第11話 知恵
「博士!!」
「こんな問題わかるわけないじゃないですか!!」
もう腰の辺りまで水が迫って来ている。
「...チッ」
助手は舌打ちした。
「博士は賢いんじゃないんですか」
「...」
「こんな問題も解けないんですか。
冷静になってください。
一人で、全部、抱え込まないでくださいよ...。一人で無理なら、二人です」
「まだ諦めるのには早いのです
さっさと解いてロックを解除しましょう」
2人を密室へ誘導し、閉じ込め、
水責め状態にしたのは上野の秘書新木場と赤坂博士だった。
「もう10分が経過しておる。後5分で
彼女らは水の底だ」
「やる事が卑劣ですね。赤坂博士」
「手伝ってくれてありがとな。
ああいう科学者気取りは好かんもんで。
ワシの作り上げたセキュリティシステムを解除することなど出来ないに決まってる。ところでどうしてこちらに?」
「赤坂博士に研究資料を持ってこいと、社長に言われまして」
「それなら、USBにデータが入っておる。持ってけ」
後ろを振り向いてPCを指さした。
助手の手を借りずに解こうとした博士は1度冷静になり、問題に向き合った。
「先輩...!」
右腕を押さえる。
ヒグマに駆け寄る。
「リカオン...、
こいつはあのヘラジカじゃない...」
鹿の角を模した両手武器を構える。
自身も武器で応戦したが、その素早い動きは戦闘慣れした彼女でも苦戦し、
大きなダメージを負ってしまった。
「もうこの子は君たちを友達として
認識するような存在じゃない...。
ただ敵を撲滅するだけのロボット」
白衣を着て長い髪を束ねた横山藍那は
嘲笑うように微笑んだ。
「楽に剥製になるか...、それとも...」
(このままじゃまずい...!
ヒグマ先輩を守らないと...)
ゴクリと唾を飲み込んだ。
リカオンが選んだ手段。
それは...
「野生解放...?サンドスターが勿体ないんじゃない?バカなの?」
「バカはどっちか...、結果を見てから言ってください!」
「まあいいわ...
ヘラジカ、倒しなさい」
ヘラジカは武器を構える。
(狙うのは...)
リカオンは意を決し、前進した。
同じくヘラジカも攻撃に出る。
(...!)
その一瞬の隙を見逃さなかった。
振りかざしたところを姿勢を低くし、
四足の状態で駆け抜けた。
「なっ...!」
そしてリカオンは後ろに居た藍那の右のポケットの辺りを切り裂いたのだった。
ビリッという音と共に、
「ああっ!!」という彼女の声がした。
咄嗟に右手で引き裂き、中に入っていた物を握り潰した。
「...何を動揺してるんですか。
さっさとヘラジカに私を攻撃しろと
命令すればいいのに」
「.....」
「聞こえてないつもりだったんでしょうけど、聞こえていたんですよね。
この空間に誘導された時から、耳に着く不快な音が...」
「...あ、あれ...、ここは...」
「ヘ、ヘラジカ?」
ヒグマはヘラジカを見上げた。
「私とヘラジカだけ聞こえていたみたいですね。この音」
「くっ...」
逃げようとした彼女の腕を掴んだ。
「ちゃんと...、落とし前をつけてください。フレンズにも出来るんだから、
ヒトだって出来るでしょう」
と言って、前の方を指さした。
「記憶に残ってないとしても...
申し訳ない事をしたな...」
「いや、リカオンの為になったことだし...。アンタもそれほど本気じゃなかったろ...。すぐ直るさ」
「....」
「...藍那さん」
ヒグマとヘラジカも、目線を向けた。
「...ごめんなさい
薬の開発を...、妨げたくは無かっただけなの」
「薬...?」
リカオンは小さく呟いた。
「私の両親は疫病で亡くなった。
小さい弟と二人きりになって...
疫病を治す薬をここで開発すると聞いて、入る事にした。私は脳の研究担当だけど...、その薬の臨床試験の該当者に選ばれたの」
「臨床って何なんだ?」
ヘラジカが正直に尋ねた。
「最初に薬を使う人...」
「えっ」
ヒグマも思わず声を漏らした。
「両親が死んだのとは微妙にモノが違うけど...、まあそれに近い奴に感染してるってこと。空気感染型が変異しただとか何とか言ってたけど」
短く息を吐いた。
「だから、あなた達にこうやって攻め込まれて、薬の開発が遅れれば影響出るからって上野さんに言われた通りに動いただけよ...」
「なあ、ライオンは何処にいる」
「ライオン?彼女は...」
ガッシャーン
フロアに音が響き、硝子がキラキラと
飛散した。
「せ、先生!!」
「ハァ...グッ...」
息を乱す。
「まさか...、猫に犬がここまで...
