第13話 友情

「アライさんを離しなよ」


檻に乱雑に入れられたアライさんを

見つめた。


「やだよ。動物を安楽死させてやるんだ...」


「あなた頭おかしいんじゃないの」


フェネックは目を細めた。


「俺の家族はキャンプ場で動物に...

襲われてみんな死んだんだ...

動物は...、駆逐してやるんだ...

俺がっ...俺がっ...死滅させる!!

兄貴!兄貴の仇はとってやるよォ...」


彼は椅子から立ち上がりメスを握りフェネックに襲いかかる。


「いかれてる...」


フェネックはフラフラと不健康そうな動きをする彼の攻撃を避ける。

素早くないのが不幸中の幸いだ。

しかし、あの銀色のメスでフェネックは

軽く頬を傷付けた。


最悪あの攻撃を受けたら、死ぬ事になる

かもしれない。


「俺はなぁ...、生物の解剖が好きだったぜぇ...?はっはっ...」


「あなたに切られるのはごめんだね」









サーバルはたじろいだ。

目の前にいるフレンズに。

しかし、会話は出来ない。

お友達になろうと、何時もの調子で話せない。

それ程な、異質さ。


「...!みゃっ!」


向かってきたハツカネズミをジャンプで交わすが彼女も物凄いクイックターンを見せる。


「早いっ!」


再度ジャンプするがまた追いつかれてしまう。


「あっ...」


「サーバル!!」


日比谷が声を上げた瞬間


「うっ....」


怪しく睨む赤い目。

白銀の歯がサーバルの腕に食い込んだ。

しかし、噛みちぎってしまいそうな感じではない。


目に薄く涙を見せると、彼女は歯を腕から離した。

それは、人としての罪悪感があるのか、

それとも、動物としての気持ちなのか。

サーバルは優しく声を掛けた。


「私と...、お友達になろうよ」


地面に仰向けのサーバルはゆっくりと

上半身を起こし、凶暴そうな目付きから、まるで初めて染色された世界を見たかのような顔をしているハツカネズミの背中に腕を回した。


「よしよし...」


「...ナン...で?」



「なに...?」

日比谷は驚愕した。




「フレンズ同士は、仲良くしないと。

私があなたの最初の友達」


やはり、サーバルは血で血を洗う戦いはしたくない。


「フレンズ...、トモダチ...」


「だから、喧嘩とか、殴ったりとか、しちゃダメ」


「ケンカ...、ダメ...」


「私の名前は、サーバルキャットの

サーバル」


「サーバ...」


バーンッ....





「...え」


ハツカネズミはサーバルに抱かれるように前に倒れた。


後頭部を見ると、血が流れてる。

ハツカネズミの息遣いは聞こえない。

サーバルの腕の中で息を引き取った。


「今のは...、銃声...」


サーバルが顔を見上げると、


「かばん...ちゃん...」


銃口を向けた彼女が、立っていた。

目のハイライトが、消えていた。







「ふぇぇ...、フェネック...!

フェネック...!」


檻の中から情けない声が聞こえる。


(アラ...イ...さ...)


「お前、野生解放し過ぎたな。

ここの空調のSS量は極めて低い。

追いかけ回すだけで息切れ...

気息奄奄になるのは、当たり前」


壁に寄りかかるフェネックに安行は近付いた。手には銀色のメスを手にしている。


(ここまで...、なのかな...)


「解剖の始まりだ...」


「フェネック!!」


アライさんの声が響き渡る。


(アライさん....

あなたと会えて...)


安行がメスを振り下ろそうとした時だった。


「何だ?停電だと...?」


一瞬にして辺りが暗くなる。


「ここは電源系統が2種類ある...

電源室に入れるのは職員だけだ!

