第10話 蜂起
夜になり仕方なく家へ帰宅した日比谷は酒を飲んでベッドで寝た。23時の事である。1日でがばんが来て、社長を降ろされ、24時間に色々なことが起こりすぎて何が何だか自分でもよくわからなかった。
そして翌日の午前6時30分頃...
携帯が鳴り起こされた。
嫌々起き上がり、電話を取った。
「...もしもし。元社長の日比谷だ。
ハァーッ...」
大欠伸が出てしまった。
「もしもし、初めまして。自分、NTC環境研究所生物研究部研究長の板橋と申します」
「はぁ...。俺は社長じゃない。
上野か渋谷に電話をしろ...」
「あっ、待って下さい!日比谷さんにしかご協力出来ないことなんです。
今から車で、今から言う場所に来てくれませんか?フレンズを連れてきたんです」
その言葉で目が覚めた。
「フ、フレンズ!?」
朝日が登りきった7時30分頃。
海岸にたどり着いた。
機械の天才森下が作り上げた高速船の
威力は伊達じゃなかった。
「ここが本土なのかー!!すごいのだ!」
一番最初に降り立ったのはせっかちな
アライさんだった。
「まあー、落ち着きなよアライさん」
そんなアライさんをフェネックは諭す。
「ここが決戦の地ですね」
「さっさとフレンズを解放して、お寿司を食べるのです」
博士と助手は意気込んでいた。
「先生...、気分の方は...」
「だ、大丈夫だ...。戦う前に
やられちゃ困るだろう...」
キリンはタイリクを気遣ったが、やはり
船酔いのダメージを少なからず受けていた。
それを横目に
「ハンターに任せておけばいいのに...
これで戦えるのか...」
嫌味をヒグマは言った。
「なんでタイリクさんと張り合うんですか...。あっ、もしや助けられたのが」
咄嗟にリカオンの口を塞いだ。
「うるさいっ!」
(かばんちゃん...、今助けに行くからね...)
サーバルはしっかりとその地面を踏みしめた。
「ふぅ...。無事着いたけど...。
日比谷さん来てくれるか...?」
板橋がキョロキョロと見回すと、
「おーい!板橋!」
スーツを着たまま砂浜を走って来た。
「日比谷さん!」
「ハァッ...、車を用意した。
上の駐車場に止めてある」
「ありがとうございます。私も妻に頼んで用意しました」
「これから本社に乗り込むんだな」
「ええ...、長い一日になりそうです」
「時間がもったいない。行くぞ」
「はい!」
「お目覚めかな?かばん」
「...はい」
「朝食を取るといい。
案内しよう」
生気を失くした虚ろな目をそっと隠すように肯いた。
板橋と日比谷は本社近くの駐車場に車を止めて、作戦を説明した。
「いいか。ヒグマとリカオンは、ここ。
んで、博士達はここだ...」
研究所の地図にマーカーを付けながら目指すべき場所を指示した。
「俺とサーバルは一刻も早くかばんを救い出す。なるべく戦闘は避けるべく、人が少ない9時頃突入する」
腕時計を見ると8時40分。あと20分程だ。
「各組2人ずつ、異なった入口から潜入してくれ。では、各自用意しろ」
タイリクとキリンは北側
博士と助手は西側
南側の正面からは、ヒグマ達とフェネック達
そして、1番警備が手薄な東側には板橋と日比谷、サーバルを配置した。
欠点といえば、互いに連絡が取れないことだが無線機を持ち合わせていないので仕方がない。
時間の測り方は各自の体内時計に任せた。だから9時頃と言った。
上野が何も手を打たないとは考えていない。今こうしている間にも見られているかもしれない。
北側入口に配置されたタイリクとキリンはセキュリティルームの奪還を命じられた。
「先生、本当に大丈夫ですか?」
「いや...」
車でも少し気分を悪くした。
サングラスの間から焦った目を覗かせる。
「でも、私らがやらないと、ここに来た意味が無くなる...」
「無理しないでくださいよ!」
「ああ...」
すると、板橋が走って来た。
「君たち、開けるぞ」
指紋認証式のドア。このドアが開けるのは彼しかいない。破壊してもいいのだが目立つので順番に開けてもらうことにしたのだ。
「行くよ!」
「はいっ!」
中に突入した。
曲がり角を曲がるとそこには武装した
職員や警備員。上野が雇ったのだろう。
「久しぶりに...、
身体を動かせそうだ...」
サングラスの向こうの目を光らせた。
「お前は後ろからついて来い...」
「は、はい...」
「行けっ!」
誰かの声と共に一斉に攻撃が行われる。
地獄のような通路をタイリクは風のように駆け抜けた。
そして、時間差で。
「...!」
バタリバタリと人が倒れたのだった。
その後をキリンは必死で追った。
3階にあるセキュリティルームを目指した。
階段の手前、滝のように職員が駆け下りてくる。それをタイリクは最低限の人数だけ処理し、3階を目指した。
3階にたどり着くと電気は付いていない。薄暗い廊下が広がっている。
左側はテーブルと椅子。だが右はガラス張り。その向こうには図書館で見た本棚がある。
そんな空間を過ぎると大きな広場のような場所。ソファーが設置されている。
奥には大きなガラス窓と左右に別れる通路。
職員のいないこの空間をタイリクはとても警戒していた。
雰囲気に飲まれキリンも言葉が出ない。
絨毯のような床を歩くと足を止めた。
右腕をキリンの前に出す。
「待って...」
「えっ...」
その時だった。
バリーンと、大きな音がし正面の窓ガラスが粉々に砕け散った。
怪しく目を黄色に光らす。
その正体は直ぐにわかった。
「...随分と派手な登場だね」
「お前を排除する...」
「それしか言えないのか」
直ぐにそれがどのような状況であるか、察しがついた。
サングラスを外し、その姿をはっきりと見る。
「あなた...、ヤギね」
「ライオンだよ...」
と、キリンと恒例のやり取りを行う。
「うるさい...。お前ら...、狩る...」
粉砕したガラスの上でしゃがみ、睨みつける。野生動物みたいだ。
「キリン、ここは私がやる。君は下がってるんだ」
「でも...」
「心配するな」
サングラスを彼女に渡した。
頷いてから、2人から離れた場所に移動した。
そして、タイリクとライオンは対峙しあった。
「...目を覚ましてあげるよ」
「アイナ様の...、命令は絶対...」
ライオンは、タイリクに向かって行った。
「馬鹿なヤツらだ。勝ってこないさ」
大量の監視カメラの映像を見ながら上野は呟いた。
「ここでヤツらを全員捉えてオークションで売り捌いてやる...。日比谷、お前の足掻きが無駄だって事、証明してやるよ!
なあ、かばん」
「上野さんが...、勝ちますよ。
フレンズさんが、勝てるわけない...。
みんな檻の中です...」
虚ろな目で見つめていた先は、サーバルの映像。
彼女は自然と唇を噛み締めていた。
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