第9話 危機

俺とした事が誤算だった。

かばんが...、上野に...




遡る事3時間前、かばんの提案でNTC環境研究所に向かった。入口は全て指紋認証で開く仕組みだ。自身の指紋データは上野に消されてる。隠れる場所がある入口で人が来るのを待った。


職員がやって来たので、その後について行った。


しかし、それがダメだった。


扉の向こうには、黒いスーツを着たイカつい奴らが何人もいた。


俺とかばんはそいつらに引き離された。


そして、俺は研究所の外につまみ出された。


(俺はこれからどうすればいいんだ...)






「モーターを取り付けた。これで多少は早く向こうへ着けるはずだ。手伝ってくれてありがとう、キタちゃん」


キタキツネとすっかり仲良くなった板橋は工具を片付けながら言った。


「お疲れ様」


彼女も労いの言葉を掛けた。


「さて、これから本土に何人か行かないとな…。定員は10人くらいか」


渋谷はそう言った見積もりを立てた。


「じゃあ誰が本土に行くか決めないとですね」


博士は集まったフレンズを見た。


「私は絶対行くよ…、かばんちゃんを連れ戻すから」


サーバルが名乗りを上げた。


「アライさんも行ってみたいのだ!

フェネックも来るのだ!」


「あっ?うん...」


「島の長として我々も」


助手が言った。


「これで5人ですか...」


「ヘラジカやライオン達はいないのかい...?」


タイリクが尋ねる。


「本部から連絡があったけど、捕まえたらしいわ」


森下が耳打ちした。


「アイツらが相手した奴って...

とんでもねえ奴だな...」


ヒグマは小声で呟いた。


「ヘラジカ達が居なければ、タイリクとヒグマも一緒に来なよ」


フェネックがそう口にした。


「私は先生にお供しますよ!」


キリンはタイリクと一緒に行くみたいだ。


「リカオン、機械が詳しいあなたなら役に立つはずよ。私の代わりにヒグマさんと一緒に行ってきてくれない?」


キンシコウはそう持ちかけた。


「オ、オーダーきついですけど...

先輩の頼みなら...」


「これで9人ですね。

あとは職員を誰か...」



「馬込は先に帰ったんだよな」


「そういえば月島さんは?」


がやがやと後ろの方で職員たちが話し合う声が聞こえた。


「ここは体力のある森下さんがいいんじゃんですかね?」


板橋は考えを伝える。


「あのー、取り敢えず乗ってみて確かめたらどうかな」


ジャガーの提案に満場一致で同意し、海へ向かった。






一方その頃...

第1研究室。


両手両足が拘束されて動けない。


「くっ...」


僕は今まさに実験をされようとしていた。血を採血された。

必死に抵抗したが、僕じゃ力不足だ。


(サーバルちゃん...)


何人かの研究員がかばんのデータを解析していた。


(他のフレンズのサンプルとまるっきり違う...)


NTCの通称三幹部の1人でこの研究所に研究員としても勤めている、色黒で顎髭を伸ばしている本郷は採血データをじっと観察していた。


(SSの量をコントロールできる...?

人間とフレンズのハーフ...

何にせよ研究する価値はある)


「データを第3研究室まで運んでこい」


「は、はい」


本郷は廊下に出た。


「あら、本郷さん!」


「なんだ。横山か...」


「あのヒトのフレンズの担当ですよね。私の所にも回ってきませんかね...」


口惜しそうに言った。


「調べる事が山ほどある。上野さんがオッケーを出さない限り君の所へは回ってこない。ところでなんだ。その後ろのフレンズは」


「ライオンとヘラジカですよ。

私が手塩にかけて洗脳したんですから。

今はテスト中です。まあ、成功と言って間違いないですね。彼女達は完璧に私たちの仲間ですよ」


「お前の研究は怖いな」


軽く笑いを飛ばし本郷は去っていった。


「上野さんにも見せてあーげよ!」


「...」


「...」


横山の後ろを黙って2人はついて行った。






「うーん...、かなりギリギリだね」


ジャガーは腕を組みそう言った。

船にはフレンズ9人。

サーバル、フェネック、アライさん、

博士、助手、タイリク、キリン、ヒグマ、そしてリカオンだ。


「板橋」


「何ですか森下さん?」


「アナタが行きなさい」


「どういうことですか?」


「ワタシは目立ち過ぎるし、アナタの方が小柄だから何かと小回りが利きそうじゃない。所長もそう思うでしょう」


「あ...、まあ...」


曖昧な返事を渋谷は返した。


「クマちゃんとオオカミちゃんと離れるのはちょっと心細いけど、あなた達の強さはワタシが身を持って知ってるから」


「とにかく、研究所に行ってかばんやフレンズ達を取り戻す...。

わかりましたよ、やりますよ...」


渋々了承した。


「頑張ってね」


「頑張ってくるよ...

