第8話 前進

「うわぁ!」


「あっ!」


ドスッ、ドスッ


「な、何の音でありますか!?」


「て、敵襲っすか!!」


ビーバーとプレーリーが慌てて駆けつけるとそこに居たのは、


「いたた...」


「大丈夫?ジャガーちゃん...」


ジャガーとコツメカワウソだった。


「ああ、申し訳ないであります...

地下の隠れ家に間違って落ちるなんて

想定してなかったであります...」


「いや...、落ちる方も落ちる方で悪いんだけど...」


ジャガーは気恥しそうに頭の後ろを掻い

た。


「ところでお二人は何しに来たんっすか?」


「えっとね...、ジャガーちゃんが

海の向こうに行くんだったら、ふねが必要だって言って、自分がいれば力になれると思って...」


カワウソは時々手でジェスチャーを交えながら説明した。


「そう...。かばんはセルリアンを倒した後、海の向こうに行きたいって話してて...」


「あっ、思い出したっす!」


ビーバーは手を叩いた。


「バスを改造することになったんすよね」


ジャガーは頷いて話を進めた。


「うん、で、バスにはボスがいないとダメでしょ。だから、自分たちで動く力

を手に入れないとダメだと思って」


「それならいい考えがあるっす!

興味本位で船のことについて調べたっす」


ビーバーは土で絵を描き始めた。


「水をこぐオール、風を受ける帆、

そして水に浮く本体があれば、船はそれで完成っす!」


「そうだ!みんなで作ろう!船を!」


カワウソは唐突に言い出す。

しかし、ここで迷ってる暇はない。

噂によるとかばんも連れ去られた。


「職員に見つからないように動くであります...!」


「ヒトは夜に寝る。かばんから聞いた。

夜に作業をしよう」


ジャガーの提案に頷いて答えた。





一夜明けた図書館では...

フレンズが思った以上に抵抗し、捕獲が難航しているという情報を聞き、渋谷は

イライラしていた。


(もしこれでフレンズをノルマ以上に捕獲出来れば副社長に任命するって言ったのに...。逃がされるってどういう事だ...!)


「この図書館に来た奴を片っ端から捕まえるっ!」


渋谷は一睡もせず、すぐに指示が出来る体制を取った。




「博士、もうすぐ図書館です」


「明け方なので人の警備が薄いハズなのです!」


博士に抱き抱えられたサーバルは下を見下ろす。

この奇襲作戦はサーバルが考えた物だった。ヒトであるかばんと側にいたからこそ、その習性を熟知していた。


「ふあぁー...、まだ朝4時だぜ...

こんな時間からなんか来る訳ないって...、こんなとこ入るんじゃなかったよ全く...」


愚痴を零す職員は双眼鏡で上空の見張りをしていた。


「鳥が2匹飛んでるだけだし...」


そこでふと疑問に思う。


(鳥...?)


再度双眼鏡を覗き込む。


「.....フレンズだ!」


急いで渋谷に連絡を入れた。


「渋谷さん、南東の方向からフレンズが...」


「全員起きろっ!!!」


渋谷は大声で無線機に叫んだ。


「捕獲体制を取れっ!!!」


(なんだよこのオッサン!?うるせえよ!)



