第3話 生徒会に討ち入りだ
「魔王様! 生徒会室はこちらです!」
「うむ」
俺の行動に一番乗り気なフェリアがずんずんと校内を案内してくれる。よほどお姉ちゃんをギャフンと言わせたいのだろう。
ここはファンタジーの学園だ。すれ違う生徒達はヒナミ達と同じ異世界の制服を着ていた。女子が多いのが気になったが。
「ここは女子校なのか?」
「はい、そうです!」
フェリアがきっぱりと答えてくれた。それはまずくないだろうかと俺は思ったが、部の三人は気にしていないようだった。
俺は男ではなく、召喚獣だと思われているのだろうか。ラノベの知識で何となくそう推測する。
ヒナミは隣を歩きながら緊張している面持ちだった。
「大丈夫でしょうか。もし部が廃部になったら……」
「大丈夫だ。お前の困るようなことはしないさ。お前の召喚に応えた俺を信じろ!」
「はい!」
異世界でぐらいは現実では言えないようなことを言わないとな。
俺が強気な言葉を掛けてやると彼女の緊張は取れたようだ。ヒナミらしい優しい笑顔を見せてくれた。
ヒナミちゃんは可愛いなあと浮かれている場合ではない。俺は魔王らしく威厳のある風格を見せるように努めた。
セレトは黙って後ろをついてくる。俺は振り返って言った。
「セレト、俺と手を繋ごう。嫌か?」
「いえ、とんでもない……」
少女は戸惑いつつも俺に手を差し出してきた。震えるその手を俺はしっかり握ってやった。
セレトの顔がぽっと赤くなった。可愛い奴だ。
「魔王様、早く来てくださいよー」
フェリアが先を促してくる。歩くのが早い奴だ。のろまだと思われても困る。
「おう、今行くぜ」
俺はセレトの手を引きながら、ヒナミを連れて、少し先を急ぐことにした。
校内の廊下を歩いて、立派な扉の前に辿りつく。
「魔王様、ここが生徒会室です」
「うむ、案内ご苦労であった」
フェリアの働きに労いの言葉を与え、俺は前を見る。
立派で大きな扉が立ちはだかっている。俺の侵入を拒むかのように。
生徒会室に入るなんて現実世界でなら緊張して尻込みして回れ右していただろうが、異世界の俺はそんな小物の人間ではない。
みんなが見ている。期待に答えるためにも。俺はノックをすることもせずに、手に魔法の火球を生み出し、
「邪魔するぜ」
放った。扉は吹き飛び、辺りに煙が立ち込めた。
「魔王様!」
ヒナミがびっくりした顔を見せるが、俺は動揺したりはしない。
「問題はない。この魔王のすることを見ているがいい!」
「はい!」
「さすがは魔王様!」
ヒナミが決意に頷き、フェリアは喜んでいた。セレトは無言で握る手を強くしていた。彼女は頬を上気させていたが怖気づいてはいなかった。その瞳は俺を信頼して尊敬していた。
俺Tueee! って気持ちいい。
俺は魔王らしく堂々と入室した。そして、煙でせき込んで慌てている連中に偉そうに宣言してやった。
「よう、生徒会。魔王様が来てやったぜ! 闇の親玉の降臨だ!」
「魔王ですって!?」
俺の言葉に答えたのは正面の机にいた偉そうな女だった。フェリアに似ているからすぐにこいつが生徒会長だって分かった。名前は確かフィリスと言ったか。
名前を覚えるのが苦手な俺だったが何とか覚えていたぜ。
俺の隣でフェリアがお高く留まった生徒会長に向かってびしっと指を突きつけた。
「お姉の時代もここまでよ! 魔王様が来てくださったのだから!」
「あんたまだ召喚ごっこなんてやってたの!?」
「ごっこじゃない! 魔術よ!」
フェリアが地団駄を踏んで叫ぶように言う。
「魔術じゃなくて召喚術……」
部長のヒナミがぽつりと呟いたのを俺の耳は拾っていた。
その言葉が聞こえたわけではないだろうが。会長の蔑んだ冷たい視線が妹を睨み、続いて俺を素通りして部長のヒナミに向けられた。
「ヒナミさん、これは何の真似なんですか?」
フィリスの強い叱責を感じさせる言葉にヒナミは少し気圧されていたが、大丈夫、俺がついている。そう無言のエールを送ってやると、彼女は頷いて力強く前に出て宣言した。
「魔王の召喚に成功しました。ですから、召喚部の存続を認めてはくださいませんか?」
「確かに存続させたいのなら部としての実績を出せとは言いましたが。まお……魔王の召喚って……」
どうやらもうひと押しが必要なようだ。俺は手をすっと前に出して、魔法の火球が現れるように念じた。
俺は自分の力も分からないような無知な愚か者ではない。異世界に召喚された魔王なら出来て当然の力を行使する。
人が石を拾って投げる行為をごく当然に行えるように。魔王として出来て当然の行為として魔法の火球を放った。
それは生徒会長の頬の横をかすめて、後ろの窓を叩き割って外に飛び出して行き、遠くの山まで飛んでいって大爆発を起こした。
爆発の炎は天まで吹き上がり、山が半分消えていた。
生徒会長はとても驚いた顔でそれを見た。召喚部のみんなは誇らしく見る。俺は言ってやる。
「魔王が召喚されましたが、何か不足ですかい?」
フィリスは悔しそうに唇を噛みながらも、やがて納得してくれた。
「認めましょう、部の存続を」
その疲れたような発言に部のみんなは湧きたつように喜んだ。
部室に戻って俺達はどんちゃん騒ぎのパーティーをやっていた。
フェリアが用意してくれたまずまずのお茶とヒナミとセレトが買ってきたお菓子がテーブルの上には並べられている。
「見ました? お姉のあの顔。傑作でした」
「おう、喜んでくれて俺も嬉しいよ」
フェリアは猫のように机の上に上体を投げ出して喜んでいる。
ヒナミもとても嬉しそうに微笑んでいる。
「部の存続が出来ました。魔王様のおかげです!」
「おお、良かったな」
「このお菓子、食べてください」
「ああ、食べてるよ。旨いな」
セレトが差し出してきたおすすめのお菓子を俺は食べる。
異世界の物はまずいのが定番かと思っていたが、なかなかどうしていけてる味だった。
部室で過ごしながら俺はこれからどうするかを考える。
考えていると何だか眠くなってきた。
暗くなっていく視界の中でみんなが呼んでいる声を聞きながら俺の意識は閉じていった。
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