第6話 戦闘

「日比谷さん、どこ行くんですか?」


無駄に広い会社の中を、歩いていた。

僕一人だったら、絶対遭難しているであろう。


「俺の社長室は上野に取られてるだろう・・・。

もう一つの部屋に行く。何があるかわからない。

今後の事を考えないと・・・」


足早に、その部屋の扉を開けた。

そこだけ、指紋認証式ではなく鍵で開けるタイプだった。


部屋はワンルームだった。

机とベッドがある。

周りのハイテクな環境とは違い、なぜかそこだけ

時代が違うような。そんな空間だった。


「ここは、何の部屋なんですか・・・?」


「爺さんの研究室だ。日比谷 光春みつはる

父さんが辰巳、俺が和光かずみつだ。」


日比谷はその机の引き出しを探り、ある物を出した。


「あった・・・」


「それは?」


「爺さんは地質学者だった。サンドスターが噴火した時の

調査隊の一人だったんだ。調査の時、サンドスターを持ち帰った。

こっちに戻って薬学を研究していた親父と、共同で、

サンドスターを肺からではなく、体内から吸収できる薬を開発した。

それがこれだ。使い道が無いと思ってたけど、まさか使う日が来るとはね」


「日比谷さんが、サンドスターに詳しいのは光春さんのお陰だったんですね」


コクリと、肯いた。

ベッドに座り、錠剤の瓶を見つめた。


「爺さんは憑りつかれたかのようにサンドスターを死ぬまで研究し続けた。

だが、夢半ばで病に倒れ、親父にその研究託したんだが、丁度その時に

前に行った政府による情報統制があり、この会社にも立ち入りがあって殆どが破棄された。

まあ、それがなくても、親父はサンドスターなんぞに興味は無かっただろうけど。

俺は小さい時にこの部屋を見つけて、探索した。

それでサンドスターに関する資料を見つけ、地道に探し始めたんだ。長い道のりだったよ。砕けたガラス瓶を元に戻すみたいなね」


日比谷は、瓶からかばんに目線を変えた。


「何か袋みたいなのは持ってるか?」


「袋・・・」


鞄の中を探し、見つけた。


「貸してくれ」


瓶を開け、中身の錠剤を半分程その袋に移し替えた。


「まだ誰も使ったことが無いから、効果があるかどうかわからないけど、

これにサンドスターが含有されている事には間違いない。

サンドスターが希薄状態になったら、それを飲んでくれ」


「ありがとうございます...」


日比谷の顔はまだ暗いままだった。

重苦しい溜め息を吐いて、片手で顔を覆う。


「ここに来る途中考えてたんだがな、上野や親父の言う通りかもしれない」


「どういうことですか?」


「チケットを持たない客は何もできない」


僕は知っている言葉を選びつつ、話した。


「本当に・・・、僕たちには本当に・・・・

何もできないんですか?」


「相手は多くの部下を従えてる。金もあるし、武器もある

こっちにある物と言えば、爺さんの残した薬ぐらいだ」


「・・・、確か環境研究所には捕らえられたフレンズが居るんですよね。

僕たちで助けに行けませんか?」


「あそこは俺が肝いりで整備した施設だ。セキュリティも強固なんだぞ?

俺が社長の時ならともかく、いまあの施設は上野の手の中にある」


「でも・・・」


「・・・だよな。やって見なきゃわからない。君が言ったことだ。

やるだけやってみよう」


「きっと、島ではフレンズさんがきっと僕を助けに来るはずです・・・。

その為にも・・・。僕たちは僕たちに出来る事をしないと」


日比谷は立ち上がった。


「そうだな。善は急げだ」


「はい!」


僕たちは、その部屋を出た。






黄昏時、サンドスターの山の麓。


森下もりしたさん、豊作ですよ」


職員が揚々と報告した。


「当たり前じゃない!!NTC環境研究所機械工学研究部部長のワタシが

手掛けたマシンですものっ!!」



(・・・、森下さんの技術力は凄い。

海外でも高い評価を受けるほどだ。だけど・・・、

あの派手な紫色の髪と口調は何とかならないのか・・・?)





