第12話 人造
フェネックとアライさんは、
フロアの途中でヒグマ達と別れ、フレンズが監禁されているだろう部屋を目指していた。フェネックは通気口から行く事を提案した。元々小柄な2人は楽々通ることが出来た。
「フェネックは聡明なのだっ!
ところでここからどう行くのだ?」
「ちょっと静かにしててね」
耳を済ませ微かな風の音、その他雑音で居場所と目的地を導き出す。
「上だね」
「上...?」
アライさんは四つん這いになったまま上を見上げた。
「多分そこに通路があるはずだよ」
「こ、ここを登るのか?」
「大丈夫だよ〜、私が下から押し上げてあげるからさぁ〜」
(という口実でアライさんの...)
「フェネック!早くするのだ...」
「お〜けい〜」
サーバルと日比谷は、かばん奪還を目指し、NTC環境研究所で最も重要な場所。
中央管理室を目指していた。
日比谷曰く、セキュリティルームはいくつかあるが、全ての監視カメラの映像を確認でき、各室と連絡を取れるのはこの部屋しかないという事だ。
しかし、突破は一筋縄では行かない。
一部通路が封鎖されている。
もしかしたら、“誘導”されているのかもしれない。それは、二人とも薄々感づいていた。
「職員の投入はよして、一気に畳み掛ける気だろうな。どうしてウチは理系なのに武闘派が多いんだが...」
「ハァッ...ハァ...」
サーバルの息遣いを聴き、薬を取り出した。
「ずっと野生解放してたもんな...
SSの濃度も薄く設定してるみたいだし」
「ありがとう...」
サーバルは受け取るとゴクッと水を使わずに飲み込んだ。
「ハァッ...、この先は?」
「俺は本社だから...、研究所の中はあまり詳しくないけど...」
少し歩みを進めた。
目の前に現れる1つの扉。
壁には『生物実験室』と書かれている。
「穏やかな気がしないよ」
「開けるよ...」
サーバルはその扉のドアノブに手を掛けた。
「フェネック...、行き止まりなのだ」
「ここが...、そうかもね」
このセキュリティルームは扉の開閉を管理している筈だ。
通気口の扉を開ける必要がある。
「力仕事はアライさんに...」
「ん...ちょっとま...」
フェネックが違和感を感じ、アライさんを制止しようとしたが、遅かった。
「のだぁ!?」
「アライさん!」
ドスッと音がした。
「いてて...なのだ...」
「...害獣の匂い」
男は椅子を回転させた。
丸眼鏡に長髪、見るからに怪しい雰囲気を醸し出している。
「哺乳綱食肉目アライグマ科アライグマ属...」
「のだっ...」
「...駆逐してやる」
生物実験室の中に入った2人の目の前に現れたのは....
「グルルルルゥォォ...」
「なんだありゃあ...、原始人?
いや、バケモノか...?」
「フレンズだよ...」
サーバルは言った。
目の前にいるのは長い白髪、丸い耳に、
肌色の尻尾。赤い目、そして口からは鋭い牙が生えている。
「お久しぶりです、日比谷さん」
その声は日比谷の耳に聞き覚えがあった。
「本郷...!」
「私も、おりますよ」
「新木場...」
2人はそのフレンズの後ろに立っていた。
「だれ?」
小声でサーバルは尋ねた。
「俺の知り合いと、元秘書...」
小声で言い返した。
「ハツカネズミの人工フレンズ、どうだ?赤坂博士が作ったんだ」
トレードマークの顎髭を触りながら本郷は言った。
「あの爺さん、まだ生きてたのか」
「だけど、鳥のフレンズにやられたみたいだ。あんな体で、よくやるよ」
「博士達...!」
「ともかく、コイツの紹介でもしようか。ネズミ目ネズミ科のハツカネズミの...、フレンズだ」
「これが?俺にはドラクエのモンスターにしか見えないがな...」
「なんでも言ってろ。我々は忙しいので失礼するよ」
「元社長の元気なお顔が見れて良かったです。ご健闘を祈ります」
2人は頭を下げ、退出した。
「顔見に来ただけかよ...」
サーバルは身構えた。
「同じフレンズを倒すのは、
気が引けるけど...、
かばんちゃんの為...」
ハツカネズミは唸り声を上げる。
(生き物を無理矢理不完全なフレンズにしやがって...、俺の思ってるのと完全に違ってるじゃねえか...。アレを倒すには...)
「サーバル...、アイツ...いや、彼女には悪いが血を出させるんだ。SSを排出させて元に戻すしかない。
それが...、最善だろ」
日比谷は一旦後ろに身を引いて、腕を組んだ。
「....」
複雑感情がサーバルの中で渦巻いていた。
そして...
「...友情か。それが、お前を駆り立てるのか?」
「それが...、はっ、悪い...?」
「...ケモノ臭いのが、...嫌なんだよ。
俺は女だろうが子供だろうが、気に入らないものは...」
スッ、と自身の頬を何かが掠った。
微かな痛みを感じる。
「狩り尽くす...」
鋭く、暗い視線を向けた。
「ふーん...」
舐めたかのような口調。
足元に落ちた、銀色のモノを取り上げた。その動きは冷静だった。
「これで“切った”んだね」
「お前に...何が出来る...雑魚が」
(友人の為に、命を捧げる)
「フェネッ...、ク....」
「三幹部の一人、
そのちっぽけな友情を見せてくれよ。
砂漠のキツネさん...」
上野は足を組みモニターを見つめた。
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