第7話 起きた事件

 午後の授業を何事も無く過ごし、俺はいつものように学校が終わるなりすぐに下校することにした。

 うっかり誰かに話しかけられでもしたら困る。俺は手早く荷物を纏めて鞄を持って、すぐさま校外へと移動した。


 正面の門を通って、しばらく歩く。

 帰宅部の俺にとっては慣れた行動だ。

 ヒナミ達はとても生き生きして楽しそうだった。俺と下校するのがよほど嬉しいらしい。

 俺には話す話題は無かったが、彼女達はいろいろ話しかけてきて、俺は適当に答えていった。

 家に着いて荷物を置いてから、俺はヒナミ達に提案した。


「異世界に行くぞ。学校に行かなければならないという現世の頸木から解き放たれた今、俺が再び向こうの世界に顕現することが可能となったはずだ」

「はい!」


 ヒナミ達は気持ちよく答え、三人で魔法の儀式を行った。魔法陣から光が立ち昇る。


「道が開けました!」

「よし! 行くぞ!」


 俺は恐れることもなく足を踏み入れる。ヒナミ達も後に続いた。

 そして、俺達は異世界に転移したのだった。




 学校から帰ってきてみれば、また学校に来ていたというのもよく考えれば奇妙な体験かもしれない。

 今度来たのは異世界の学校だが。

 見覚えのあるファンタジーの校内を適当に歩いていると何だかざわめきが聞こえてきた。ヒナミ達はきょとんとしている。


「何かあったんでしょうか」

「お姉に聞いてみましょう」


 フェリアがそう言ったので、俺達は生徒会室に向かうことにした。




 扉は昨日俺が吹き飛ばしたので、代わりの応急処置のように暖簾が駆けられていた。


「邪魔するぜ」


 俺達は暖簾を潜って入室する。部屋には生徒会と知らないおっさん達がいた。


「校長先生です」


 俺が質問するまでもなく、ヒナミが小声で教えてくれた。

 校長先生は偉そうにふんぞりかえって見下すような態度で俺達を見てきた。


「困ったことをしてくれたね、君達」

「は?」


 俺には思い当たることが無い。ヒナミ達も同様だった。察しの悪い俺達に校長先生は贄を切らしたように叫んだ。


「魔王を召喚したことだよ! まったくとんでもないことをしてくれた! あれを見ろ!」


 言われて窓から外を見ると、遠くから騎士の大軍が向かってくるのが見えた。

 だから、何だと言うのだろう。俺の疑問に校長先生は怒鳴り声を上げて答えた。


「魔王を討伐するために五万の王国の騎士団が向かってきているのだよ! この学校はどうなってしまうんだ!」

「申し訳ありません!」


 感極まったようにフィリスが頭を下げていた。


「わたしが妹達に部を存続させたいなら召喚の実績を示せと言ったのです。全てわたしの責任です!」

「お姉……」


 フェリアが心配そうに見ている。ヒナミやセレトも同じだ。

 俺は惨めな生徒会長を見て、ざまあと思っておけば良いのだろうか。そんなはずは無かった。

 みんなが不安がっている。力を示す時だった。


「たった五万だろ? 俺がどうとでもしてやるぜ」

「は?」


 俺の言葉に校長先生は実に間の抜けた声を発した。

 それも仕方ないことなのかもしれない。ここは異世界なのだから。能力を持たない現地人は優れた者の力を理解出来ないものなのだ。

 俺は踵を返して外へ行く。


「この魔王の力を見ているがいい!」


 俺は恐れることもせず、五万の軍勢の前に向かっていった。

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