第5話 策略

上野はNTC環境研究所に来ていた。

施設内の廊下を歩いてると白髪で白衣を着た全身真っ白な男に声を掛けられた。


「おお、上野社長!丁度いいところに来たのお!」


「どうしたんですか。赤坂博士」


「今からフレンズの実験を行うとこじゃったんだが、見ていかないかね」


「どんな実験ですか?」


「衝撃を与えた時の血管内部の様子について...」


「それなら結構、時間が無いんだ。

誰かに見てほしいなら秘書の新木場くんが見るよ」


「新木場さんかい?あの人は日比谷前社長が気に入ってたんじゃ...」


「彼女は仕事の為なら何にでも色を変えられる、カメレオンの様な人間さ。

社長がたとえ口を聞かない金魚であっても彼女は仕事を与えれば、勝手にやるような人間だからな。じゃ」


上野は靴を鳴らしながら、去ってしまった。


ガラガラガラ...


「博士、試験体を持ってきました」

職員がカゴを押してやって来た。


「おい!出せよお!」


「なんじゃいこの威勢のいいフレンズは?」


「ミナミコアリクイです」


「何すんだよお!」


「ははは。これは良いデータが取れそうじゃのう...」


「話を聞けよ!!ここから出してくれよ!!」


ミナミコアリクイの声が廊下に響いた。

その声に耳を傾ける者はいない。


そのまま、赤坂博士の研究室へと搬入された。






一方その頃パークでは...


「この平原に立ち入るとは...」


「いい度胸じゃないか」


ヘラジカとライオン、平原の主二人が見つめる先に立っていたのは、

白衣を着て白いシャツと黒ネクタイに黒いズボン。金髪で、前髪が長くマスクで口元を覆う不思議な人物だった。


彼は拡声器を取り出し、話した。


「僕は馬込まごめ

これより拿捕作戦を決行する。用意しろ」


後ろに控えていた職員は全員マスクを付けた。


「僕の開発した最新兵器を用いる時だ。相手はライオンやヘラジカ、リアルで会ったらガチでヤバい危険生物だ。

容赦なく使え」


「「ハッ!」」



「くたばんなよ」


「そっちこそ」


お互いの目を見合った。




一方その頃...


「おい、親父。上野に社長の座を譲り渡すってどういうことだ。教えろよ」


回転椅子をゆっくりと前へ向けた。

白髪で丸眼鏡が特徴的である。

しわの寄った口から、ゆっくりと言葉が出た。


「よい方向に進んだまでだ。

遠回りよりも近道をな。お前のプランと上野のプラン、天秤に掛け、精査し、

結果上野の方が得する事がわかった」


「フレンズの人身売買がか?人としてどうかしてる。アイツは現に俺たちを地下室に閉じ込めた」


「俺たち...。お前の後ろにいる奴か」


目立たない様に潜んでいたつもりだったが、かばんは恐る恐る、日比谷の横に出た。


「どうも...。かばんです」


帽子を取り、頭を下げた。


「会長の日比谷辰巳ひびやたつみだ...」


白い、嘗ての首相を彷彿とさせる長い眉毛を八の字に曲げる。


「...上野が言っていた珍しい品というのはキミのことか...」


大きな岩がゆっくり動くような声で

自分のことを言われていると思うと、

緊張する。


「親父、アイツは俺をここから追放しやがった。いくらなんでもやり過ぎだ。

なんとか言ってくれ」


眼鏡を上げ目を擦った。


「露骨過ぎる。私が上野のプランを飲んだのにお前の身を保証しろと...?

寝言は寝て言え。

私は上野のプランに賛成だ。

今、お前の父親で会長でもある私は、

上野の操縦する船に乗った。だが、お前は違う。言うなればチケットを持っていない客だ。そんな客に事前にチケットを持っていた奴が渡すか」


「親父はこの世界の現状をわかってるのか?」


真剣な眼差しで、辰巳を見つめた。


「現在の医学では解明できない謎の病で多くの人々が亡くなっている。

彼女を含め、フレンズ達は我々人間に対して残された最後の希望の光だ。

それを実験した挙句よくわからないヤツらに売り捌いて巨額の富を得ようだなんて...。確かにこのプランには、多くの損失が出る。だけど、出た分は取り戻せばいいだけの話じゃないか」