「ッチ、どうなってる?フレンズが一人も見当たらない...」


ヒグマは焦りを覚えた。いつもパトロールするこの地域。

フレンズの一人や二人軽く挨拶をしてくる物だがそれがない。

まるでゴーストタウンだ。


「さっきトキさんが言ってましたけど、白い服を着た人たちが全部

捕まえちゃったんじゃ・・・」


リカオンも未知なる相手に対し不安を抱いていた。


「その可能性もゼロじゃない・・・。この近くにいるかもしれませんね」


「私達が止めないとな・・・、キンシコウ」




望遠鏡を目に当てた森下はある物を見つけ、唐突に大声を出した。


「止めなさいっ!」


「どうしました?」


「・・・フッ」





「ん・・・?何だアレ?」


ヒグマの目の前に現れたのは音を立てず水平移動し、

こちらへ近寄るライドアーマーの様なもの・・・。


紫色の髪のヤツが乗っている。森下だ。


彼はレバーを引くと、アクションスターの如く地面に降り立ち、

全速力でこちらに来る。


「何だお前っ!?」



「ヒグマさん!」


「先輩!」


キンシコウと、リカオンは驚き、息を飲んだ。



「キャーッ!!!」


「うわっ!?」



更に驚くべきことに、彼は奇声を発しながらヒグマに抱き着いたのだ。


「気持ち悪っ!!!」


この状況は声をあげざる負えない。顔を青ざめながら、そう言った。


「な、な、なにしてるんですか!!」


その状況を見たリカオンは叫ぶ。


「そ、そうか・・・、森下さん・・・

職員の噂では部屋にテディベアを沢山飾るほどのクマ好きなんだよな・・・

そしてクマのフレンズ・・・。しかし・・・、まさか・・・」


職員はその様子を見ながら彼に幻滅した。


「は、離せよっ!!」


「コラ、ダメでしょ~・・・、暴れちゃ・・・」


ヒグマの耳元で、こう呟いた。


「ワタシのクマちゃん...」



「ひゃあああああッ!!!気持ち悪いっ!!!誰か助けろっ!!!ヴォエ!!」


ここまで恐怖心、いや、不快感を覚えたのは初めてだった。


「ヒグマさんっ!!今助けますっ!!」


キンシコウは、棒を構え森下に向かった。


片腕でガッチリとヒグマを抱えたまま、目つきを変える。


(コイツまさか私を抱えたままっ!?)


キンシコウは森下に棒を振り下ろす。

だがその攻撃は右手で完全に抑えられた。


「そんな棒で俺を倒せると思うのか・・・?」


(く、口調が変わった・・・!?)


職員はまた彼に驚かされた。


(そ、そう言えば、森下さんは空手の有段者っていう噂も・・・

なんなんだあの人は・・・!?)


棒を掴み、なんと片腕でキンシコウの身体もろとも宙に浮かせたのだ。


「えっ!?」


「キンシコウ先輩!!」



「オルァッ!!!」


そのまま棒もろとも彼女を遠くへ放り投げたのだ。


「きゃっ!!」



リカオンはすぐにキンシコウの影を追った。


(間に合えっ・・・!!)


腕を伸ばし、空から降って来たキンシコウを間一髪で受け止める。



「はぁ・・・」


「あ、ありがとう・・・」


「ヤバいですよ・・・!アイツ!セルリアンよりも凶悪ですっ・・・!」



「まさかこの私が力負けするなんて・・・」


キンシコウも悔しさを押さえきれない。



「あなたはコレクションとしてワタシの部屋に飾らせてもらうわっ!」


「クソッ!!こんな気持ち悪い奴と一緒なんて嫌だ!!!」


必死にもがくが、鎖に拘束されているが如く逃れられない。

噛みついたら何とかなりそうだが、コイツの肌にだけは噛みつきたくない。

力づくで引きずられる。


「助けてくれっ!!!」



大声を上げた刹那、何かが飛び上がった。



「何よ?」



「・・・ふっ」


森下の乗って来たマシンを飛び越え、彼の目の前に華麗に着地する。

ヒグマも後ろを振り返る。


「お、お前はっ・・・!」


サングラスを掛け、黒い服、グレーのスカート、紺色の髪に三角の耳。


「通りすがりの・・・、ライターさ・・・」


「ふうん・・・」


森下はやっと、ヒグマを解放した。



「はあぁ・・・(全身洗いたい気分だ・・・)」



眉間に皺を寄せた彼は、両手をポキポキと鳴らした。


「ワタシとクマちゃんのハッピータイムを邪魔しないでくれるかしら」


「ヒグマがいないと私達が困るんだ。だから邪魔しないでくれるかい?」



「あれはフレンズだよな・・・。つか、あの森下さんに勝とうだなんて無謀だ!