ラスボス倒しに行ってくる」


キタキツネにそう声をかけ船に乗り込んだ。


そしてエンジンを掛け、本土を目指した。


「はあ...、やっと着いた...。

し、渋谷所長...」


「月島...!」


顔色から疲労困憊なことが伺えた。


「あのトムソンなんとかってやつが...歩けって...、死ぬかと...」


「あら、アナタはあの時の...」


カバと目が合う。


「あぁぁぁ....」


「リ、リーダー!?」


月島は気を失った。





船の上では...


「ここからサンドスターの空気が薄くなる。これをみんな飲んでくれ」


カプセル状のモノを全員に渡した。


「それを飲み込めば24時間は大丈夫な筈だ。それから向こうに着いたら、

目立つような行動は控えろ。いいな

指定の場所に船を止めてそしてそこから、車で移動だ。俺が手配しておく。

以上だ...」



「だってさー、アライさん。目立つようなことしちゃダメだよー?」


「大丈夫なのだ。アライさんはそこら辺バッチリなのだ!」


(不安だなぁ...)


「せ、先生!」


キリンはタイリクの背中を摩っていた。

船酔いしたのだ。


「だいじょ...キリン...」


「情けないな...。来ない方が良かったんじゃないのか?」


ヒグマはそう言った。


「う、うるさいな...、君の顔面に吐いてやろうか...」


「やめてくださいよホントに...」


リカオンが困った顔をしていた。


「博士、この戦いが終わったら向こうの美味しい物を食べましょう」


「勿論です。助手。向こうの美味しい物でお祝いするのです」


(かばんちゃん...待っててね。

必ず助け出してみせるから...)





第八研究室...


「おい赤坂、

例の人工フレンズはどうなっている」


「社長...、そう慌てなさんな。

今いい所まで来とる。ホワイトマウスのフレンズを生成しようと思ってな。

それでー、SSが遺伝子構造に与える影響について確認してたんじゃ」


「なるべく早めにやってくれ。

私はサンプルが欲しい」


「わかりましたぞ!では、早急に」


「よろしく」


研究室を出ると、携帯が鳴った。


「もしもし...、ああ...。なるほど、

了解した。では、横山に回しとけ。彼女はアイツの頭を制御したがってるからな。はい、そう伝えろ。じゃ」





こわいよ…

サーバルちゃん...

いろんなものをカラダにつけられたし、

痛い注射もされた...

だれか...





「あら〜、本郷さんまた引きこもってたの?」


「どうした。お前が何でここにいる」


「たまたま通りかかったの。

聞いてよ、私あの黒髪少女を洗脳してもイイって言われたんですよ!誰でしたっけー...。回ってこないって言ってた人」


本郷を嘲るような目で見た。


「...」


「じゃ、行ってきますね」


彼女は去って行った。




僕は拘束されたまま移動させられた。


ある部屋に入れと言われ僕は入った。


(ふふっ...怯えた顔てるじゃない...

だけど今からお姉さんがその不安を消し去ってあげるからね...かばんちゃん)


「こんにちは。私は横山、よろしく。

かばんちゃんにはちょっと怖かったよね。ごめんね」


マイク越しに優しい声で語りかける。


「かばんちゃん、言いたいことあったら、全部ウチに吐き出してみ?」


久々の関西弁を織り交ぜる。

それと同時に、右手であるボタンを押す。


「...僕は...はやくみんなと会いたい

…、サーバルちゃんや...、島のみんなに...」


涙ながらに話した。


「みんなに会いたければ、ウチらを信じるんや。そうすればかばんちゃん。

幸せになるで、きっと願いも叶えられるはずや!」


「うっ...」


胡散臭いかもしれないが、人の弱みにつけ込むだけで、ヒトと言うのは簡単に操られてしまう。


「かばんちゃんは強い子やて!

泣かんといて?ほな、ウチら手伝ってくれたら、絶対いい事あるから!な?

上野さんやって、人の子やもん。

優しい心を持っとるから!」


宗教などが成立する理由も何となくわかったんじゃないだろうか。


「...僕は...、僕は...」


横山は口元を緩めた。


「何でも言うこと聞きます...

ぐすっ...だから...、みんなに...」


(ほら、不安な気持ちを抱えた人間は、

墜ちやすいのよ...)


洗脳されてしまったかばん。

そして、本土へ急ぐサーバル達。


果たして、けもの達の未来は。

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