「取り戻せる?100パーセントそれが可能という証拠はあるのか?お前はそれとも、先代から代々積み上げてきた物を一気の崩す気か?」


「そんなの、やってみないとわからないじゃないですか」


僕は遂にこの親子の話し合いに、

口を出した。


辰巳の視線がかばんに突き刺さる。


「なんで、分かりもしない未来の事を

数字で出そうとするんですか?」


その言葉に日比谷も、辰巳も呆気に取られたように沈黙している。


「損する分が少なくなる場合だって

あるじゃないですか...。

僕は...、日比谷さんをいい人だと思ってます。さっき地下で上野さんに閉じ込められて、サンドスターの供給を止められて酸欠になった僕を、助けようと必死に走ってくれた」


辰巳は視線を一度、日比谷に向けた。


「正直言うと僕は、日比谷さんの望む

未来が見てみたいです」


「親父。一度プランを全て白紙に戻そう。もう一度、考え直そう」


日比谷はかばんの言葉に揺れ動かされ、

そう口にした。


「白紙に戻す?バカバカしい」


刹那、後ろから声が聞こえた。

咄嗟に振り返ると、そこに居たのは


「チケットを持っていない客は、

今すぐ船から降りるべきだ...」


「上野...!」


僕は、身を隠すように日比谷さんに寄った。








へいげんは白い霧に包まれていた。


「うっ...、目が痛いですぅ...」


「何ですのこれ...」


ヤマアラシとシロサイは片腕で目を抑える。


「二人とも!後ろっ!」


「そこですかっ!」


空を飛んでこの煙を避けたハシビロコウの指示でシロサイは槍を回した。


「グッ!?」


捕獲しようとした職員にたまたま当たった。


「このモヤが晴れないと何も出来ませんわっ...!」



「隙有りっ!」


「あっ!!」


ヤマアラシに1人の職員が襲いかかる。

手には青白い光を放つ棒。


「なあっ!?」


突然背後から片腕で首を絞められる。


「霧の中で動けるのはアンタ達だけじゃないでござるよ...」


(なんだコイツ...声が聞こえるのに姿が見えねえっ...!)


そのまま職員のゴーグルを外す。


「ア゛ッ゛!目、目があっ!!ウアッ!」


そのまま倒れ込んだ。

彼女は彼が手に持っていた物を回収する。


「ヤマアラシ、大丈夫でござるか?」


「ああ、カメレオンさんっ...

恩に着るですぅ...」


目を涙で滲ませながら彼女の姿を見ると、先程入手したゴーグルをヤマアラシに手渡した。


「へ、平気なんですか...?」


口を布で覆ったカメレオンは篭った声で答えた。


「修行してるから、これぐらいの刺激は大丈夫でござるよ...。しかし、この道具...」


「よ、よせ...、さわるな...

それは、一発で人も動物も気絶させる電流を...」


カメレオンが、その道具で職員の体をつついた。


「ガッ....」




「なるほど、恐ろしい物でござるな...シロサイ殿のゴーグルも入手するでござるよ。ところでアルマジロ殿は...」


「あれ、さっきそこに...、まさか...」




「このアルマジロ重いっすね...」


「口じゃなくて足を動かせ!

この催涙ガスに紛れて逃げんだよ!

あくしろよ!」


「ん、なこと言われたって場所がどこだかわかんないっすよ...。本当に馬込隊長は...」


「そこのお二人さん、お困りですか。

道を教えて差し上げましょうか?」


「ええ、是非とも教えて...」


「教える前にそいつは返してもらうぞ」


「えっ?」


ドンと、何かで叩かれた。


「あっ、痛てぇ...!」


「どうした?」


「ここだ!」


「うあっ...」


二人とも気を失った。


「やりましたね、オーロックス」


「こんなガス如きにやられてたら、ライオン様の警護が勤まらないって」


「アルマジロさんを安全な場所へ連れてきます」


オリックスはアルマジロを抱きかかえた。


「先導は任せろ」


「ありがとう...」




そして、ヘラジカとライオンは催涙ガスの撒かれていない地帯で馬込と戦闘状態にあった...


「何だアイツの身のこなしは!」


「ウチらでここまで手を焼くなんて...」


「ハハッ、元は動物でも今は人の子!