ラーメン屋の亭主に寿司を握れっていうのと同じだぞ!」


「いえ・・・、先生は・・・、絶対勝ちます」


その声で横を見ると、黄色いフレンズが居た。


「えっ?あ、あなたは??」


「通りすがりの・・・・、名探偵です!」


「め、名探偵・・・?」






「俺を倒せるとでも思ってんのか?」


「思ってるさ・・・」



森下は前触れも無く、拳を突き出した。

それを手のひらで受け止める。



「中々好戦的なんだね」


「俺は他人を助けるのが一番嫌いなんだ・・・。

女だろうが男だろうが・・・、特に友達を助けるヤツがなぁ・・・!!」



咄嗟に彼は左手を引く。素早く突き出す。

無駄のない、キレのある動きだ。


彼女はそれを見極めながら、避ける。




「あのフレンズって・・・」


「あのフレンズですよね・・・、先輩」


リカオンとキンシコウも遠くでその様子を見つめる。




彼女は一旦後ろに身を引き、しゃがんでから飛んだ。

彼の背後にを取る。


アクロバティックな動きをし、翻弄する。

だが、森下は驚くべきごとにその動きを読み、攻撃をしてくる。


一進一退の攻防が続く。



ヒグマはその戦いに見入っていた。


「ヒグマさん!」


キンシコウの声でハッと我に返る。


「いたぞ!」


遠くの方で声が聞こえる。

別の班が偶々合流したのだった。


「あ、あんなに沢山っ・・・、アイツを邪魔するわけにはいかないな」


立ち上がり、武器を持ち直した。


「ですけどヒグマさん、あの機械に乗ってますよ。

私達が勝てるかどうか・・・」


「先輩!機械には機械をぶつければいいんですよ!」


二人の目の前に現れたのはライドアーマーに乗ったリカオンだった。


「あの二人が夢中になっている隙にお借りしました!」


「リカオン、それ、使えるの?」


キンシコウは、不安げな目をして尋ねた。


「大丈夫です!なんか見た瞬間本能的にっていうか・・・

もしかしたら、自分の武器って・・・これかもしれませんね!」


揚々と答えた。


「これで迎え撃ちます!!先輩の為にっ!!」






サングラス越しに森下の動きの隙を狙う。

いくら有段者とはいえ、完璧では無い。

観察力なら、優れていると自負している。


(・・・そこだ)


鋭い拳が、彼の頬に突き刺さった。



「・・・」


殴られた彼は、暗い顔をする。

そして、沈黙したまま、眉間にシワを寄せる。

瞬時に、右手を引き彼女の腹に突きを喰らわせた。


「グッ...!」


後ろによろめく。

間合いを詰められ、更に追い打ちを掛けられる。


「うあっ...」


その声と共に、身体が宙に浮きあがった。

グラスが外れた。



「せ、先生っ!!」


「す、すげえアッパーだ・・・。あんなの初めてだ・・・。

人間じゃねえよ・・・」


職員の肌に鳥肌が立つ程だった。



後に倒れた彼女を見つめる。


「顔は古傷が痛むんだよ・・・」


「くっ・・・」


右手で顎下を撫でながら、立ち上がろうとする。


「何者だ」


「私は・・・、ただの作家ライターさ!」


その動きは素早かった。


「・・・!」


森下が身構えるより前に、素早く彼の腹めがけ、

報復と言わんばかりの鋭い突きを喰らわせた。


「!!」


間髪を入れずに、顔に2回喰らわせる。

トドメにもう一度、腹に喰らわせた。


あの大柄な森下を先程自分と同じように倒したのだ。


息を乱し、倒れた彼を見つめた。


「あ、あの森下さんを倒した!?つ、強すぎるだろ・・・」


職員は驚いて声を上げた。


「当たり前じゃないですか...、先生は強いんですからっ」




リカオン達は、職員たちを全て倒した。


「やりましたね、先輩!」


「あなたの機械の扱いも上手でしたよ」


「成長したな、リカオン」


二人に褒められリカオンは照れくさそうにしていた。


「ところで、アイツは・・・」


ヒグマは後を向き、駆け寄った。



「先生!大丈夫ですか!!」


「ああ・・・、なんとかね」


サングラスを拾い上げ、元通りに掛けた。


「あの人は・・・」


「最後の一発は野生解放してやったよ・・・。

あーでもしないと、こっちが倒されてるね」



「おい」


ヒグマが立っていた。


「タイリク・・・、ありがとな」


「なに、偶々通りかかっただけだよ・・・。

キリンが地図を逆さまに読んでなかったら、ここには来れなかった」


「不幸中の幸いですね!」


何故か自慢気に話した。


「ところで、それは・・・」


サングラスを指さす。前々から気になっていた。


「ふふっ、気に入っちゃってね。何か、いいでしょ?」


「はぁ・・・」


彼女の説明は曖昧で、同感できなかった。




「も、森下さん!」


職員が駆け寄って、声を掛けた。


「大丈夫・・・」


上半身を起き上がらせる。

3人はそちらを見つめた。


森下も見つめ返す。これ以上やりあうつもりは無さそうだ。


「強烈だったわ・・・」


(あっ、口調が戻ってる・・・。いつもの森下さんだ・・・)

安心したのと同時に、またうんざりした。


何故か、タイリクの方を見ている。

サッと立ち上がり・・・


「えっ」


「さっきはゴメンね~!痛く無かった?ホントにゴメンねぇ!」


いきなり頭を撫でられ、先程のヒグマの様な扱いをされた。


「な、なんなんだ・・・」


サングラスの間から困惑した目をこちらに見せた。


「あの、森下さん・・・、過去に何かあったんですか」


そう尋ねたのは職員だった。

タイリクオオカミを離れると、ため息を吐いた。


「図書館に向かいながら話すわ...。来るなら来なさい」



ヒグマはリカオンとキンシコウを呼びつけ、

タイリクとアミメキリンと共に、図書館へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る