第14話 狩遊

「狩りごっこを、始めようよ」


「狩りごっこだね...、負けないんだからっ」



かばんとサーバル、まさかお互いが“敵”として立ちはだかるなど、夢にも思わなかっただろう。

日比谷はすぐ様物陰に隠れた。

銃弾飛び交う戦場にいられる訳が無い。


彼もまた、かばんが立ちはだかったことが信じられなかった。




先に手を出したのはかばんだった。

拳銃をサーバルに向けて容赦なく放つ。


バーンと、乾いた音響く。

サーバルは音がした瞬間横に避け、高く飛び上がった。


「うみゃあっ...!!」


サーバルには相当な覚悟があった。

かばんを傷付けるかもしれない。

しかし、覚悟を決めなければいけない。

“食べないでください”では済まされない。それは、重々承知だった。

目をキラキラと輝かせ彼女にその爪を立てる。


その攻撃を見て、かばんは後ろへと身を引いた。2、3歩彼女と間合いを取る。


避けられたサーバルは地面に着地する。

刹那、バンバンバンと、銃声が3回鳴り響いた。


「んみぃ...」


咄嗟に膝をつき、姿勢を弾丸の軌道より下にする。


かばんは左手で帽子を掴んだまま

右手で銃を構え続ける。

その姿を見たサーバルの脳裏に、

ある考えが浮かんだ。


膝を今度は伸ばし、四足状態になる。

バンバンと、かばんは闇雲に撃ち込むが、軽々と避けられた。

そして、目的のかばんの左側を狙った。


彼女が“右利き”が故に見つけた唯一の弱点だった。


「...!!」


「みゃあ!」


目を光らせたまま、

左手の拳を彼女の腹部目掛け、突き出したのだった。


「んぐっ...!」


サーバルの強力な一撃を喰らった彼女は

後ろへと倒れる。

鞄を背負っていないので直に地面に叩き付けられる音がした。


「ハァッ...、ハァ...」


サーバルは息を荒くし右手で口元を無意識に拭いた。


もうこれ以上は戦いたくない。

それが彼女の本音だった。

しかし、彼女の思いに反し、かばんは立ち上がってみせた。


「サーバルを狩るまで...

僕は倒される訳にはいかない...!」


彼女が取り出したのは刃渡りが30cm程あるサバイバルナイフだった。


サーバルは唾を飲み込み、構え直した。


右手を大きく振り上げた彼女はサーバルに向かう。

それを避けたサーバルは背後にまわり、

素手でかばんに攻撃する。

野生解放はしていないが、近接戦闘で圧倒的にサーバルが有利なはず。

しかし、先程からの疲れで、泥沼化しようとしていた。

彼女はナイフを持っている。切られないように対処するのが、キツイ。


だが、諦める訳にはいかない。

彼女の隙を模索していた。

ナイフを持った右手を同じ手で払い除けたサーバルは、反対の手で彼女の頬を殴った。


「グッ...」


彼女の髪が浮き上がり、耳が見える。


「...!」


彼女は耳に黒い何かを付けている。

よろめいてる隙に左耳のそれに手を伸ばし、サーバルは除去した。


「...ッ!?」


かばんは酷く焦ったような顔を見せ片足を地面につきサーバルが黒いものを取った方の耳を手で塞いだ。


「なにこれ...、変な音...」


サーバルも取り外したそれから発せられる不快音に顔を顰めた。

地面に落とし靴で破壊する。


かばんは依然として片足を地に着いたままだ。


「かばんちゃん...!」


サーバルは近付いた。


(もしかしたら...)


髪をかき分け右耳を確かめる。

同じような物が付いている。

サーバルはそれも取り外し、壊した。


かばんはサーバルに抱かれる様に前に倒れかかった。


「かばんちゃん...」


微かな小声で、


「サーバル...ちゃん...」


と言い返した。









《中央管理室》


三幹部の1人で、昇格し副社長となった

千代田はモニターをみてその状況に絶句していた。

リカオンにハッキングされた為、

セキュリティは無いに等しかった。


(しかし...、社長を逃がすルートはこちらではネットワーク制御していない。

それが不幸中の幸いだ...)


と安堵もつかの間、ドンッドンッと

扉を叩く音がした。

同じ中央管理室にいた者もざわつき始める。


扉は次の大きな音と共に破壊された。


「よくもオレたちを閉じ込めやがったなっ...!!」


その扉の前に立ち塞がったのは、

監禁されていたツチノコであった。


千代田はモニターを見続けたまま、


「目的は果たされた」


と呟いた。

次第に大勢のフレンズがこの中央管理室に集結、制圧したのだった。




一方、タイリク、アミメ、ライオンは。


「俺は君たちに対して何もしない。

フレンズは全員開放された。

安心してくれ。降参だ。降参」


本郷は手を振って何も無いことをアピールした。


「一体誰がやったんだ?」


タイリクは問いかけた。


「おそらくは...、君たちの仲間だ」


「ヘラジカ...、ヘラジカ達か...!」


嬉しそうな声をライオンは上げた。


「ところで、アンタ社長を知ってるかい?」


再度タイリクは尋ねた。


「社長...?上野さんか。さあね。

俺もそこまでは把握してない」










「所詮フレンズはフレンズでも人の子。

たいした力は持っていなかったか」


生物実験室の二階部分に現れたのは上野だった。


「上野っ!!」


日比谷が叫んだのと同時に、

サーバルはキリッと睨みつけた。


「君達のせいで私のプロジェクトは滅茶苦茶だ。

これ以上頭にくるものは無い...」


「それはこっちのセリフだぞ上野。

お前のせいで俺の計画は滅茶苦茶だ!」


「だが俺は、プロジェクトを遂行する。

ここにはフレンズから採取したDNAサンプルなどのデータが記録された書類、

USBもある。俺は今から海外で人工フレンズを生み出し、億万長者になるとするよ」


「あのハツカネズミの二の舞になるかもしれないんだぞ!?」


「どうなったって構わない。

金が手に入ればいい。ただそれだけの事だ。だがその前に...」


スーツの内側に手を入れる。

そして取り出したのは黒く輝く銃だった。


「君らが一番気に食わない」


「やめてっ!!」


銃口を向けられたサーバルが叫ぶが、彼の耳には届かなかった。


「死ね」


バンッ!







サーバルは目を閉じた。

かばんとの戦闘で体力を使い切った彼女に逃げる力は残されていなかった。




「うっ...」



「えっ...」


サーバルが目を開けると、そこに居たのは日比谷だった。


彼は蹲るようにして倒れ込む。

その背中からは、赤い物が滲み出していた。


「日比谷さんっ...!!」


「サーバル...、かばん...

君達をこんな悲劇に合わせて...

申し訳なかった...」


息を細切れにし、2人に詫びた。


「...チッ」


上野は拳銃を投げ捨て、その場から立ち去った。




「君達には...、未来がある...

それを...、守る事が出来て...」


「日比谷さん!!やだよ…!」


「サーバル...、ありがとう...

かばんを連れて...、パークに...

うっ...」


「日比谷さん!!!」


サーバルの涙声が部屋に、

大きく反響した。


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