第15話 決着

「ハァ...ハァ...!」


上野は長い長い非常階段を駆け上がり、

NTC社屋の屋上に出た。


「くそっ...!フレンズを殺せば罪にならなかったのに、アイツが出しゃばりやがって...」


冷静さが欠けた上野は怒りを堪えきれなかった。


(このまま海外に逃げてもあの猫が俺の事を暴露すれば...)


彼に残された道はひとつしかなかった。

柵を飛び越え、ビルの縁に立つ。

結構な高さだ。ここから落ちれば間違いなく...


「俺はお前らのせいで富も名声も失ったんだよ…!一生呪い続けてやるっ...」


一度息を吐き、上野はそのビルから

飛び降りた。









飛び降りて数秒後、目を不意に開ける。

地面が迫り来る所か浮遊していた。

困惑する上野に、


「命を無駄にするなです」


「ちゃんと罪を償うのですよ」


叱責とも取れる声が聞こえた。


助手と博士が飛び降りた上野を空中でキャッチしたのだった。


中央管理室を制圧したツチノコから

リカオンのタブレットに監視カメラの

映像が。

博士達は職員から奪ったタブレットで場所等を確認し、窓を割って上野が飛び降りるよりも先に待機していたのだ。


上野は何も言えず、そのまま沈黙していた。









「...」


日比谷が目を覚ますと、見知らぬ空間にいた。


「日比谷さん!!」


ひょいと顔を覗かせたのはサーバルだった。


「サーバル...」


「日比谷さん...、本当に助かって良かった...」


かばんも顔を覗かせた。

涙ながらに彼の手を握った。


「ああ、社長...!

よく生きておられました...」


「その声は...、板橋か...

俺は...、どうなって...」


「僕達を庇って...、銃弾を受けた時

すぐに藍那さんが助けを呼んでくれて」


かばんは啜り泣きながら説明した。


「それで病院で緊急手術を...

幸いにも、銃弾は深くなかった様で

本当に奇跡でした...」


板橋もかばんの影響か、少し涙声になっていた。


「他の皆は...」


「昨日パークの人達が戻ってきてね、

連れ去られたフレンズを島に戻したの」


「昨日ってことは...」


「3日間も目を覚まさないもんですから、不謹慎にも、ゴホン」


板橋が言った。


「でも、本当に良かった...

日比谷さんが生きててくれて...

ありがとうございます...」


かばんは感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。





《NTC環境研究所》


大勢の捜査員が出入りを繰り返してる。

ここ絡みで色々あった為だが、一番の理由は上野の殺人未遂だった。


忙しなく人が行き交うのを横目に

社員食堂で、横山姉弟とリカオンはテーブルを囲んでいた。


藍那の臨床試験は会長、日比谷辰巳の

計らいで行われる事になり物事が落ち着いたらすぐに行われることになった。


「ホンマにすごいんやな、リカオンは」


有馬は感心した様子で褒めたたえた。


「そう。数分でハッキングしちゃうんだもん。野生動物がそこまで出来るなんて、正直脱帽したわ」


「そんなに言われると...

照れちゃいますよ...」


顔を赤らめながら言った。


「そんな才能あるんやったら、ウチで

働けばええのになぁ」


「でも、私の仕事は、セルリアンハンターとしてパークの皆を守るのが役目ですから...」


「なら、その得意を活かせるように

手を打ってあげる。お詫びとお礼やで」


態と最後の言葉だけ、関西弁にして

微笑んだ。





《NTC職員寮》


「ここがワタシの部屋よ!」


薄い桃色の、何処か女の子っぽい部屋の持ち主は機械工学で優れた技術を持つ

森下の部屋だった。

テディベアが沢山飾ってある。


「うわぁ...」


その部屋に招かれたのはヒグマだった。

最初はドン引きだったが、

過去の話を聞いて、同情するようになった。


姉と妹に囲まれ、真ん中っ子として育った森下。母子家庭でもあり、常に女子に囲まれていた。そのせいか、自身も女子だと錯覚するようになり、矛盾した生活を送っていた。それが原因でイジメを受け他人との関わりを避け、機械いじりに没頭し、現在に至るという話だった。


空手は元々、姉が習っていた影響もあり始めたらしい。


「今日はワタシの部屋に泊まってくれるんでしょう?」


「あ、あぁ...」


願いを聞いて欲しいと頼まれ、聞いた結果がこれだ。

しかし、彼がいなければフレンズを助けられなかった訳だし、セルリアンも倒せなかったので、仕方ない。


(ハァ...、しょうがないか...)