薬品の魔術師の異名を持つ僕に勝てる訳が無い!」


間合いを取り、様子を伺う。

馬込は両手に霧吹きを持っている。

近づくと噴射され、咳ごみをしてしまい、話にならなくなる。


「あの手に持ってるやつを何とかしないとね...」


「ああ、そうだな...」


二人が思考している最中、空中から声がした。


「ヘラジカさん!ライオンさん!これを付けてください!」


上を向くとハシビロコウがいた。

彼女はゴーグルを2個落とし、急いで戻って行った。


「ハハッ、そんな物、僕の前ではただのファッションアイテムにしか過ぎない。

森の王と百獣の王、そろそろ現実を見たらどうだ?」


「...なあライオン、一つだけ、案があるんだ」


そう言って耳打ちした。


「いいよっ...、やってやる」


馬込は長い棒を持ち出した。


「おしまいです」


マスク越しに笑顔を見せる。


「おしまいなのは...」


「どっちかな?」


ヘラジカとライオンは構えた。








「上野...!」


日比谷は唐突に現れた上野を睨んだ。


「もうお前はここには必要のない存在だ。早く出ていけ」


高圧的な態度を取る。副社長の時とは360度違う。


「...かばんと言ったね。

我々としても君に協力してもらいたい

立場にあるんだ」


「...いやです」


即答だった。


「まさか君が日比谷の側に付くなんてね。それは私も予想外だった。

…ああ、会長にお話があったんですよ」


日比谷を押しのけ、前に出た。


「なんだね」


一枚の紙を差し出した。


「今後の計画です。日本では今、少子高齢化に重ねて疫病が流行っている。

このままでは日本という国自体が消失する可能性がある。そこで、自治体にサンドスター供給機を売り込み設置、フレンズが生活出来るようにする。

そして、不足した労働力をフレンズ賄わせる。俗に言うブラック企業の待遇をしても彼女達は文句のもの字も言わないでしょう。ここまではこの間ご説明したところです。新しいのは次のところです」


「“人工的にフレンズを生み出す?”」


辰巳は上野の顔を見上げた。


「ええ。本来、固形物であるサンドスターが動物、“もしくは、それ以外”の物に当たって形状変化します。しかしこのサイクルは効率が悪い。単刀直入に言うと直接、フレンズを生成するということです」


「なるほどな」


「我々は既にサンドスターを気体にする実験を行い、成功しています。

何十年か前のセルリアンの発生のような惨事も起きていません。

これは確証を持って成功するということを断言できます。で、予算がそちらに書いてあります。会長の息子さんより現実味がある魅力的なプランでしょう?」


「いいだろう。私は君の船に乗った。

あっちの何処に行くかわからん小舟じゃなくてな」


「ありがとうございます。

それでは」


上野は去り際に立ち止まった。


「かばん、日比谷といると良い事ないぞ」


と、捨て台詞を吐き、部屋を出た。


「...」


「親父には失望したよ。俺よりあんな奴を取るなんてな」


「今お前達に出来る事は何も無い」


冷たく言われた。


「行こう」


「...あっ」


日比谷はかばんを連れて部屋を出た。







「野生解放...」


ヘラジカは目を輝かせて馬込に向かう。


「小癪な...」


左手で棒を向かってきたヘラジカに向ける。ツノが自身に届く前にその棒で押さえ付ける。

強い電流が身体中を駆け巡る。


「ウッ...!」

(ライオン...!今だ...!)



「とりゃあああああっ!!!!」


後ろからスキを突いてライオンが殴り掛かる。

馬込は空いた右手で白衣の内側から手馴れた様にスプレー缶を取り出しライオンに吹き掛けた。


「うあっ...!」


ライオンの動きが一瞬止まった。


「君も限界なんじゃないか、ヘラジカ」


押さえ付けている棒を前に押した。


「グハァ...」


力なく後ろに倒れ込んだ。


「き、貴様...、ライオンに何を...」


「安心しろ。マタタビを吹きかけただけだ。ライオンに効くかは半信半疑だったけど、有効みたいだ」


ライオンに目をやると、酒に酔ったかのように顔を赤くし、のたうち回ってる。


「武士対自衛隊の戦いと同じだ。

基礎体力と科学力では、科学力が勝るに決まっている。君達ももう戦えまい」


「こんなことで...」

ヘラジカは手のひらで草を思いっきり鷲掴みにした。


「しかし驚いた。人も一発で気絶してしまう物を耐え切るとは。

いい素質を持ってる。上野さんが気に入りそうだ」


馬込はまたポケットから瓶を取り出した。

粒状の物を手のひらに載せると、弱っているヘラジカに無理矢理飲ませた。


「あうっ...」


ヘラジカはそのまま気を失ってしまった。


同様にライオンにもソレを飲ませた。

マタタビの影響で足を掴まれたりとされたが、なんとか気を失わせることが出来た。


無線機で呼び掛けた。


「ガスが無くなるまでに全員撤退しろ!C地点に応援頼む!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る