誰が消しやがった...!!」


暗闇で1人怒鳴った。


刹那、両手を何かに掴まれる。


「...!」


力を入れられ腕に痛みが走る。

メスを落とした。

2人、誰かが自身を拘束していることに気がついた。


「んっ...!」


暗闇で誰かに地に伏せられる。

強靭な力だった。

そして明るくなる。


「誰だ貴様らァ...」


血相を変え、脅し口調で言う。


「あ...」


フェネックもその姿を見た。


「弱い者を追い詰めて...」


「全く卑怯なやり方だ」


「ヒグマとヘラジカ...!」


アライさんの声に何時もの明るさが戻った。


「ありがとうございます。藍那さん」


リカオンは礼を述べた。


「クビにならなきゃいいけど...」




ヒグマとヘラジカは安行の腕を拘束した。


「獣がっ...!こんな事しやがって...

お前らなんてっ...、失せやがれ...」


恨み節を聞かされた二人は互いに溜息を

吐いた。


「フェネック、薬を」


ヒグマが促す。

そう言えば貰っていたのを忘れていた。

ポケットから取り出し、ゴクリと飲み込んだ。


ヘラジカは檻のアライさんを助け出し、

一件落着した。


「安行くん」


「横山ァ...、お前だな?」


「そうよ」


目を赤くした彼は、低い声でその名を呼んだ。


「裏切り者めが...」


「何を言ってるの。

私はここを裏切るつもりは無いし、

裏切ってはいない。彼女達が必要だから手助けしただけ」


「子供みてーな言い訳を...、チッ」




リカオンがセキュリティシステムを藍那の所有していた端末に移し替え、遠隔操作が可能となった。


「これで、ここの警備システムは私達の手の中。捕らえられたフレンズも

きっと自由に行動できるようになったはずです」


リカオンはそう説明した。


「野生動物なのに機械に詳しいのね」


「野生の勘ですよ」


ちょっと上手いことを言ったなと、

リカオンは自慢気な顔をした。


「アイツはあのままでいいのか?」


ヘラジカが尋ねた。


「安行くんは動物を見ると性格が変わるから。ここの扉を閉めておくだけでいいと思う」


藍那の指示通りにリカオンはタブレットを動かした。








「かばんちゃん...」


サーバルの両手の上には毛が赤く染まった、白色のネズミがいた。

そのまま、呆然と彼女を見た。


「お、おい...」


日比谷も冷や汗が垂れる。

まさか、本物の銃を持ってくるなど

想定外だったからだから。


「サーバル...駆除...しなきゃ...」


「かばんちゃん!!」


大きな声で呼び掛けるが、彼女が元に戻る気配はない。

銃を構えたまま、虚ろな目で見つめてくるだけだ。


「ねえ!目を覚ましてよ!」


必死に呼びかけるが、銃を構えた手は微動だにしない。


カチッ...


「危ないっ!」


バンッと音が聞こえた。


日比谷はかばんが引き金に手を掛けた瞬間を見逃していなかった。

咄嗟にサーバルを伏せさせたのだ。


「....」


「あっ...」


「大丈夫か...?」


サーバルは黙って頷いた。

片腕で重苦しそうに上体を起こす。

座り込んだまま、暗い声出した。


「...かばんちゃん、覚えてない...?

一緒に、橋を作ったよね…

こうざんで、紅茶を飲んだよね

一緒に遺跡を探検して、一緒に家を作って、一緒にお料理して、一緒にお風呂に入って、一緒に戦った...。

本当に...、覚えてないの!?」


長い沈黙の後に、大きな溜息が聞こえた。


「僕は君を殺す。そう言われたから。

サーバルちゃん...」


それから、口元を緩めこう呟いた。


「狩りごっこを、始めようよ」



その言葉を聞き、サーバルは立ち上がった。

真剣な眼差しで、彼女を見つめ返す。


「まさか、サーバル...」


日比谷も察した。

緊迫した空気で、肌がピリピリと痺れる。


サーバルは手で目元を拭うと、

ハッキリと明瞭に聞こえる声で言い放った。


「狩りごっこだね...、負けないんだからっ」

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