大きな溜息を吐くのだった。




《書店》


「先生...?変な目で見られてますよ?」


「それはまあ...、獣の耳にサングラスを掛けてマスクしてる不審者みたいな格好だからね。逆にアミメ。なんなんだその派手派手しい服は。目立ちすぎだ。

落ち着い漫画を立ち読みできないだろ」


原宿系みたいなポップなコーディネートのアミメキリン。逆にそれが他人の目を引いていると指摘した。


「先生に言われたくないですよ...」


「まあいい...。落ち着いてジャンプを読ませてくれ」


「これを元にした新作の漫画でも?」


「ふふっ...、それはお楽しみだよ」




《高級寿司店》


「ウニと中トロとサーモンを頼むです」


「イクラと大トロとアワビを頼むです」


「あ、あいよ...」


寿司屋の亭主は奇妙な格好をした博士と助手を不思議がりつつも、寿司を握り始めた。


「くそう...、何故じゃ...

何故このワシが2人に、奢らねばならない....」


赤坂は頭を抱えていた。


「我々を殺しかけたのです」


「我々を罵倒したので、当然の報いです」


「老人に奢らせるなど...、

老人虐待じゃあ....」


「あ、あの、そちらのお客様は...」


「何もいらんっ!」


亭主に向かい、赤坂はそう言った。





《遊園地》


「遊園地は楽しいのだぁ〜!」


アライさんは嬉しそうだった。


「何が一番面白かった?」


「フェネックがじぇっとこーすたーに乗った時、“耳に虫がっ!!”って絶叫してたのが面白かったのだ!」


「あはは...」


流石のフェネックも、苦笑いだった。








フレンズ達はパークに戻った者もいれば、ほんどで数日過ごしたフレンズもいた。


かばんとサーバルは日比谷の退院日まで

滞在してくれた。

その後、日比谷に別れを告げた。


「本当にありがとうございました。

僕、日比谷さんのこと応援しています」


「私もだよ!びょうき、無くなるといいね」


「ああ...、時間はかかるかもしれないけど...。絶対に、実現して見せるよ」


力強く頷いてみせた。


「僕達のパークにも、来てくれますか?」


「もちろん。

吉報を持ってやって来るよ」


「きっぽう...?」


「良い知らせの事だよ。

サーバルちゃん」


思わず2人はクスッと笑った。


「ガイドロボも、あんまり喋ってくんなかったけど、ありがとな」


「ドウイタシマシテ」


「じゃあ...、また」


「...はい」

「またね!」


日比谷は2人と握手をし、別れを告げた。


沖に進む船に、手を振り続けた。











2ヶ月後...


会長室には、日比谷の姿があった。

父親から会社を引き継いだのだ。


フレンズ騒動により封じられていた封が切られたのでマスコミは大騒ぎしていたが、今では政治家が騒動に乗じて汚職事件を起こしたことで今の政権が失脚する事になった方を大々的に報じていた。


日比谷も1ヶ月間は頭を下げ続けていたが、今はそうでもない。

平穏な日常が戻ってきた。


コンコン


「失礼します」


「板橋社長。どうした」


日比谷は全てを精算するとして、

新たに人事を異動させた。


社長に板橋、副社長に渋谷を添えた。

NTC環境研究所所長には、横山藍那が

なった。


「新たな計画書です。

横山所長の試験結果を元に一部修正しました。もう一度、社長の夢を現実化しましょう」


「ああ...!」



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