図書館は職員のキャンプとしても利用されていた。

中から職員が忙しなく出入りを繰り返す。


「ッチ、動きが早いヤツらなのです」


博士が舌打ちをした。


「博士、降ろして!」


「サーバル?」


「いいから!」



図書館の敷地に降り立つと数十人の職員に囲まれる。


「そっちから来てくれるとは。

しかも、あのヒトのフレンズといた

子もいるじゃないか」


渋谷はサーバルに向かって言った。


「かばんちゃんを返して」


力強い声で訴えた。


「じゃあ合わせてやる大人しく捕まれ!」


「かばんを溺愛しすぎなのです」


「手間がかかりますね」


博士と助手はそう言って、高く飛び上がった。


放たれる麻酔。高くジャンプする。

彼女は大胆にも、職員に向かって特攻したのだった。


かばんを取り戻したいサーバルは必死だった。感情を爆発させ、容赦なく殴りかかる。外から見ればやり過ぎかもしれないが、今の彼女はそんなこと眼中に無かった。



「やっとたどり着いたのだ!」


「もう始まってるねー...」


「二人とも気を抜かないでね」




「おい!仲間が来てるぞ!あっちも何とかしろ!」


渋谷の声でサーバルが振り向くと、

フェネックとアライさん、カバが立っていた。

助太刀に来てくれたのだ。


戦闘は激しさを増した。

電流棒やガスまで持ち出してくる。


しかし、カバや助手には効き目が殆ど無かった。


力に自信の無い、フェネックとアライさんは連携して対処していた。

不足している部分をお互いに補い合い、

フェネックはその聴覚と小柄な体で避けつつ指示を出し、野生解放したアライさ

んが攻撃をしていた。


一方、博士は上空である物を見つけ、呆然としていた。それに気付いた助手が

声を掛ける。


「博士、何をボーッとしてるのですか!さっさと倒すのです」


「あ、あれを見てください...」


博士は指を差した。

その方向を助手も見た。


「...そ、そんなまさか!」



地上では、板橋と二人の部下が図書館に到着したが、その様子をみて図書館の物陰に隠れていた。


「や、やべえな...。これじゃ渋谷さんに言いたいことも言えないぞ...」


「このタイミングで出たら僕達も巻き添え喰らいますよ」


「どうするんですか?」


「どうするって...言われても...」




「みんな一回ストップ!ストップなのです!!」


「戦いをやめるのです!!!!!」


博士と助手がただならぬ様子で、

大声で叫んだ。


流石の職員達も手を止める。

フレンズも同様に上を見上げる。


「なんだ?」


渋谷も唐突なことに状況が理解できない。



「港の方から、セルリアンが来てるのです!!」


「しかも、速度が早い!!」



「博士、助手」


サーバルは二人を呼びつけた。


「早く何とかしないと...」


博士が焦った口調でサーバルに話そうとすると、彼女は笑った。


「セルリアンにあの人達をたべさせればいいじゃん」


「な、何を言ってるのです」


助手は思いがけない返答に驚く。


「どうせ人間がセルリアンに食べられても人間だし、意味無いじゃん。そっちの方が楽になるでしょ。それにあの人達にもお灸をすえてやったほうがいいよ」


「で、ですが...」


「何?博士たちは仲間を連れ去った悪い連中を庇うわけ?」


鋭い目線を向ける。


「ねえ、アライさん、フェネック」


サーバルは二人にも意見を求めた。


「アライさんは死にかけたのだ。

怖い思いをしたのだ。サーバルの言う通りなのだ」


「...うーん」


アライさんはハッキリと断言したがフェネックは悩ましい様子だった。



一方、渋谷達はセルリアンについて調べていた。


「無機物がサンドスターに当たると、現れる、サンドスターを吸い取り元の動物に戻してしまうみたいです」


「という事は彼女達が元の動物に戻るということか?」


「ええ、恐らくは」


「商品価値が無くなるじゃないか!」


「そ、そんなこと言われましても...」




「私はセルリアンを倒しますよ」


「カバ...」


サーバルは彼女の名を口にした。


「セルリアンが原因でヒトがここから

いなくなった。セルリアンは私達にも害を及ぼす。今戦うのはヒト達ではなく、セルリアンなんじゃないかしら」


そう言うと、サーバルはすぐに反論した。


「カバだって、危険な目にあったじゃん!それなのに肩を持つの?どうかしてるよ。もういいよ。私はセルリアンを守るから」


「は、はあ!?」


助手は驚きを禁じえなかった。


「こんな事で仲間割れしてどうするのですか!さっきも言ったでしょ!物凄い速さで来るって...」


ゴゴゴゴッ...


森の方から不穏な音が聞こえた。


そして、その怪物が姿を現したのだ。


「で...、デカいのです...」


博士は息を飲んだ。


蛇のような姿をしたセルリアンは

図書館をも超えるような大きさだった。



「あ、あれが...、セルリアン!?」


渋谷も目を丸くした。


「た、倒すのですっ!」


飛び上がろうとした博士の足をサーバルは掴んだ。


「ヒトを倒してもらうんだよっ!邪魔しないで!」


バシッ


鋭い音が響いた。


後ろに倒れたサーバルは頬を手で抑えた。


「....」


あのアライさんも黙り込んでしまった。



「サーバル」


倒れ込むサーバルを見下ろしたのはカバだった。



「のけ者はいない。それがこのパークの掟なのよ」


「....」


威圧されたように、言葉が出てこなかった。




ボカーン!



刹那に響き渡った爆発音に一斉に注目が集まる。


セルリアンは大きな胴体を地面に打ち付けた。



「行くぞ、ヒグマ!」


「体壊すなよ!タイリク!」


二人は、助走を付けそのセルリアンに向かって飛び上がり、背中を確認する。


(石は3つ!!)


アイコンタクトを取り、背中にある左右の石を熊手と爪で破壊した。


そして、上空から...


