第2話 俺の事情、召喚部の事情

 俺はごく普通の高校生だ。 

 学校に行くと誰とも挨拶することなく無言で席につき、休み時間は一人で読書にふけり、授業は適当に聞き流し、昼食は誰とも関わらずに落ち着く便所にこもって一人で取り、放課後は面倒な部活はせずにさっさと家に帰る。そんなありふれたどこにでもいるクールでマイペースで孤高な生き方をしているのがこの俺だ。


 学校の帰り道に駅近のコンビニで立ち読みして帰ろうとすると急に足元で光り輝く魔法陣が出現していたのだ。

 少しの浮遊感、気が付くとここにいた。


 回想終わり。


「ふう」


 俺は思考にふけりながら、少女に出されたお茶をぼろいテーブルについて優雅にいただいていた。気が強そうだが緊張している姿が可愛らしい少女がお盆を手に提げてじっと物思いにふけっていた俺を見ている。


「お茶はどうですか? 魔王様」

「うむ」


 視線が合って俺は一瞬きょどってしまうが、気にしない。ここにはリアルの知り合いなんていないし異世界なのだから、俺は物語の主人公のように上から目線を装った。

 お茶は少しまずかったが、子供の夢を壊すほど俺は小者ではない。少し色を付けて言ってやった。


「まだ精進は足りぬがなかなかのものだ。もう少しスキルを積めばさらに良くなるだろう。俺は気に入ったぞ」

「わあ、ありがとうございます」

「やったね、フェリアちゃん」


 少女達はお互いにハイタッチを交わしたりして喜んでいる。

 ずっと眺めててもいいが、いつまでもまずいお茶を飲んでいてもしょうがない。俺は訊ねることにした。


「お前達の名を聞かせてもらえるか?」

「はい」


 少女達は俺の前に向き直って、少し緊張しながら答えた。


「あたしはヒナミです。この部活の部長を務めています!」

「元気いっぱいに右手を挙げて宣言した君が部長のヒナミね」


 俺を召喚した時にちょうど正面にいた子だ。彼女がリーダー格らしい。

 続いて隣にいた強気でふんわりしたお嬢様っぽい子が挨拶してくれた。


「フェリアです。よろしくお願いしますわ」

「少し気が強そうだが上品で礼儀正しくお茶を入れてくれた君がフェリアね」

「セレト。特に言う事はない」

「ぼうっとしている君がセレトね」

「あう……」


 彼女は少しもじもじしている。どうやら照れ屋のようだ。

 名前なんて覚えておける自信はないが、とりあえずはコミュニケーションが取れた。

 現実では話すのが苦手な俺だが、異世界に来てまでそんな常識を持ち込むつもりは俺には無かった。

 何せここは異世界なのだから。俺がtueee出来る世界なのだ。そうと決まっている。

 そんなありふれた一般常識を胸に抱いたまま、俺は次の質問を行った。


「部長の君に問おう」

「はい!」


 俺の言葉に部長のヒナミはびっくりして背筋を伸ばして応答した。


「部活と言っていたが、ここは何をする部活なのかな?」


 質問にヒナミはやや緊張しながらもはきはきとした声で答えた。さすが部長と呼ばれるだけのことはある。度胸があった。


「召喚術を研究する部活です。ずっと結果が出せなくてこのままだと廃部だと言われたんですけど、今回魔王様が来てくださいました。これで部は存続できます!」

「魔王様の召喚に成功したとなれば、きっとみんなびっくりしますよ。うしし」


 フェリアも喜んでいるようだ。いたずらっ子のように笑んでいた。

 セレトはわりと真顔だったが、ちょっと唇の端が自慢そうに上がっているのを俺は見逃さなかった。


「ふむ、それで召喚された俺はここで何をすればいい? 君達は俺に何を望む?」


 魔王と言われればやる事は世界征服に決まっているが、何も知らないまま暴力を振るうのは俺の流儀ではない。召喚した者達の希望を聞いてやることにした。

 今回の俺の質問に答えたのはヒナミではなく隣にいたフェリアだった。部長を押しのけるようにして言った。


「生徒会長をギャフンと言わせて欲しいんです。そのお力で!」

「ふむ」


 俺は彼女の乗り気な猫のような瞳に頷き、視線を部長に向けた。

 何も言わなくてもヒナミは理解して答えてくれた。気の回る子だ。さすがは部長。


「生徒会長のフィリスさんはフェリアちゃんのお姉さんなんです。あたしは召喚に成功して部の存続が認められればそれで良かったんですけど」

「ヒナミちゃんは消極的すぎます! わたしはあの人達を見返したいんです!」

「えー、でも争いは良くないというか騒ぎになりたくないし」


 好戦的なフェリアと穏健派のヒナミの間で何だが言い合いが始まった。セレトは黙って状況を見ている。

 俺にステルスは通用しない。現実の自分を見るような気分で俺は黙っている少女に質問した。


「セレト、お前はどう思う?」

「え!? ええーーーー……」


 まさか自分が当てられるとは思っていなかったのか、セレトは目を泳がせた。

 仲間の二人の目が集中する。俺も便乗するようにじっと見つめてやった。

 セレトは戸惑いながら答えた。


「魔王様の意のままに……なさるのがいいかと……」

「よし、決まったな」


 俺は勢いよく席を立ちあがった。みんなが驚きの目で俺を見る。少女達の視線を集める中で俺は宣言した。


「世界征服への第一歩だ。生徒会に俺の実力を見せてやろう。案内するがいい!」

「はい!」


 俺の強気な言葉にフェリアは笑顔で答えてくれて、セレトは尊敬の眼差しをして、ヒナミは何だか気まずそうにしていた。

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