし日を悔やんでもしょうがない。大事なのは今であろう。
俺はこれからどうすればいいのか考える。
この目を開いて女の子達のお着がえを見てやるべきなのだろうか。
紳士として最後まで務めるべきなのだろうか。
ええい、ままよ!
俺はちらっと指の隙間を開いて薄く目を開き……両手を下ろして普通に目を開けた。
ヒナミがいつもの明るい笑顔で迎えてくれる。
「魔王様、ちょっと大きいけど着れました」
「お着換え終わってるうううう!」
俺はがっくりと膝を付いてうなだれた。
何だか自分がとんでもない間違いを犯したような。決して見逃してはいけないものを逃がしたような。そんな気分で床に手を突いてしまった。
「魔王様、どうされたんですか? 魔王様!」
ヒナミの心配する声を俺は遠くに聞いていた。
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