「オラァッ!!」



渋谷は驚く。


「あ、アイツは...、も、森下!?」




森下は何と鍛えたその拳で、石を砕いた。




「ハァ...、重かったけど、凄いパワーね...」


「敵には回したくないんですけど...」


トキとショウジョウトキは安堵の息を出す。


二人は森の中で森下達と合流した。

トキ達がセルリアンを発見し、咄嗟にこの作戦を思い付いたのだった。


元の動物に戻る事を知った森下は“そんなことはさせない、呉越同舟だ”と

言い、自ら倒す事を宣言したのだった。



「グォオオオオオオ...」


石を3つ砕かれたセルリアンは雄叫びを上げる。再び起き上がる。



「リカオン、首元に石が!」


「わかってますよ!キンシコウ先輩!

離れてください!」


リカオンはレバーを引き、照準を石に定める。

スイッチを押し、完全にライドアーマーをコントロールする。


しかし、セルリアンも細い体をくねらせる。


「...止まってくれないと撃てないっ!」



「ああ...もう、どうなってんだよ...」


混乱する板橋の肩をトントンと叩いた。

振り返ると...


「一緒に倒そ」


「さっさとこのホースを持って!」


キタキツネとギンギツネだ。


「なんでここに...」


「説明は後!セルリアンは水で動きが固まる!」


太いホースを持たされた。


「お前ら、パークの危機だ!

目の前に上司だろうが関係ねえっ!!

行くぞっ!!」


「「了解!!」」


セルリアンは尻尾で渋谷が設営した施設を破壊する。

クネクネと細い体をうねらせる。


「ひえええっ!!」


渋谷や職員は逃げ出し、距離をとる。


セルリアンに向かい板橋とキタキツネが放水したのだった。


「行くぞ!!我が同士!!」


「もちろんだよっ!!」


雨のようになった水がセルリアンに

向かって水が掛かる。


「グゥオオオオオオオ....!!」



(今だっ...!!)



「システムオールクリーン!

凝縮率100パーセント!

テクノバースト、発射!!」



オレンジ色のビームがセルリアンに向かって放たれた。



ボカーン!!



黒煙が辺りに充満した。

その合間から、キラキラとした物が見えた。


「やったのです!!」


博士が歓声をあげた。


「おっしゃ!!」


「ゲームクリア...!」


板橋とキタキツネはハイタッチして喜びを分かち合った。




「あの、大丈夫か?」


タイリクは森下に尋ねた。


「大丈夫も何も、あんなの瓦10枚分くらいの固さしかなかったから!」


(やべえ奴だな...)


ヒグマは改めてそう思った。


森下はヒグマとタイリクの肩を持ち、


「最高のチームじゃない!」


と意気揚々に言った。


(チームになったつもりはないけど...)


(ま、まぁ...、いいか...)





全てが一段落したところで、

渋谷は博士達に向かって


「申し訳ない...」


土下座して謝った。


「命を救ってもらうとは思わなかった...、君達がいなかったら今頃...」


「困った時はお互い様なのです。

戦いとか本来好きじゃありませんから」


博士は言った。


「まだ島にいるフレンズは全て解放するのですよ」


「は、はい!もちろん!」


助手の要求に即答した。


「ところで、島の外のフレンズはどうするの?」


トキは何体かのフレンズが島の外に行ったことを横山有馬から聞いていた。


「渋谷さん...、島に止めてあったヘリがないんですが...」


職員の一人が申し訳なさそうに言う。


「な、何故だ?」


「セルリアンは無機物から形成される。

先程のセルリアンはきっとヘリにサンドスターが当たったのかも知れませんね」


腕を組んだ博士が、そう言った。


「しかし、小規模ながらも、サンドスターは噴火しているんですね...

しかも、元あった形が大きく変わっている...。不思議なこともあるものです」


博士の横で助手が言った。


「どうやって島の外へ行くか考えないとですね...」


「私達も協力しよう。せめてものお詫びだ」


博士達と渋谷と職員達が図書館へ入っていった。




「あの...、さっきはごめん。

わたし、間違ってたね。かばんちゃんの事ばかり気を取られて....」


サーバルはカバに謝った。


「あなたの気持ちもわかる...

あなたが反省してくれれば、それでいいわ。こっちこそ、強く叩いてごめんなさいね」


「おかげで冷静になれたよ」


サーバルは恥ずかしさを隠すために笑った。






「おーい!博士ー!!」


ジャガー達が木で作った船を四人で担いで来たのだった。


「これは....!」


「船が必要かなって思ってさ...

ビーバー達と作ったんだけど...」


「ナイスです!ジャガー。これで救出に行けるのです...!」


ジャガー達の活躍もあり、いよいよ、

本土に行ったフレンズ達の救出作戦が始まろうとしていた。










(助け...て...、日比谷さ...ん...)

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