苦戦させられるとはね...」
ライオンに圧倒的に責めいられた。
サンドスターの消耗も激しく、疲労も溜まってきた。
「お前...、狩る...」
(しかし...、何だ。
アイツに近づくたびに蚊の羽音みたいな不快音が、耳障りなんだ...)
自身の耳を触りながら、不審点を思い出した。
「先生!!私が戦います...!」
「アミメ...?」
「もう、先生のそんなお姿見たくありません...。無事に帰って、先生に漫画を書いてもらいたいんです!」
「...凛々しい君の表情は初めてだ。
いいか、アミメ」
「何ですか...?」
自身のネクタイを触りながら、
(おそらくは...)
「ここを狙え...!」
彼女が理解しているかわからないが
コクリと頷くと、徐に預けたサングラスをかけた。
「先生...!このアミメキリンが...
渾身のスゴ技を見せちゃいますよ!」
「あはは...」
(なんだ渾身のスゴ技って...)
「誰でも...、狩る...!」
ライオンは牙を剥き出しにし、アミメキリンに襲いかかった。
(先生の頑張りを無駄にはしませんよ!)
ギリギリまでライオンを引き付ける。
潜在意識の深根にある、野生の力を久しく解き放った。
「ここよっ!!」
右脚を上げ、先程タイリクが示した場所を思い切り蹴った。
目の前の獲物を捕獲しようとしか目論んでいない彼女はそのまま直進してきた。
「ぐふっ!?」
強く蹴り飛ばされたライオンは後ろの方に飛んだ。
「アミメ...!!」
サングラスを外しタイリクを振り返って見た。
「ははっ...、中々良い脚じゃないか」
「そんな!いや、それ程でも...」
「うっ...」
声が聞こえた。
タイリクはキリンに肩を貸してもらい、立ち上がりライオンの様子を伺った。
「大丈夫か...?ライオン...」
「すごい...、腹の辺りが...、痛い」
「あっ...はは...はは...」
キリンは苦笑いをし続けた。
「...こうすれば!」
“ロックを解除しました”
「何ィ!?」
博士達は首ギリギリのところで、セキュリティシステムを解除した。
水が一気に排水溝に流れる。
(そ、そんなバカな...!
これが知られたらまずいぞ!
と、とりあえず自分の身だけでも...)
ドアに手をかけ、開けようとするが開かない。
「なぜだっ!?
あ、新木場のヤツめ...!!」
バンッと扉を突き破る音がした。
「島の長を殺しかけた罪は重いのです」
「タダで逃がす訳にはいかないのです」
「こんな小娘共にっ...」
じわりじわりと詰め寄られる。
(だがこんなこともあろうかと奥の手は
用意してある...。天才科学者を舐めるんじゃない...!)
白衣の内ポケットに手を入れる。
「助手、やることはわかってますね」
「もちろんです。博士」
助手の目の前には壁に追い詰められた赤坂がいる。
「くっ...くくっ...、こんなガキにやられてたまるかっ!!!!!」
唐辛子スプレーを助手に向けて放とうと腕を伸ばした瞬間ガッチリと腕を掴まれた。
「んっ...」
「我々をただの小娘だのガキだの見くびらないでください。特に私に限っては、鳥を狩る程の力を持つことはご存知では?」
「い...痛たたたたたっ!」
ツメが腕に食い込む感覚がした。
カランとスプレー缶が手から落ちた。
バンッ!バンッ!と音も聞こえる。
「な、何しとるんじゃ...!!」
博士はこの部屋にあるPCやら機械を破壊していた。
「こうするのがあなたにとってのお仕置きです」
助手は冷たく言い放った。
(ち、畜生めが...!)
だが年老いた身体ではどうにかすることも出来なかった。
「チッ...、どいつもこいつも。
獣の一匹も捕まえられないのか。
無能共め...」
上野は懐から携帯を取り出した。
「D区画、前社長とサーバルのいる区画にアレを放て」
電話の相手は酷く焦った様子だった。
『え、まずいですよ!まだ人工フレンズの検証が不完全です!こっちまで害が及ぶかもしれ』
「うるさい!!社長の命令だ!!
つべこべ言わず注入しろ!」
突然の怒号に相手は怯んだ。
『わ、わかりました!今から10分以内に...』
「それじゃ遅い。5分でやれ...」
『は、はい!』
電話を切った。
「かばん...、やる事はわかってるな」
「サーバルを....、狩る...」
カチャッ
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